2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その13








「見つけたぜ、オレの鼻は誤魔化せネエ。芦河ショウイチっての。」

 人気も無く車も通る事の無いトンネル。
 足を引きずり、歩道の手摺りに掴まりながら辛うじて歩いているショウイチの眼前に、立つのは光夏海と門矢士。士はしかし片目が赤い。左髪だけが逆立っている。

「この間と違うな。だが言う事は同じだ。オレに近づくな。」

 肩で息をしているショウイチ。

「あいつ、あの後もなんか戦ったんじゃねえか、」

「詮索は後だ赤いの。そんな事よりオレから出て、ヤツに取り憑け。そうすればどうとでもなる。」

「色で呼ぶな!この野郎!!貸し1だからなぁ!」

 士の体から放出される光の珠、トンネルの上下を飛び跳ねてショウイチの周囲を伺う。

「なんだこの攻撃は、ぐぉ」

 ついには思うように動けないショウイチの肉体に飛び込む。途端藻掻き苦しむショウイチ。

「感謝しろ。今日からオレが、アンノウンから守ってやる。」

 イマジンの抜けた士が気取っている。

「士クンが、人を守る?!」

 それまで黙っていた夏海があまりに類型と違う言葉に思わず声を上げた。

「・・・、なんだ、これは、そうかコイツが、憑いていたから、そこの女もおまえも、だが・・・ふざける!」

「拒絶したか。なんてヤツだ。」

 汗を吹き上げながら、吠えるショウイチ、入ったはずの珠が体内から圧し出される。狼狽えて言い訳しながら宙を舞うしかないイマジンの珠。
 ショウイチはあざ笑った。

「オレを守るだと、」その笑いはあるいは自嘲。「この化け物を!」

 ショウイチの腕の先から人外のモノが飛び出す。それは触手。甲殻のジャバラ繋ぎの、血の色の触手だ。

「あ」

 伸びた触手が夏海の細身に絡まり、ショウイチの元へ強引に引き寄せる。

「残念ながらその夏みかんは、絞ってもおいしいジュースにはならないぞ。」

 突き飛ばされる夏海、
 そんな士の態度が通じた訳ではない。ショウイチの内部からわき起こる激痛に夏海どころでは無くなったのだ。

「こんな姿の化け物をな!」

 ショウイチから滝のような汗がわき出る。いや汗では無い。肉体の水気が全て吐き出され、固体化し、ショウイチの肉体をくるむ。いやショウイチの肉体を人でない別の何かに変貌させた。
 緑のライダー、『ギルス』、しかもその中でも攻撃的に進化した『エクシード』。

「ギルス、アギトの世界というのは本当だな。変身!」

 即座に対応する士はバックルにカードを装填。ディケイドへ。

「消えろ!」

「オレはアンタと戦いに来たんじゃない。」

 変身した上でゆっくりと間合いを詰めるディケイド。

「オレは・・・・」

 変身してまだなにか呻いているギルス。いやはっきり苦しんでいると言っていいだろう。ギルスの体内では自身どうする事もできない躍動が駆け巡り、呼応して遠くから聞こえる耳鳴りが途切れない。

「呼ぶな、オレを呼ぶな、」

 ギルスは眼前のディケイドにも、倒れる夏海にも語りかけていない。ここにいない誰かに向かって叫んでいる。
 訝しむもディケイド、

「大人しくしてろ!」

 ギルスの背中に回り込んで抑え込もうとする。しかしギルスの獰猛なパワーに極められず弾き飛ばされるディケイド。

 うぉぉぉぉぉ

 ギルスは野生の彷徨を放ち、体内の躍動に苦しんでいる。

「ケダモノにはケダモノだ。」

『KAMEN RIDE KIVA』

 チェンジしたディケイド-キバ。ライダー中もっとも秀でた突進力で一気に間合いを詰め、エクシードギルスの腕に生える鎌を掻い潜って首を掴む。掴んでなお突進し「虐滅」の落書きの入ったコンクリート壁へギルスの頭を叩きつける。

 うぉぉぉぉぉ

 だが頭からコンクリートを粉砕したギルスにダメージが見られない、即座に両腕から触手を伸ばしてディケイ-キバの首に絡め反対の壁へと突き放す。

「骨のあるヤツには何度でも遇っているさ。」

『FORM RIDE KIVA GARURU』

 コンクリートに圧し付けられながらもさらにフォームを変えるディケイド。ガルルの牙で触手を噛み切り、着地してガルルセイバー、そしてライドブッカーをソードモードにして左右の腕で構えた。ガルルの刀身にブッカーの刃を滑らせる。

 うぉぉぉぉぉぁ

 彷徨して突進してくるギルス、両腕から生える刃をディケイドに向ける。
 対してディケイド、ガルルの短刀で受け流しブッカーの長刀で上から斬り込む。
 ギルスもまたもう一方の刃で受け止めた。
 この獣の動きと力が瞬きする程の間に展開される。
 鍔迫り合いに雪崩れ込み、拮抗する両者。
 ギルスが口を開いて噛み付き、ディケイド-ガルルも首筋へ噛みつく。
 ここで防具と直の肉体の差が出る。真紅の血を吹き上げるのはギルスのみ。噴水のように流血し、ディケイド-ガルルの全身が血に塗れる。
 悶え苦しみ、触手を両腕から伸ばしてディケイドの肉体を絡め取るギルスは、肉が千切れるのも構わず強引に引き離す。
 互いに鞘に収めるようなテンションでは無くなっていた。このままでは真の敵と戦うどころか差し違える危険さえあっただろう。

「そうやって波風を起こされる事を非常に主は嫌う。従って、面倒なおまえたちは、消えてもらう。」

 それは黒い上下のスーツにタイが無く第一ボタンを外した白すぎるアンダーシャツを纏った少年。スーツと揃いの帽子を斜めに被って縁を指でなぞっている。

「夏みかん・・・・?」

 少年ではない。それはよく見ると男装した光夏海。目の光は暗い。

「おい、カドマツ、4つのイマジンがおまえの女ん中に入ってたぞ。こらボケ!」

 モモタロスの光の珠が宙を浮かびながらそう叫んだ。

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