「士クン、今度は」赤く腫れた目を拭って、震える唇を強く噛んで我慢した。「今度は私タチで旅の行く先を決めて、ユウスケを取り返して、」
取り返した後、2人で小さな家を建ててそこでずっと暮らそう、
私のそんな想いは、たぶん旅に疲れていたからだと思う。
「・・・・・・・」
士クン、ディケイドはずっと私の顔を見ていた。早く素顔を見せて欲しかった。
ディケイド、
私はあの夢の中ではじめて見たディケイドの顔と、そう言った私を思い出していた。
「友情とは、友の心が青くさいと書く。」
もう1人の仮面ライダー、ソウジさんが片足を引きずってディケイドの肩に手を置いた。結局一生このままで生きていく事になるんだ。ソウジさんはそれでも強がって精一杯の手向けをくれたんだと思う。
ディケイドがゆっくりと振り返った。
「そう言えば、おまえにはあの時借りがあったな。」
信じられない事が起こった。
士クン、いやディケイドがもう1人のライダーに向かって大きく足をすり上げ蹴り込んだ。ソウジさんは大きく仰け反って倒れ込んで、その衝撃で異物になった右足がボロボロに砕け散った。
「ディケイド・・・・」
あの夢も風が耳元でうっとおしくて、煙の匂いが煩わしかった。
「じいや、戻るぞ。アジトへ。」
私の方へ向かってディケイドが叫んだと思った、でも声をかけたのは私の掴んだ手で袖が湿っていたお爺ちゃん、光栄次郎の方だった。
「ごめんよ、夏海、本当の孫でもかまわないと思ってたんだ。」
光栄次郎が袖を強く振りほどいて、ディケイドの元へ歩み寄っていく。
「ハッ!大首領!」
お爺ちゃんの別人の声が私の耳を犯した。
孫じゃなかった、じゃあいままで私はなんでお爺ちゃんと思っていたんだろう、お爺ちゃんがお爺ちゃんじゃなかったら、私の本当の家族はどこなんだろう、思い出せない。
「士クンっいや!」
私は誰に縋るともになく士クンの名前を叫んで手を伸ばしていた。
ディケイドと光栄次郎の目の前にオーロラのカーテンが現れて呑み込んでいく。
「夏海、全て忘れろ、もう会う事は無い。」
手が届こうとしたその時、カーテンがディケイドを消した。私はずっと、ずっとずっと手を伸ばし続けていた。
風が耳元でイヤな音を立てて、膝を着いた地面はごつごつ痛くて、まだどこかで臭い煙が漂ってて、見渡す限り緑も人の家も無い荒野だった。
私はいままで何をしていたんだろう、私の家族や私の友達、士クンに会う前何をしていたんだろう、思い出せない、思い出せない。
「ディケイドっっ!」
私どうして、いままで自分の記憶が無い事を不思議に思わなかったんだろう。
(完)
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