晴れる砂塵の中心は大きく抉れたクレーター中央。
右腕を軽く上げるだけで構えるその者は、マゼンダのボディが硬質なシルバーを基調としたカラーへ上塗りされ、複眼は逆にマゼンダに発光。もっとも目を引くのが斜めに走ったゼブララインに代わり配された9枚のカード、左肩から胸を横断して右肩に達するマゼンダレールに乗って9枚の、それまで巡った世界のライダーの顔の描かれたライドカードが並ぶ。だがカードはもう1枚ある。それは額、今のディケイドの姿のカードが装着されている。そのカードに描かれたディケイドの額にもカードが着けられ、そのカードのディケイドにもカードが、無限のディケイドがそのカードには描かれている。バックルのドライバーはベルトを伝って右腰にカード差し込み口を空けた状態で移動、ディエンドから貰った元の位置にケータッチが差し代わっている。これこそ『ディケイドコンプリートフォーム』。歩く完全ライダー図鑑だ。
「ツ・・・・カ・・・・サぁ!」
蹴撃したクウガ、その攻撃力はディケイドを伝って地面を抉り、大気を揺るがしたが、ディケイドコンプリートの右腕一本で弾かれ、顔面から突っ込んで土を咬む。
起き上がったアルティメットクウガの硬質な口元がその時初めて開いた。
「オレは、おそらく今のおまえには勝てない、ユウスケ。」
吠えたクウガの背後に既に立つディケイド。
賺さず振り返り右前腕を再生させ直刃状に延ばし振り抜く。
手応えの無い残像が立ち消え、ディケイドの姿が完全にクウガの視界から消える。
「だが今おまえの前に立っている者には、ユウスケ、おまえは勝てない。なぜなら、」
遙か遠くから士とユウスケの名を叫ぶ女の金切り声がする。
クウガの聴覚がそれとは別に、風が揺らぐ低音を捉え振り返る、しかし既にディケイドの姿はない、反対方向から再び低い唸りを捉える、やはり振り返っても姿を捉える事ができない。
「なぜなら、これはオレ達の旅そのものだからだ。オレ達の積み重ねに、オレ達が勝てるわけがないんだ。」
クウガ、もはや目で捉える事を諦め、俯いたまま動かなくなる。そうして徐に左拳を握りしめながら上げ伸ばし、ある一点を指し示す。
発射、
左前腕が胴から切り離れ、噴流を上げながら射出される。
突き当たる腕の前面に現れるディケイドの姿、踏ん張るディケイドの足が地面を引きずる。
動きを止めたクウガがゴウラムに変身しながら今度はその身ごと突っ込んでいく、
その容積の数百倍ある噴流を上げる腕を片腕の握力だけで潰して勢いを止めるディケイド、
既にゴウラムが鋏角を拡げ眼前に迫る、
捕えられるディケイド、捕らえられながら直上を一直線、
ゴウラムの大気を切り裂く音がディケイドの耳に劈く、だがある瞬間その音の一切が消える、ディケイドはもはや雲が下にしか見えない事に気づき、地球のゆるやかな弧と大気に色がある事をはっきりと見て取った。
鋏角がゆるんでディケイドが落下していく、
跳躍頂点でゴウラムはクウガへ、
落下していくディケイドに蹴撃で加速、
互いの姿が摩擦で灼熱、
激突する大地、
クウガが離れても受けたディケイドの勢いは止まらず地面を一直線に抉る、
50メートルを越える土の山が半月状に盛り上がる。
震動が崩壊した電波塔の残った家屋を総崩れさせる。
「ツカサっっっっっっっ!」
瞬く間に腕が体内から物質変換されるアルティメットクウガ、今度は両腕を射出、
爆炎あげて土盛りへ突撃する2つの前腕、 着弾と同時に消し飛ぶ土盛り、中より現れたディケイドの胸に2つとも食い込んでいくクウガ前腕、
「ユウスケ、いくぞ。」
さらに噴流をあげる前腕にしかしディケイド、まるで意に介さず歩を進め、クウガへの間合いを詰めていく。
クウガは徐々に腕を再生させ身構えている、
歩み寄りながらディケイド、クウガ前腕を握り潰して噴流を止め祓う、
ディケイドの胸に二つのクウガの紋章、ディケイドはそれを気合い一つで消し去った、
3メートル、2メートル、1メートルまで間合いを切ってディケイドが足場を固めた。
「ツカサぁ!!」
クウガの拳が鎌のように振り上がる、
「ユウスケっっ!」
既に上体が沈んだディケイドの拳がアマダムへ。
そのたった一発だけだった。
ツ……カ……サ…………ッ!
クウガのアマダムがバックル内部で縦に割れる、地に崩れるクウガ、悶え苦しみ、体を土に塗れさせる。
「終わりだ、ユウスケ。」
悟ったディケイドはケータッチからカードを抜く。ボディがあのマゼンダピンクに修復された形で戻る。その顔も仮面に覆われた。
ツ……カ……サ…………
震えた手をディケイドに伸ばすクウガ。
「立てるか?」
それは攻撃かもしれないがしかし、構わずディケイドもまた手を差し出した。
上体を持ち上げるクウガ、その背に突如としてカードが刺さる、
「返せ海東!」
瞬時にしてそれが、ディエンドの投擲した『ケルベロス』のカードである事を見て取るディケイドは、しかし同時に銃撃を喰らった。
宙に浮くケータッチ、ディケイドの手を離れ、なにか透明な存在が持ち運ぶように宙を流れて、ディエンドの手元に収まる。もう一方の手には『ケルベロス』ともう1枚のカードが既に握られている。
「いやだなぁ士、コレをディエンドが管理する仕様にしたのは、そもそも君じゃないか。」
「私タチのユウスケを返して!」
目を腫らした夏海が栄次郎の手を引く形で駆けてくる。
「おやおや、むしろ感謝して欲しいな君達。アルティメットクウガはあのままだとアマダムの暴走でどうなっていたかわからない。このエネルギー、ボクのお宝にさせてもらう。」
ケータッチを自身のバックルに収めたディエンドは、ディケイドを威嚇しつつもカードをドライバーに装填、
『ATTACK RIDE INVISIBLE』
銃撃が止んで一気に間合いを詰めるディケイドの拳がディエンドの残像を掠めた。
「海東・・・・」
ディケイドは自分の握り拳を見つめるしかなかった。
電波塔は既に跡形無く、大地はさらに巨大な瓦礫で散乱している。風は絶えず砂塵を巻き上げ皮膚に細かく掠り、空は黄色みがかった白。どこを見ても緑の見えない世界が、ディケイド達が今戦った跡だった。
「士クン・・・・・・」
息を切らし、その柔らかい頬に土がついた夏海は、ディケイドに伸ばした手の先に、あの2眼のトイカメラを掴んでいる。
ディケイドはしばらく夏海の顔を見つめていた。表情は分からない。
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