2013年1月3日木曜日

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その2





「あの子は、しばらくダメだな、」

 翔太郎はトレードマークのソフトフェルトを一旦脱いでロン毛についた埃を適当に祓い、帽子の中から埃を一息祓って被り直した。

 男の目元の冷たさと、優しさを隠すのが、こいつの役目だ、

 だから翔太郎は念を入れて目元をソフトフェルトで隠す。そう言われたからだ。それは相棒のフィリップからではなく、当然親からでもない。翔太郎がこの世でもっとも帽子の似合うと焦がれる男からだ。

「フィリップ、オレがこの世界からそっちへ戻るには、確かにあの子が必要なんだな?」

 翔太郎の言う通り、あのディケイドが次元の彼方へ消えてから、取り残された3人、鳴滝によって次元から召喚された翔太郎、この世界のライダーであり今や片足が永久に失われたソウジ、そして異世界でひとりぼっちの境遇に落とされ機械的に破壊されたカードの破片を拾い続ける光夏海、の3人は倒壊した電波塔の瓦礫が散乱する荒野に立っていた。残された彼らに、生還への帰路という謎が拡がり、あるいは道なしという答えを探り当てるかもしれない。
 翔太郎は『スタッグフォン』で自分の世界の相棒と連絡できる事だけが唯一の頼みである。

『おそらく全てを知っているはずの光栄次郎が、今の今まで手元に置いて旅をしてきたんだ。今彼女を確保しておく事は、君がこちらの世界に帰還する唯一の糸口だ。というより彼女ぐらいしか手がかりが見あたらない。翔太郎、一度直接話したい。出してもらえるか。』

 砂塵が突風となって、翔太郎の中折れ帽を揺り動かす、慌てて直す翔太郎の耳と鼻に感覚で分かる程の砂粒が入り込んでくる。先の戦いの熱量が拡散するまでこの強風は止まらないだろう。

「相棒、」翔太郎は頬の泥をつけて放心する夏海を眺めていた。「オレも、違った意味であの子が切り札だと思うぜ。オレは見たんだ。あの門谷士の背中を。あいつの背中は泣いていた・・・・、ああいうやつが、あの子をこのままこの世界にひとりぼっちにするはずがない。」

 大気が強風によって洗われて吸い込まれそうな澄んだ青空が広がる。照りつける太陽がはっきり分かる濃い影を3人に差す。
 翔太郎はスタッグフォンを耳から離して画面を眺め、項垂れる少女、夏海の元へ足を向けた。

「光夏海、オレの相棒がアンタと直に話したいそうだ。どうする、そのままいつまでもボーッとしててもいいぜ、オレにはそんくらいの時間をあけてやるくらいしか、アンタの慰めになってやれねえからな。」

 顔に煤をつけて放心する夏海は、それでも表情が変わらず、目だけ一瞬翔太郎に向いた。

「すいません」

 翔太郎は力無く片手をあげて受け取る夏海に、重症だ、とだけ感じた。

 半熟のおまえに帽子はまだ早い、

 実感した翔太郎は少女を相棒に任せる事にして、もう1人、片足を失って動けない偉そうな男の元へ歩を進めた。
 夏海はまた言った。

「すいません」

『君が光夏海君だね。まずボクの質問に答えてくれたまえ、君は、門谷士に会う勇気がまだ残っているかい?翔太郎がこちらの世界に帰る方法を捜し出せば、君はあの門谷士と対峙する力を得るだろう。』

「・・・・・・」

 もし閉ざされた暗闇に、一条光を差されたら、追い込まれた人間のする行動は決まっている。
 光夏海の瞳孔に、意識が灯った。


0 件のコメント: