「おかしいなぁ、テレビが映らなくなっちゃったよ。おーい、夏海、士君かい?ちょっと申し訳ないけど、このテレビ見てくれないかな。お爺ちゃんは腰が痛くて動けないよ。」
と玄関が開いた音はしっかり聞こえているお爺ちゃんは、帰ってきたなり私ら2人に甘えた戯言を言った。いつもの事だ。
「つまり、貴方がこの世界を救うんですね。」
私は士クンの背中が大きく見えた。
「ああ、大体そういう事らしい。」
この時が静止し、窓から見える爆炎が間近に見えてるのに、呑気に構えているお爺ちゃんに私は何かが落ち着いた。
「撮ってみるか。9つの世界を。そうすれば・・・」
士クンの悦びとも哀しみとも希望とも使命感とも取れない顔を私は眺めた。決心する時の男の子の顔はカワイイ。
でもあの夢との関係はなんなんだろう。
もしあれがただの夢じゃないなら、士クンはいつか、ライダー達に・・・・・・
「分かりました。行きましょう。」
私はなぜかそう言ってしまった。
「なんで夏みかんまで行くんだ?」
煙たがってるようで、私の身の危険を案じてくれているのは分かってるんだから。
「士クン、アテになりませんから。」
でも実はすごく頼りになる事は分かってるよ私。
「それに・・・・・」
なんだか話の方向を変えなきゃヤバい気がして私は言葉を必死に出した。
「この機会に借金を踏み倒すつもりかも。」
士クンはそれに答えず、呆れたのか、それとも核心を突かれたのか読み取れない顔をした。少しじれったい。
「それでどうやって別の世界に行くんです?」
私はもうスッパリ切り上げて実務な話をした。
「聞いてない。」
なんだこいつ本当にアテにならないじゃないか。
「肝心な事を聞いて無いなんて、」
私は士クンをツボ責めしてやろうかと思った。
「人はさ、誰でも旅人だよ。」
祖父は時々頭がオカシイのではないかという気がする。聞いてるようで、聞いて無いようで、得体が知れない事を言う。詩人かよ。
祖父は窓から見える風景を夕焼けと勘違いしたのだろう、店終いの時の日課にしてる写真館の背景ロールの具合を見ていた。
「あれ?」
いつも使い慣れた撮影用背景ロールを引っ張る綱になぜか今日は手間取ってるお爺ちゃん。何か引っかかってるようだ。これだから光栄次郎は。
「何やってるのお爺ちゃん。」
私が手伝ってやろうとしたその時、唐突に垂れ幕が落ちてきた。
「こんな背景見た事ないな。」
頭にクエスチョンマークがついてるお爺ちゃん。私も奇妙に見慣れない背景が降りてきてびっくり。士クンのいたずらかと顔を見たが、彼もやっぱり驚いている。
「山、灯溶山・・・・」
士クンは山の事を知ってるみたいだ。
だが問題はそれを背景にしてる人影。
マントを羽織り、何日も洗ってないような縮れて伸びた髪の顔の見えない男。どんな女性もそこまで伸ばさないだろう牙のような爪の指先が掴むのは一本のベルト。どこか士クンのあのバックルにも似ているけど、真ん中の珠のようなものが違っている。
私はその人影を見て、さっきの残酷な出来事を思い出さずにはいられなかった。
(0章了)
0 件のコメント:
コメントを投稿