『光写真館』を飛び出た士クンは、何故か、警官の衣装を纏っていた。階級は巡査。ミリ単位の着こなしのズレなんだろうけど、士クンが着込むと奇妙にだらしなく見える。ざまあみろ。
「凶悪犯、逮捕する、」
士クン、私の腕を急に掴む。
「ツボ!」
私は護身のお決まり技、腕を逆手にとって背後に回り込み、腕の痛みで硬直した対手に必殺「笑いのツボ」を突き込んだ。
「ハハハハハハハハハハハハハハ、無差別ツボ押しは犯罪だろ!夏みかん、いつか剥いてやる!」
セクハラ野郎を無視して周囲を見渡した私はある事に気づいた。
「ここ、どこなんです!」
隣近所が違っていた。前に舗装した道路なんて無くて、すぐ向かいに豆腐屋があったはず。街路樹なんて見た事ない。
「本当に違う世界へ来ちまったようだな。」
士クンは家の前のアメリカンポストを開いて朝日新聞の一面を眺めている。ちゅうか家は20年来の赤ポストなのに。
「未確認生命体・・・・」
士クンは新聞の一面の文字を口にした。私は即座に新聞を取り上げ続きを読んだ。
「学者の間ではグロンギという古代語の呼称が一般的に用いられている・・・・?」
「スポーツ紙には4号って奴が載ってるぞ。6号撃破だ!幼年誌の見出しかよ。」
士クンは隣家のポストからスポーツ紙を勝手に取り出し読み始めた。コイツなにやっとんじゃ。
「人ん家の新聞読むんじゃありません!」
私は凝固した。私の場合は眼に入ったのだ。そこに見覚えのある‘ライダー’が。赤いボディ。クワガタ、違う、鬼のような角。昆虫のような赤い眼。士くんのディケイドにも少し似ているこの一面の‘ライダー’がここでは4号と呼ばれてるんだ。
「どうやらここでは、警官がグロンギと戦ってるらしい。そしてオレの役割は、」
士クンは警察手帳を取り出した。ちゃんと士クンの顔写真が入っている。よく出来てる。
「門矢巡査。つまり、オレはグロンギと戦えって事だ。」
「そんな単純な!」
「戦ってグロンギを倒したら、こいつの力も取り戻せるかもしれない。」
士クンはこの間使って画がシルエットになった、力を失ったカードを束で取り出し扇に開いた。
「なんでそう男の子は勝手な思い込みで、」
士クンには私の言葉など聞こえてないみたい。
「特にこのカード、これが一番よくわからない。差しても何も起こらなかった。」
士クンが取り出したのは、他のように画がシルエットになっていない、ただ「DECADE COMPLETE」とロゴが打たれた以外真っ黒なカードだった。士クンはバカみたいに太陽に翳したりしたが、透けて何か見えるわけじゃない。
『警邏中の各移動に連絡。富士見二丁目の北二倉庫にて、未確認生命体の出現を確認。事件現場の指揮は、警視庁未確認生命体対策本部員が担当する。現場にて対応する署員は、対策本部員の指示に従い、未確認の接近に注意。負傷・事故等無いように注意されたい。以上、警視庁。』
それは士クンの肩口に付けられている警察無線。
「ほらな!」
士クンは、どういう訳か家の前に停まっている白い警官用の自転車に飛び乗った。脚や背が長い男が自転車に乗ると非常にかっこわるい。かっこわるいその背中を私は唖然と見送るしかなかった。
「お~ぉい、夏~海、おいで、おもしろいテレビがやってるよ~」
そんな私をお爺ちゃんの声は癒してくれる・・・・・訳ない。
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