「それは、君がかつて全てを失ったからだ。」
あの時の、影の男の声が突然ディケイドの耳に届く。
「なに?」
既にバックルからディケイドのカードすら放出され、変身が解ける門矢士。
「士クン、あれ、」
士が戸惑うのに気づいたかそうでないか、夏海が指差すビル、巨大なカニがその壁を這い上がり、上空にはトビウオのような化け物が空を飛び、やや金属質を帯びたトンボのような化け物を喰らっていく。
「ついに同士討ちか。」
「あの子達もきっと異世界の化け物に戸惑って攻撃してるのよ。」
「夏みかん、キモが座ったフリは疲れるぞ。」
呆然と眺めているしかない2人。
ビル周りで暴れる一体が力を失って落下したかと思うと、ビル屋上に直撃、ビルから爆発的に炎が上がり、一瞬でビル全体が炎に包まれる。
爆発の勢いは止まらない。もしかして甚大な怪物のエネルギー同士が融合したのかもしれない、爆発が爆球となって周囲を核のそれさながらに街全体に広がっていく。
瞬時に飲み込まれる家屋、
瞬時に飲み込まれる車、
瞬時に飲み込まれ、絶叫を上げる人々、
飲み込まれまいとする人々が逃げ惑う、
しかしヒトが走る程度の速さでは炎の広がりはすぐに追いつき呑み込んでしまう、
虎の皮ジャンを着た若者が呑み込まれた、
老人は呆然と呑み込まれた、
「いけない!」
「夏海、ダメだ」
夏海の眼前に今、母子連れが炎に呑み込まれようとしていた。思わず親子の方へ駆け出す夏海。巻き込まれるだけなのを直覚した士は夏海だけでも止めようとする。もしかしてこの時士と夏海は、自分が不死身で炎に巻き込まれても死なないと思っていたかもしれない。
「止まった、」
炎が止まる、
「時間が止まったんだ、」
親子も静止した、周囲の全て、息づくものが全てビデオの再生を一時停止したかのように動かなくなった。
「なんなの・・・・」
泣き崩れる夏海。彼女の心の臨界だった。
「おまえ、」
炎の中、士に向かって歩いてくる男がいる。あの影の男だ。炎のせいでまたしても顔が見えない。
「まだ少しは時間があります。」
「オレが、世界を救えると言ったよな。」
「ええ。」
影の男が言うと同時に風景が変わる。夏海も消え、街も消え、ただ暗闇が拡がり、影の男すら消え、士独りきりとなった。独りになる事に今日最大の恐怖を感じる士、しかしそれをはねのける心的ショックアブソーバーもまた彼の体に染みついていた。
「これは、」
士の眼前にいくつもの地球が見える。
「なにか、思い出しましたか?」
影の男の声だけが聞こえる。
「いや」それとなく眼を走らせ対手を捜す士だったが、声しか聞こえない。「戦い方だけだ。」と言って自分の事を晒す具に気づく士は話を切り替えた。「あれは全て地球か。」
「ええ地球です。」
「どうして地球が、こんなに、いやどうして融合・・・・」
「9つの世界に9人の『仮面ライダー』が生まれました。それは独立した別々の物語。しかし誰の望みか物語が融合を始め、世界が一つになろうとしています。やがて、全ての世界が消滅します。」
影の声は断言した。
「融合するでなく、消滅する、のか。」
「ディケイド、貴方は9つの世界を旅しなければいけません。それが世界を救うたった一つの方法です。」
「なぜオレだ。オレなんだ?」
「貴方は全てのライダーを破壊する者です。創造は破壊からしか生まれませんからねえ。」
なぜだろう、影の声は奇妙に悦の感情を乗せた。
「破壊者?オレは一体何者・・・・」
「貴方が旅を終えるまで、私と私の仲間が、もう少しこの世界を生き長らえさせておきます。」
風景がいつのまにか、先の炎が止まったままの世界へ士を引き戻す。夏海も見える。士はその姿を見ただけで、やや安心した。
(続く)
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