あふれ出るグロンギ、
これは黒い煙がもたらした警官達のなれの果てである。
煙はなお吹き上げ、麓の街を浸食しつつあった。その原因、最奥に位置する洞窟で吠える者こそ『ン・ガミオ・ゼダ』。既にそのベルトはグロンギの紋章から脱皮して、クウガのそれのようにアマダムが剥き出しに成長している。
ォォォォォォォォ!
ガミオが遠吠えする度に警官の遺骸がグロンギへと変貌していく。彼のベルトから吹き出される煙、黒いガスこそアマダムを増殖する唯一の存在であり、グロンギというひたすら生物兵器として滅ぼし合う存在の中ただ一つ種たらしめている性質の特殊なアマダムである。
「今度こそ、終わらせる!」
その充満する視界不良の中、マゼンダの閃光が走る、ガミオに閃光の一撃、ライドブッカーソードの刃がガミオを直撃する、ディケイドが全ての元凶であるガミオと対峙した、
折れる、
だがグロンギ一体をあっさり消滅させる程の刃が、ガミオの肉体の前にあっさりと折れた。ガミオの方は足下がややグラついた程度だ。
バゼゴセバレザレダ
「なんだって!」
既に拳での攻撃に切り替えているディケイド、
「オレはもう目覚める宿命ではなかった!」
だが打ち込まれるガミオの腹筋はビクともしない。
「そうかよ!」
連打は腹から胸、心臓の難しい位置まで打ち込まれたが、心地よい音だけが洞窟に木霊する。
「目覚めが早過ぎた。なぜだぁ!」
空しい連打が止まると今度はガミオの番だった。頭を掴まれるディケイドはガミオの片手だけで持ち上げられる。
「知るかぁぁ!」
今のディケイドは対手を呑む余裕が、セリフからすら伺えない。
「クウガもダグバも未熟なままなのに、究極の闇だけが起こってしまった、なぜだぁ!」
「ぐぁ」
投げ飛ばされ、洞窟に打ち付けられるディケイド。
「もう遅い、リントはグロンギとなり、この世を究極の闇が覆い尽くす!」
打ちつけられたディケイドを無視しガミオは、自らを黒い煙へと拡散し、大気に踊り出していった。
「ザギバスケゲル、ファイナルゲーム。たった1人淘汰された優良なグロンギが、再び全てをグロンギと化す。このサイクルこそがグロンギという生態。」
ディケイドが、朦朧としながら、いや朦朧になるまで脳を揺すられなければ思い出せなかった事を口にした。
「どちらにしても戦うだけの生物兵器になるという事です。」
光夏海の眼は絶望に呉れた。
ユウスケが警察病院まで八代を担いできた。八代とユウスケの事情を知る眼前の監察医、ツバキという男がたまたま玄関ルームにいなければ、グロンギ化するかもしれない八代の受け入れは数時間から数日手間取っただろう。 ツバキの説明は夏海の理解を超えていた。ツバキは、ユウスケの体内の霊石と同じ放射性物質が霧状になって人体に吸い込まれ、それが放射線を発して細胞レベルで人体を変質させていっているのだという。
「八代はここか。」
病院にズケズケと入ってくる士を見た夏海は、真っ先に士の切った唇に触れた。反射的に顔を仰け反らせ、夏海の細い指先を払い除ける士だった。
「どうしたのこれ士クン、」
「八代は助かるのか」
「このままですと戦うだけの生物兵器に。」
ツバキは夏海にしたのと同じ説明を士にも繰り返した。
問題は八代だけはその変化の兆候が遅延しているという状況である。これをツバキは、ユウスケとの接触によるものと推測した。グロンギのアマダムをクウガのアマダムは駆逐する。それはミクロ単位でも同じだった。ユウスケとの接触が頻繁である程にユウスケのアマダムにも汚染させられている可能性が高い。つまり八代の体内でグロンギとクウガのアマダムがせめぎ合っているのである。
「まどろっこしい。助かるのか助からないのか聞いている!」
「どの道、戦うだけの生物兵器。」
グロンギのアマダムが人体組織を変化させる。クウガのアマダムはそれを駆除していく。しかしそれは人体組織を再生させている訳ではなく、人体を蝕んでいるか、ユウスケと同じクウガへの変貌を加速しているに過ぎない。この変化が脳に達すれば、ユウスケすら兵器になるとツバキは断じた。
「奴を倒してみるしか道は無いのか。」
夏海は悲嘆に暮れた士を背中を見て分かるようになっていた。
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