2010年8月18日水曜日

1 クウガの世界 -超絶- その13

「・・・・・・ユウスケ・・・」

八代さんが目覚めたのは病院に担ぎ込まれて3時間くらい経ってからだろうか。ユウスケ君はその間ずっと八代さんの手を握っていた。八代さんの目覚めはたぶん一時的なものだと私でも分かる。

「姐さん!」

「ここで、何してるの・・・」

ユウスケ君は八代さんの強さに哀しい眼をした。

「オレは、アンタに誉めてもらえるのが嬉しかった。アンタに笑って貰いたくて戦ってただけだ。アンタがいなかったら戦えない!」

それは、プロポーズにも似た子供の訴えだったと思う。

「私はもうすぐ死ぬ。この体もグロンギに変わるわ。その時貴方は、私を殺せる?」

「できない!」

「私の笑顔の為に、あんなに強いなら、世界中の人の笑顔の為だったら、貴方はもっと強くなれるわ。私に見せて、ユウスケ。」

「命令かよ。八代刑事。」

「ええ、命令よ。」

哀しい失恋が、私の目の前で血の生暖かさと肉の感触の悪さを引き連れて映し出されていた。人はこんなにも温かいのに、どうしてこんなに残酷なんだろう。
ユウスケ君は八代さんを置いて、飛び出していった。
でもあんな風に言われたら、私なら出来ないと思う。



トイレの洗面所の水が止まらない。

「ガスで無くなった患者を運び込まないで!」

「まだかすかに息はあるんです!」

「未確認になって暴れ出すんでしょ!」

そんな受付の騒ぎが耳について離れない小野寺ユウスケは、何度も何度も顔を洗った。

「ユウスケ、」

何度も顔を洗い、その度に鏡を覗いて自分の目を見つめた。そうして何度めか顔を上げた時、鏡に士が立っていた。

「オレは・・・・オレは戦えない・・・・」

ユウスケは鏡から眼を離さない。

「元々奴は目覚めるはずの無い存在だった。だが、オレ達の世界を襲った時と同じ、滅びの現象が起きはじめている。」

「オレ達の世界?」

「オレ達は、別の世界から来た。」

「だったら、とっとと他の世界に行けばいいじゃないか。」

士はそんなユウスケに背を向けた。

「そうだな。」



私はそんな士クンとユウスケ君を遠くから眺めていた。
士クンは男の顔をして出て行こうとする。 その顔はすごく怖かったけど、私は彼の腕を必死で掴んだ。

「貴方もグロンギになっちゃうんですよ!」

顔を見て、ダメだろうなという事だけは分かった。

「もしかしたら、元はグロンギと同じようなものかもしれない。」

士クンはもう私の言う事など聞くモードじゃない。颯爽とバイクに乗ってガスの方へと走っていた。

「ずぅと、ユウスケが心配だった。」

「八代さん」

私は仕方なく八代さんの病室に戻った。あのツバキって得体の知れない人は、看護士と相談して八代さんを別の、病院じゃないところへ移そうか相談してるみたい。

「私弟がいなくて。あの子の気持ちを利用してた。」

私は逃げ出したくなった。何かが重かった。でも逃げ出したら、私は一生これからの自分が許せないと思った。違う違う、私はただなにも出来なかっただけだ。

「これは罰ね・・・・」

「違います。そんな。」

私はどうしてこんなに格好をつけちゃうんだろう。だから、ダメなんだ。
八代さんの心拍をモニタしているグラフが、ゆるやかになっていく。
1台のバイクのエンジン音が耳につくまで、八代さんとどのくらいの間会話が途切れていたんだろう。

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