2010年8月18日水曜日

1 クウガの世界 -超絶- その4

「マっちゃん、マっちゃっ!」

そこは灯溶山の登山コース出発点である橋の上。ミニパトは煙を吹いて大破、9号と呼ばれる事になる『ゴ・バベル・ダ』。刺股でエンジンを貫通するとミニパトが爆破。中で気絶していた女性警察官1人があっという間に炭化した。接触襲撃されたところで車外へ放り出され、左の手足を複雑骨折した同僚の女性警官は、車外に飛ばされた事で逆に一命を取り留める事になった。

クウガ!

もう1人に刺股を向けたがしかし、バベルは背後に危険を感じた。
振り返ると異様に光る照明が見える。警察の緊急車両よりも疾く現場に到着したそれをDN-01改め『マシンディケイダー』と名付けられた事をバベルは知らない。

「違うな。」

マシンディケイダーを停車して降りる姿は既に変身されたライダーの姿。

「拳の強さを見せてみろ!」

構わず襲いかかるバベル。
刺股を横薙ぎ、
一の太刀をスウェーで躱し、返しの太刀をさらに腕でガードして弾くディケイド、
返しを弾かれると握りの位置の関係で重心が崩れる事になる、
対手の姿勢の崩れに隙を見いだしこめかみに拳を一撃、

「それよりちょっと話を聞かせてもらおうか。」

ディケイド、明らかに数段上のレベルの体術で得物持ちのバベルを圧していた。



「4人めの犠牲者。」

いち早く覆面で到着したのは八代。単身ではない。後続にバイク「トライチェイサー2000」に乗るユウスケが。2人だけで現場に先行したのは八代が警官全員に山を包囲させた事による。
炎上するミニパトを眺め、側近で倒れ泣き叫ぶ女性警官の肩に手を置いて首を横に振るくらいの事しかできなかった。

「9号は?」

ユウスケが聞くと、脱力感で言葉が出ない女性警官は視線だけを炎の先に向けた。

ガァァァァ

炎を潜って飛んでくる、いや飛ばされてくるのは9号バベル。
続いて炎を潜って悠然を間合いを詰めるディケイド。既にバックル90度回転させ、1枚のカードを装填している。

殴りかかるバベル、
受け止めて裁くディケイド、

「やはり連れてきたか。」

怯んだものの即座に体勢を立て直すバベル、
その隙を突いて顎先を揺するディケイド、 殴り飛ばした位置は先の炎の中、
ディケイドはいつのまにか八代達と9号の間に入ったポジションを取っている、
そしてバックルを元に戻した、

『FINAL ATTACK RIDE dididiDECADE!』

ディケイドからバベルの間に10枚の光の薄膜が出現、あえて言おう、人間大のそれをカードと、
ディケイド跳躍、
跳躍に追随する形でカードもせり上がり、せり上がりつつもバベルとディケイドの間を連結、まるでそれは軌跡、

「ふん!」

カードを次々と透過、その軌跡通りに突撃、

ン!?

呆然としたバベルのそれが命取りとなる。ディケイドのキックを食らい、アスファルトを小石のように転がって爆破、
クウガ=4号のそれは、クウガのアマダムのエネルギーとグロンギのアマダムとの連鎖反応での爆破だが、ディケイドのそれは本質的にディケイドのみが持つ破壊的なエネルギーがグロンギの細胞を物理的に爆殺する。

「なんだアレ、」そのデタラメさ加減を直覚するユウスケだった。

「10号?」

八代のそれは根拠の無い思いつき、不可思議な力を持つ者は全て未確認になりつつあるこの世界のあるいは世論の代弁だった。

「待て!なぜ同じ未確認を倒した!」

八代の言葉を鵜呑みにして叫ぶユウスケ。
そんな両者に背を向けながら軽く手を振るディケイド。

「オレは、グロンギじゃない。」

言うべき事は全て言ったディケイドは、マシンディケイダーに乗って反対側へと去っていく。

「答えになってないぞぉぉぉぉ!」

叫ぶユウスケの声が、山に木霊した。



あいつめ、私の事忘れてるんじゃねえだろうな、

「士クン、まさか自分の使命忘れてしまったんじゃ。」

光写真館は今日も暇だ。刺激が欲しい。

カランコロン、

「士クン・・・?」

じゃなかった。

「ここって喫茶店じゃなかった?」

男が聞いてきた。空気読めない奴、私が分かるわけねえだろうが。

「どう見ても違うでしょ!」

一目で上下関係が分かるカップル。女の人は細身の顔立ちに男臭い大きなコート。ああいう着こなしもあるんだな。今度やってみよう。赤いジャンパーの男は、もしかしてヒモか?

「ええ、ここ写真館です。」

私がそう言うと、この逆援カップル(断定)が気まずそうに扉を閉めようとする。そこへお爺ちゃんがひょっこり出てきた。

「コーヒー、自信ありますよ。どうぞどうぞ。」

ええ、商売になんねえだろうがお爺ちゃん。

「じゃあ、良かったらどうぞ。」

私はお爺ちゃんに従っただけですから。全部お爺ちゃんのせいですから。



お爺ちゃんは100円ショップで買ってきたドリッパーとフィルタだけで淹れる。こんなん客に出してええんかい、と口は出さない私。

「彼、何者だと思う?」

「未確認10号だろ。次は倒してやる。」

男の方は店のカメラのアンティークぶりに物珍しそうに触っている。まだ現役なのだ。壊したら弁償させて、新しいモノと換えてやる。

「彼は、グロンギよりも貴方に近い存在に見えたわ。」

おお、なんだかこの世界の核心に迫るような刺激の予感がする。私の耳は逃さない。

「オレに近い?」

「彼もまたグロンギと戦う者なら、もっと話を聞いてみたい。」

「なんの為に!オレの代わりに戦わせると言うのか!」

戦う者?士クンかな?というかこの男なにキレてんの?ホント空気読めない男嫌い。
テーブルを叩いた振動で、私が危うくコーヒーをこぼしてしまうところではないか。なんの三角関係か知らないけど、子供の男はホント嫌い。

「ユウスケ、」そう言って大人の女の人は私に頭だけ下げた。「貴方の力になるかもと思っただけ。」

貴方、なんて言ってもらえるんだぞこのKY男子(断定)。

「オレの、力ね。そうか。」

けどこのカップルは何者だろう。私の知りたい事に近い人達なんだろうか。そういえば大人の方のコートは刑事モノっぽく見えるぞ。もしや、彼って・・・・

シャッター音、

「士クン!」

と頭に浮かべたら、門矢士が背後に立っていた。こいつは私のスタンドかよ。

「はぁ~い八代刑事。」

ずいぶん昔のDVDで見た加藤茶のようなふざけた警官挨拶で眼が笑っている士クン。こういう時のこいつは、この八代と呼んだ大人の方から何か引き出したい時の態度だ。

「この方は?」

戸惑う八代さんを畳みかける士クン。興味はこのKY君か。

「この人は、小野寺ユウスケ。ちょっと捜査に協力してもらってるんです。」

ああ、この大人の人も士クンのペースに呑まれてる。食い物にされないだろうか。

「へえ。」とだけ言う士クン。もう知りたい事は知ったっぽい。その証拠に、「それより、未確認について、ちょっと思いついた事があるんですけど。」と話を別に切り返してきた。

「シロートに何が分かる。」

KYが突如士クンに口出ししてきた。マズイぞ。絶対こういう時の士クンは受けて立つ。

「いやあ、八代さんが4号とか言う化け物の世話しているのを見てて、お手伝いしたいと思って。」

何言ってんだこいつ。何を言ってるか飲み込めないが、人を挑発する時の顔だぞ。

「おまえ今なんテった?」

胸倉を掴まれる士クン。士クンとKYではやや士クンの方が背が高いのか。いや、そんな事より、KY君が・・・・・そういう事なんだ。八代さんも大変だな。そうか、だからか、なんとなく分かった気がする。断定訂正。

「話を聞かせて。」

一発触発に割って入る大人の八代さん。そんなにユウスケという子供君を大切にしてるんだな。

「!」

無言のどよめきがユウスケ君の顔に浮かんだ。士クンから手を離し、1人ムクれて写真館を後にした。
あの子は絶対八代さんが士クンの方を取ったと誤解したんだろうな。

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