2010年8月18日水曜日

1 クウガの世界 -超絶- その5

私は追いかけた。
八代さんも鈍感なのか警察の方へ士クンと行ってしまった。ユウスケという子に呆れたのかもしれない。けど八代さんとこの子が終わってしまうのはなんだか勿体ない。そんな気がして私はユウスケという子を追いかけた。

「なんだ。」

ユウスケという子はセンス悪いバイクのエンジンを吹かしていた。何度も何度も足でエンジンのレバーを下げる。でもエンジンが掛からない。後で聞いた話だが、このバイクはちゃんとセルモーターというボタン一発でエンジンが吹かせるのだそうだ。

「コーヒー代か。」

目当ての人が来なくてごめんね、とは言いたくない。

「貴方・・・・4号?」

私の背後で車が一台通りすぎた。

「だったら何?」

今横の道を走っていたタクシーの客はこちらを見ていた。たぶん私にとても理不尽な誤解で笑っているだろう。

「すごいなって思って。誰かの為に戦えるなんて。」

「誰かの為?オレは自分の為に戦ってるだけだ。戦わなきゃオレは、なんにも無いからな。」

ああなんて子供な。

「八代って人、貴方の事、本気で心配してる。」

その時驚いたのかなんなのか、バイクのエンジンをかけてしまうユウスケ君。

「なんだよおまえ。」

戦う運命の大事な人がいて、その人を助けられる人を見つけて、どういう形でも助けて欲しいって一生懸命お願いしてるんだぞ。
でもそんな事言ってもこいつに通用しないだろうな。

「アンタも、誰かを心配しているって事か。」

戸惑う私に、妙な事を言って去っていくユウスケ。私の話じゃないぞ。子供のくせに生意気だ。



「女性警察官の共通項は、誕生日。」

先の会議室。夜の八代の招集に警部や警部補連中はカリカリしている。
警部を退けて、巡査の警官-士がその椅子にふんぞり返り、茶のおかわりを要求する。

「誕生日?」

その茶わんに素直にお茶を注いでしまう頭髪の寂しい警部。なぜか警官-士の前だと警視クラス以上と対したような不思議な感覚になる。いや、ただ人がいいだけなのかもしれない。
頭を抱える警部の注いだ茶に口もつけず立ち上がってホワイドボードに向かう警官-士。

「この人は13日、この子は27日、こっちは5日、そしてさっき焼死した彼女は26日。」

数字をホワイドホードに一列に書き、何を思ったかその全ての一の位を円で囲った。

「ミ、ナ、ゴ、ロ、」

そして端に4を書き加えた。

「シ」

会議室にいる全員の頭が一つに閃いた。

「そうか、次は誕生日が4の数字で終わる者が狙われる。」

「全女性警察官の誕生日をチェックさせろ!末尾が4の数字の者を重点的に警備する。」

会議室の警部補全員が直覚して行動を開始した。だが八代だけは、その背後にいる警官-士の含み笑みが気になってしょうがなかった。

「少しはお役に立ちましたか。八代刑事。」

「貴方何者?」

八代はその大胆な推理力にではなく、たったこれだけの事でこうも警官達を手玉に取って思うままに動かしてしまえる、カリスマ、と言える力に、得体の知れない恐ろしさを感じた。



そこは灯溶山の奥深く、マクロな岩石が作った隙間ではなく、なんらかの破壊力によって綺麗に球型に空いた洞窟。
中央には石棺があり、なにやら暗い煙を吹き出している。

「僕のへそから伸びた花から君が、君の額からクウガが生まれた。」

その至近、2体の未確認を背後に従えた白いスーツの、あの男が棺をジッと眺めていた。

「何故これほどまでに早く目覚めてしまったのか。クウガも僕も全く未熟なまま出会ってしまった。」

黒い煙が充満しつつある洞窟の中、2体の、『ゴ・ベミウ・ギ』と『メ・ビラン・ギ』がなにやらグロンギの言葉を口走りながら頭を垂れた。

「そうだ。『ゲームの為のゲーム』を完了する。散れ!」

と言われ、2体の未確認は姿を消した。

「ゲーム、死も恐怖も超越した僕らがたどり着いたこの世で生を実感する為の所作。超越する前あれほど焦がれていたモノが、この煙と同じ暗く淀んだ世界とはね。」

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