2010年8月18日水曜日

1 クウガの世界 -超絶- その6

夜が明けた。
朝の光写真館は空気が静かに沈殿している。

「これもダメか。」

士クンは徹夜したみたい。
現像室を覗くと、自分で撮ったらしい写真を眺めていた。らしいじゃない、あきらかにどうやってそんな風に撮れるのかというレベルのピンボケ写真、間違いなく士クンのだ。

「この世界も貴方を拒絶してる?貴方がこの世界の人じゃないから、ですか?」

八代さんから勉強して貴方呼ばわりしてみる私。
士クンはできあがった写真を現像液に放置して、店先の方へ行く。

「分からない。」

士クンが向かう、昨夜八代さん達がコーヒーを呑んだテーブルには、あのディケイドのカードがズラリと並んでいた。

「分からないって。」

こいつ変なヤケ起こさないだろうな。

「これと同じだ。」

画像が曇ったカードを繰りながら、『COMPLETE』というロゴだけが入ったカードを1枚朝日に翳す士クン。

「9つの世界を巡るって言っても、何をしたらいいのか分からない。だから、」

「だから?」

士クンは拡げたカードを掌に収めて、店の玄関を開けた。不思議な事に警官の格好になった。

「取りあえず遊んでみる。グロンギって奴等と。」



八代もまた徹夜明けで車を走らせる。いい加減居眠り運転でパクられそうだが、そんな事も言ってられない。あの門矢士という巡査風の男が、八代を呼びつけた。違う可能性がどうとか携帯に連絡してきた。
呼び出された河原で長い脚を窮屈に折って座っている士を見止める八代は、即座に車を停車した。川のせせらぎは今日は荒い。

「どういう事?貴方の推理が間違えてたって。」

おそらく門矢士という人間性は、自分から間違えたなどと言わない。それは八代が記憶を脳内分析した結果だった。

「見なよ。」

士は八代に1枚の地図を拡げて手渡す。この灯溶山周辺の地図だ。門矢士は、灯溶山のロゴに赤いマジックでいろいろな線を引っ張っていた。八代が記憶と照合すると、それは女性警官達と灯溶山を繋いだ点と線であり、灯溶山を中心に見事に放射状の線となっている。もう一本、八代達が立つ地点のそれも含めて。つまり5つの地点と灯溶山山頂は、等しい距離にある。

「次に、女性警察官が襲われるのは、」

門矢士は地面を指差す。

「ちょっと待って、それって、」

八代は一瞬、身に危険を感じた。

「ここ。」

「あの山がどうしたって?」

第三者が現れる。小野寺ユウスケだ。

「やっぱり保険をかけておいたか。オレもそうする。あの山にグロンギの遺跡がある。そこに眠る『究極の闇』とやらを復活させる為、普段とは違うゲゲル、ゲームをしていたらしい。」

ユウスケが門矢士と八代の間に割って入る。

「ずいぶん詳しいんだな。グロンギの事に。」

「聞いただけだ。昨日のグロンギから。」

それはあの炎渦巻くバベルとの戦いの中、八代達が到着するほんの少し前の事である。

「聞いたって、だったら例のミナゴロシは、何?」

「嘘に決まってるだろ。女性警官の誕生日なんてグロンギがどうやって知る事ができる。山から等距離の5箇所、戦うリントの女性、つまり女性警官を殺していくって言うのが奴等のルールだ。」

「どうして嘘の推理で、警察を。」

ユウスケは、グロンギの回し者じゃないのか、とすら考えた。

「そうか、警察の警備を警視庁に集中させれば、ここに近づく女性警官はいない。」

八代はもう一つ、もっと突拍子も無い推測、いや予感があった。それは根拠は無いが正解であった。‘昨日のグロンギから’。

「そう、今ここにいる女性警官は、貴方だけだ。八代刑事。」

だが門矢士のどうしようもなくあふれ出る怪しさに、不安を拭い切れない八代とユウスケがいた。さらに驚くべき事に、

「ゼデボギジォ、ビデスンザソ!」

といきなりグロンギ語を発する士。

「言語学者が解析しよとしてもできなかったモノを。」

驚く八代、士のその視線の先を辿ると、『ゴ・ベミウ・ギ』が。

「ゲゲルを始める。」

背後には白いスーツを纏った男、そしてそれに従う『メ・ビラン・ギ』。

「今回は、大詰め、御大将の登場だ。ここで5人めを殺せば、究極の闇が復活するとさ。」

八代にジリジリと包囲を縮める未確認。八代の前に立ちはだかって庇うユウスケの腹部には既にアマダムが浮かんでいる。

「邪魔」

そんなユウスケを突き飛ばし、士は八代と相対する。

「ッウ」

鼻へクリーンヒットの拳が決まる。未確認に対してではない。八代に対して。八代の鼻の穴から実に見事なラインの血が流れた。

「おまえやっぱり!」

士に掴み掛かるユウスケ。ユウスケは士への疑惑を確信に変えた。しかしそれは即座に否定される事になる。

「グロンギをよく見ろ。」

なぜか未確認達が動揺している。

「よく分かったな。」

白いスーツの男が士にこれ以上無い程の憎悪の眼を向けた。

「1人めは毒殺、2人めは心臓麻痺、3人めが絞殺,4人めが焼殺。つまりこいつら一滴の血も流さずに殺していた。それが最大のルール。だが失敗だ、これでな。」

「やっぱりこの人が、」

八代は理屈は無いが確信した。

「アンタ、何がしたいんだ。回りくどい。」

訳の分からなくなったユウスケが呆然としている。

「オレは最初から一直線に目的を果たしたぜ。余計な犠牲を出さず、ゲゲルを終わらせる。後はこいつらを始末するだけだ。」

既に士の手にディケイドライバーが握られている。丹田の位置に付けると、バックルからベルトが射出し士の腰に装着される。そうしておいてバックルを90度回転させ、続いてライドブッカーを開いてカードを取り出す。

「変身!」

カードをバックルに装填、

『KAMEN RIDE』

対極図を腕で描きバックルを元に戻す。

『DECADE!』

士の肉体に装着されるディケイドスーツ。
頭に光のカードが縦に5枚差しされ、ディケイドの仮面が形成された。

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