2010年8月18日水曜日

1 クウガの世界 -超絶- その10

「おい、バカバカタンマ、いてっっ!」

一方、今日はピンクのスパッツにショートパンツ、ピンクのニット帽の光夏海、変身を解いた門矢士にツカツカと歩み寄って、いきなり鼻を摘んだ。
そのしおらしい2本の指が摘んだ鼻から、固形物が砕ける音がした。

「ぐぁぁぁ!」

士の声が一際高く山間に木霊した。押さえた鼻の穴からは夥しい血が。

「貴方の使命は!」

「9つの世界を巡って、おまえの世界を救う事だろ。」

鼻声士はまるでいたずらを説教されたやんちゃ坊主のようだ。

「貴方の世界でもあるでしょ!他のライダーと戦う必要なんてありません!」

寒空の中、夏海の説教は1時間続く事になる。
並行して、八代もまたユウスケに説教を開始。

「私の命を救ってくれたんだぞ。それが分からなかった?」

と言われムッとするユウスケ。

「なに怒ってんだよ、」

「門矢士は人間だった。なぜいきなり戦いを仕掛けた?」

あるいは八代達の世界は、まだ人間で無い者とだけ戦える分幸福な世界かもしれない。

「聞いていたんだ。ディケイドという敵が来ると。はじめてベルトを手にした日に。」

そもそもユウスケがクウガとなった時点に話は遡る。

「いつか君の前に悪魔が立ち塞がる。」

ユウスケは灯溶山にたまたまハイキング中、ある洞窟で草臥れた中年男性、つまり鳴滝に誘われるままベルトを渡された。

「悪魔?」

鳴滝は、そのベルトこそがこの世界の悪魔であるグロンギを封印する鍵の役割を果たしていた事を十二分に承知していた、はずである。

「全てを破壊する存在、ディケイド、それが君の本当の敵だ。」

ユウスケはその時は軽く聞き流した。あるいは半信半疑だった。それがディケイドを、門矢士を眼前にした時、半信半疑だった鳴滝の言葉を信じてしまったのだから、人の心はわからない。

「門矢巡査!」小一時間説教した上で八代は士に声をかけた。「聖なるゲゲルとは、本当なのですか。」

八代も必要以上に恥ずかしがり屋なのかもしれない。
その八代の声で、夏海の説教が中断され、士が人を食った顔を再び取り戻し振り返った。

「本当だ。あの山に、キュウキョクの闇、とやらが眠ってるそうだ。」

「その目覚めは阻止されたって事ね・・・・」

八代は携帯で上司である警部を呼び出した。

「今なら警察で対処できる。」

八代、そのまま覆面パトカーに搭乗した。もはやその眼光には灯溶山しか映っていない。

「姐さん!」

八代から置いていかれたユウスケ、捨てられた子犬のように夏海の方へと視線だけで会釈した。

ざまあみろ、

そんなユウスケの顔をネチネチと薄ら笑みで眺めている士だった。



八代は車中から携帯電話を使い続けていた。警官なのだから許されると思って欲しくはないが。

「お願いします警部。すぐ手配を。今が絶好の好機、いや得体の知れない対手です。これが唯一の好機と思った方が、お願いします!」

片手の上余所見運転で免停確定なのだが、八代の顔はこの辺りの警官には知られているし、このような状態をもし制止すれば、自分の方が要らぬ精神的痛手をこうむる。それが知れ渡っている。
八代は、だがしかし、携帯のスケジュールのアラームが鳴り響いた瞬間、ため息をついて車を止めた。

「そっか、忘れてたわ。」

しばらく携帯を見つめていたが、忘れるといけないから、と通話ボタンを押した。

「ああ、アタシ。」

「起き取った?看護婦長が病気しとっていかんがや。」

「ようやくメドついた。そっち戻るん日も近いかもしれん。」

「結婚は当分せんが。そんなん言うなら、もう電話せんね。」

「いい人は・・・・・」八代はしばらく考えた。「おらんよ。」

携帯を切って、ため息をつき、しばらく車の流れを傍観する八代。だが時計を見るとそうもいかない事を痛感する。

「弟クンで我慢しろって神様が言ってるのかな。」

ハンドルを回して警視庁への進路を取る八代だった。

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