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「はい、食券1枚と交換で、エースの4弁当ですね。ありがとうございます。」
まずごはんを一口。
「うむ、それはエビが美味いぞ。」
続いて酢の物を半分。
「今度10枚綴りの食券が同じ値段で12枚綴りになりましたよ!各ランクさん共通です!この機会に是非どうぞ!」
ごはんをもう一口。
「うむ、お得感倍増だ。」
そしてメインのカツへ入る。
「士!」
多少怪訝な顔でブロッコリーを口の中に入れる士だった。
「おまえ何エース弁当を客の前で食ってんだ!」
腹が減っていたとは口が裂けても言わない。
「プレゼンテーションだ。ここでオレが食ってる姿が、次の購買意欲に繋がる。」
「ヌケヌケとそういう事をだな、」
と言い終わらない内に巨漢女性が体当たりを敢行、
「私もこれちょうだい!」
続いて2人、3人と寄り集まり、
「今日は牛丼じゃなくこっちにするぞ。」
「ハク、ハク、私は千尋よ、」
そして怒濤のごとく人が押し寄せて一斉に去り、煙が晴れた時、食券と空の弁当箱、そして割り箸とどういう訳か靴跡にまみれて伸びているユウスケと士がいた。
「どうだ、10分で完売だ。新記録だ。」
と立ち上がる士からは震えが止まらない。ユウスケもやはり震えながら目に青痣をつけて立ち上がる。
「初日だ今日・・・・、とにかく、後は上級への配達だけだ。これが『剣の世界』なのか?」
違う。
「K弁当だ。」
士は知らないが、彼が対面している2人こそはサクヤ菱形と、ムツキだった。
ムツキはKの弁当を素直に受け取るが、蓋を開けず士と目を合わせようともしない。
「待て、」と目を血走らせて叫んだのはサクヤ菱形。「エース弁当はどうした!」
Aとマジックで書いた食券を突き出す。
「言ったぞ。今日はエース弁当が売り切れだ。その代わりこの2の弁当が残っていると。」
「なんだとキサマ!オレはな、ハカランダの弁当だけがこの会社の楽しみなんだ!分かってるのか!エースだぞエース!」
実は先に士が食べていたものがエース弁当であったが、士はそんな事おくびにも出さない。
「エース?食券にマジックで書いてある程度で、おまえのような品の無い奴がエースだと信じると思っていたか。」
「キサマ、無礼だぞ、大体この会社でエースはオレただ1人、なんでただ1人の為に作られた弁当が売り切れになるんだ!」
「そんな理屈は知らん。売り切れたものは売り切れなんだ。エースだかなんだか知らんが、品が無い、頭が悪い、きっと頼りにならないような奴の言う事は信用できない。」
「ムチャクチャだぞ士。申し訳ありません。明日私が特上のエース弁当をご用意しますので。」
と事情が事情だけに士を制止するのもはばかるユウスケだったが、さすがに最後は止めた。謙って手もみし愛想を振り撒くユウスケの姿は、ある世界ならば英雄であり救世主である男のそれとはとても思えない。
「そこがまあ、こいつの良いところだ。」
「何言ってるんだ士。」
そこへけたたましい警報が鳴り響き、士とユウスケ以外の、BOARD社員全ての顔が引き締まり、忙しなく動き出す。
『アンデッド出現、アンデッド出現、社員一丸となってアンデッドを封印しましょう。』
サクヤ菱形の顔もまた引き締まる。
「ムツキ、社内の案内はこれまでだ。おまえは先に行って管理課から装備と車両の承諾を手続きしろ。」
士を一瞬見やった青年ムツキは、不敵な笑みのままサクヤに一礼した。
「キングですよ。ここでは。これ、食べてもいいですから。」
と一口もつけていないK弁当をサクヤに差し出し、他の社員の流動に乗って行ってしまった。
「アンデッドだぞ!士!」
テンションがはねあがるユウスケ。
「小物臭いぞユウスケ。」
その2人を黙して眺めるサクヤ菱形だった。
「おいおまえら、ハカランダの人間なんだろ。」
「そうですよ。」
「おかしな事を聞くな。何が言いたい。」
「カズマ先輩に言っておけ。そこはもうバレている。オレはアンタと力でケリをつけたい。」
「どういう事です?」
「大体分かった。」
「分かったのかよっ」
「今度のアンデッドを封印すればオレに新たな力が宿る。それを続ければいつかは・・・」
とそのままブツクサ言いながら2人を置いていくサクヤだった。
「なにバカな事言ってんだ。士も。」
「大体分かった。言ったぞ。」
士にしてみれば、明瞭である。
サクヤ菱形はこの会社で唯一のA、つまりこの会社で唯一の仮面ライダーである。この仮面ライダーが力で越えたいというのだから、カズマもライダーかライダーだった者だろう。そして自身があのハカランダにいる必然性を考慮し、なおかつサクヤや会社が狙っているのだから現在でもなおライダーである可能性が高い。サクヤは、そのカズマに忠告してやっているのだ。カズマは会社から狙われるライダー。ならばその戦いに乱入してみるのが、この世界での自分の役割だろう。
だがそこまではちんぷんかんぷんのユウスケに解説してやる必要も、態度も出さない士だった。
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