2011年1月3日月曜日

2 剣の世界 -進化の終点- その7







「社長!許可を願います!」



 入室した黒スーツ社員の手に握られているのは、『アンデッド封印の件』と名打った稟議書。既に経費の経理部、アンデッド探知報告の警戒センター、対アンデッド資料出荷許可の情報管制部、そして武装の使用許可を司る装備管理課、労災を処理する厚生課、エースの勤怠を管理する勤労課、その他諸々の総務部のそれぞれの許可が判され、後は社長の許可を待つばかりである。



「4分かかってるわ。10から6に降格よ。」



「社長、それだけは!私には澄子という身重の妻がぁ!」



「家族なんて非合理的なものを持つからいけないのよ。それとも、北条くん、と呼ばれたいの?」



 無言で退出した6クラスの社員であった。

 みゆきは、ノートパソコンを開いて、社内LANで『アンデッドサーチャー』のデータを眺める。格子のグラフに線だけで地形が映像化され、その中の一点『CRAB A』とロゴを掲げるポイントが微妙に動いている。



「全ては、ムツキがレンゲルを装着する事から始まる。」







 路上センターラインを糸を垂らしながら疾走する異形。

 周辺市民の避難が完了しないままに展開される銃撃戦。

 車中に身を潜める者、歩道を逃げ惑う者、ケータイで写メを撮ろうとして首を寸断された者、逃げ惑う友人に推し倒される形で首を複雑骨折した者。炎の弾丸に穴を空け爆破する一般車。

 たった一匹のアンデッドの為に街は地獄絵図と化した。



「マテェェェェェ」



 と叫びながら追いかけるのは濃紅のギャレン。おいかけられるアンデッドは『スパイダーアンデッド』だ。

 その惨状を四駆から眺める男がいた。



「何をやっているんだサクヤ。これではアンデッドと同じだ。」



 トラックの幌に登ったスパイダー、逃げ惑う女性の1人を糸で絡め、ハンマー投げの要領でギャレンに投げつける。



『ドロップ』



『ファイヤ』



『バーニングスマッシュ』



「トドメだぁ!」



 放り投げられた女性を避け様跳躍するギャレン、そのまま宙で放物を描いて、スパイダー直上より炎を纏った蹴りを見舞う。



 爆破するトラック、



「奴は既に別の車両に移っている。」



 炎上する中心に立つギャレンの影は、なお敵を求め首を左右に動かす。



「アンタもいたのか。」



 カズマは路上、女性を抱えていた。放り投げられ失神している女性から糸を払い除け、そのまま路上へ横たわらせる。

 立ち上がり、『ブレイバックル』を握るカズマ。バックルに『スペードA』のカードを挿入、腰に充てると、トランプが数珠繋ぎしてカズマに纏わり付きそれはベルトと化す。



『ターンアップ』



 バックルのレバーを引くとAのカードがバックル内部に収まり代わってスペードの文様が現れる、同時にカズマ前面に展開するのは光の壁エレメント、それが自動的に後退してカズマの全身を通過していく。



「ブレイド!」



 ギャレンが叫び突進する。

 カズマが纏ったその姿こそ『仮面ライダーブレイド』と呼ばれる紫紺の戦士だった。



『ビート』



 向かうギャレンに拳で迎撃、顔面を直撃したギャレンが弾き返され路面を転がる、



「裏切り者・・・・」



 ギャレンのマスクが半分欠け、サクヤの血まみれの左目が露出している。



「おまえの武器は街に被害を与えすぎる。黙って見ていろ。」



「会社は人命よりアンデッド捕獲を優先している、キサマは会社の所有物を無断で使用し、」



「おまえもそれがおかしい事は分かっているだろ!ベルトに振り回され過ぎていると言ってるんだ!」



 サクヤは呆然とその紫紺の背中を眺めた。

 トラックから歩道橋に移って何人もの人間を糸で絡めて捕獲し吊すスパイダーアンデッド。そのスパイダーに向けブレイド、手まねきをして挑発する。



「おまえもアンデッドなら、オレと戦いたいはずだ。人間に八つ当たりするよりもな。」



 言う通り、ブレイドにその3つの目を留めたスパイダーは震えながら吠えて歩道橋を跳んで突進。



『スラッシュ』



『サンダー』



『マッハ』



『マッハスラッシュ』



 スパイダーの口から糸が飛ぶ、

 だがブレイドの肉体を透過、既にそれは残像、

 狼狽えるスパイダー、

 脳を突くように聞こえる衝撃音、

 スパイダーの周囲を取り囲む十数枚の刃、

 中心スパイダーに時計回りに斬り裂く、

 絶叫を上げ爆破、

 刹那大気から朧げに出現するブレイド、

 スパイダーのバックルが縦に割れる、

 カードを投擲するブレイド、

 吸引されるスパイダーの肉体、

 カードは蜘蛛の絵とクラブのAの文字を刻んでブレイドの手元に戻る。



「貰ったぞ。ブレイド。」



 男の声が歩道橋から聞こえた。頭髪の薄さを隠す為に横から無理に髪を持ってきているあの鎌田だ。あの鎌田が、1枚のカードを振りかざし、高笑いしている。

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