2011年1月3日月曜日

2 剣の世界 -進化の終点- その8






 風に掬われるようにブレイドの手元からカードが飛んでいく、

 それどころかブレイドがバックルに収めているカードが次々と宙を舞って、鎌田の方へ意志でもあるかのように流れていき、

 最後には、エレメントが展開、スーツが強制的に着脱され、スペードAのカードまでもがバックルから飛び出していった。



「ケルベロスか。」



「カズマ!」それは女声。同じ歩道橋である。「これで貴方は丸裸。まずはブレイバックルをお返し。」



「天王路みゆき。」



 立つ女はBOARDの社長。男装でネクタイを絞めているものの、髪は束ねておらず、なお止まぬ爆熱の気流になびいて、うなじが見え隠れする。



「逃げないでね。貴方が逃げちゃうと、この子の人生がここでオシマイになっちゃうから。この子、アンデッドと違って死んじゃうんですものね。」



「カズマちゃん!ごめんなさい!」



「アマネちゃん!」



 みゆきが手を引いているその少女は、ランドセル姿のアマネ。アマネが学校から消えた事がハカランダのハルカに伝えられたのは、午後を回ってからであった。



「社長、私が確保しました!」



 呆然とするカズマの背後から忍び寄ってバックルを奪い取り、サクヤ菱形は高々と掲げた。



「あの男も始末してしまいましょう。もうギャレンも一新されていい頃だ。」



 小声で鎌田が囁く。みゆきもその細腕で足掻くアマネを拘束しつつ目を細める。



「どうしてあの子は空気が読めないのかしら。」



「社長!もういいでしょう、その子はもう要らないはずです!」



 叫ぶサクヤをカズマが制した。



「ムダだ。奴はベルトも社則も目的ではない。奴の目的はただ1つ。オレとの闘いだ。」



「會川カズマ、そこで待っていなさい!」



 どんなにもがいても解けないみゆきの腕の中で、アマネが狂ったように叫んでいる。



「存分に楽しむがいい。私は今は、このハートのジャックだけで十分だ。」



 鎌田は吸引した十数枚のカードを扇状に持ち、その内の1枚を引く。そこには狼の絵が描かれていた。



『FINAL ATTACK RIDE dededeDECADE』



 鎌田斜め頭上、既に蹴撃の体勢から突っ込んでくる目眩がするほどのマゼンダの発光。



「ディケイドぉぉぉ」



「ちょっと痛いぞぉぉぉ」



 鎌田の首筋にディケイドの爪先が入る、

 悶絶して倒れる鎌田、

 そのまま首を足で抑え込むディケイド、

 緑の血が歩道橋一面に散乱した。



「オレは、不死身だ、この程度でやられはせんぞ!」



「20年前ならそれでビビる奴はいただろうが、今じゃこう言うんだ、どの程度まで切り刻んでも死なないか試してやろうかってな。」



「ひえぇ」



 泣きわめく鎌田の頭を依然抑えつけ、みゆきにブッカーを構えながら、歩道橋一面に散乱した内1枚のカードを拾い上げる。蜘蛛の絵が描かれている。



「これがラウズカードか。」



「貴方がディケイド。噂通りの悪趣味なピンク。これは貴方の玩具じゃなくてよ。」



 速い、



 ディケイドは鳥肌が立った。至近である。眼前にみゆきの笑顔があり、手にあったカードをひったくった。もっとも驚くべき事は、全てアマネを抱えたままでみゆきが動いている事である。



「なんだこいつ、」



 ディケイドの危機感は生身のみゆきにブッカーを乱射させた。本来なら卑怯の領域である。しかしみゆきの高慢な笑みは至近からの銃弾を紙一重で躱し間合いを取る余裕すらあった。



「変身」



 アマネを抱えたままハート型のバックルを腰に充てる。たちまち姿を顕す『カリス』。弓のようにも見える左右双刀の得物を振りかざし、踊り掛かってくる。



「なんだ、この強さは、」



 といいつつ引きながらその刃をブッカーで受け止めるディケイド。受け止めつつも立て直し、リズムを外して死角に一撃掛けようとする。



「甘い甘い」



 だがその死角にアマネを抱えているカリスが一枚上手だ。

 この時ようやく首から足を除けられた鎌田が起き上がり、まず髪型を直し、次いで緑の血を拭った。ウルフのカードだけは手放していない。



「へ、ディケイド、ここで討ち取られるがいい。」



「どけ!」



 鎌田が飛ばされる。それはまあ塵が一息だけで飛ぶように。見事な放物線を描いて。歩道橋の柵を越えて路上へ頭から落下。



「アマネちゃんを放せ、目的はオレのはずだ!」



 勢い突き飛ばしたのは、歩道橋を上がってきた會川カズマ。カズマのバックルを取り上げたはずのギャレンは、どこをどうやられたたか知らないが、そのバックルを掴んだまま路上で大の字にノビていた。



「この子を殺せば、貴方は私に本気になってくれるかしら。」



 カズマの全身から湯気立つ程の凛気が感じられる。



「ふざけるな!」



 カリスはディケイドに向かって、得物から光弾を放ち威嚇。



「そうね。貴方は私に近づいてもうウズウズしているはずよ。こんな子の事も頭から吹き飛んでただ戦うだけしか考えられなくなってる!」



 うぉぉぉぉぉ、



 カズマの猛り狂った顔が、人外の領域に入る、吠えたその奇声も既にヒトのそれではない、凛気が物理的なエメラルドの輝きを伴って物理的に歩道橋の柵を圧迫して歪めていく、



「イタイ、目が、目が!」



 カズマから円周状に衝撃波が放たれ、アマネも充てられた瞬間視野を失った。

 もがくアマネをなお抱えつつ、カリスもなにか恍惚したかのように立ち尽くす。



「さあ、闘いなさい。私もこれで本気で」



「隙だらけだぞ。」



『ATTACK RIDE SLASH』



 カリスの背後より迫る多重の像と化したブッカーの刃、それはディケイド顔面の縦縞のよう。

 前のめりになるカリス、そこでようやくアマネが解放され、ディケイドが代わりに抱きかかえた。



「油断した、だがもう遅い、ここからはアンデッドの世界だ、見ろ!」

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