2011年1月3日月曜日

2 剣の世界 -進化の終点- その9






「油断した、だがもう遅い、ここからはアンデッドの世界だ、見ろ!」



 カリスが間合いを取って、指し示したのはカズマ。



「アマネちゃぁぁぁaaaaa」



 カズマの目には苦悶と後悔の涙が途切れる事がない、そしてもはや留まるところを知らぬ衝撃波がカズマの全身を逆光でくるんでいき、カズマを人外の怪物へと変貌させていく、その頭は長い2本の触角、耳まで裂ける口元、伸びる爪、黒皮のスーツが全身を拘束していく、ベルトは、あのウルフや鎌田と同じ楕円の大きなメダル。



「『ジョーカー』、カズマの奴がこの世界のジョーカー。」



 ディケイドはなぜか知っている記憶の断片が憎くて仕方なかった。



 ジョーカーの拳が足下の歩道橋を裂く、

 中央から折れて陥没する歩道橋、

 下の駐車車両のルーフがへしゃげた、

 アマネが落下、カリスもディケイドも、そして砕いたジョーカー自身が落下する、



「見境が無い」



 ディケイド、アマネを抱きかかえつつ落下、アスファルトに背中を強く打った。

 ジョーカーであるカズマはワンボックスの中へ落下、やや静寂の後で子供を含む家族連れの悲鳴が轟き、ワンボックスの窓という窓が赤い色に染まった。



「ディケイド、さっきはよくもやってくれたな。」



 倒れたディケイドの視界に、髪の毛だけはきっちり整えた鎌田の引き攣った笑みが入った。脳震盪気味のところへ喉を踏みつけられ身動きが取れなくなる。



「下品ピンクのおかげでせっかくの舞台も仕切り直しだわ。まあこの子が手の内にあればいくらでもやり直せる。」



 ディケイドの震える腕から強引にアマネをはぎ取るのはカリス。



「待て・・・・」



 叫ぶディケイドの肉体はまだ指一本動かせない。



「こいつを殺せ、カリス!」



 鎌田が狼狽えたように叫ぶ。



「自分でやれば。こいつを殺してしまえば、私と共闘してる理由が貴方には無くなる。違う?」



「ええい、足元を見おって。」



「下品ピンク、アンデッドの弱点はベルトよ。」



 カリスはアマネを小脇に抱えて跳躍、車を蹴り、信号機を踏み越え、電線に釣り下がり、ビルからビルへ飛び移っていった。



「裏切る気か!」



 鎌田が悪い油汗をダクダクと顔に流しながら、しかしディケイドに向けて不敵な笑みを浮かべ、そして腰周りからベルトが浮かび上がる。ジョーカーと同じ楕円のバックルだ。



「足を退けろ、」



 ディケイドが足掻く。



「キサマの最後だ。我が戦友に捧ぐ。」



 おぼろげに姿が人間のそれで無くなる鎌田。



「加齢臭がするぞ。」



「する訳ないだろ、私はアンデッドだ。」



 と人間態に寄り戻る鎌田。ベルトだけが浮かんでいる。



「その通りだ。」



 ディケイドはバックルにカードを一枚装填している。



『ATTACK RIDE ILLUSION』



 倒れたディケイドが何人も出現、いつのまにか起き上がって鎌田を取り囲んで睨みつけた。



「こ、こいつ、」



 包囲された鎌田が計6人のディケイドから一斉にパンチを食らう。いやパンチは空を切った。



「鎌田、逃げるな!」



 見れば4つんばいになってディケイドとディケイドの隙間を潜り抜けて包囲から脱している鎌田。



「おまえの始末は、また今度にしてやる!」



 既に立ち上がっているディケイドに不敵な笑みを返す鎌田。そんな鎌田を例のオーロラが透過していく。鎌田は必死で髪の毛を整えていた。



「なんなんだ、あのバカは。」



 その背後、炸裂するワンボックス、



「ジョーカー、」



 ディケイドは振り返る。ワンボックスが前後に引き裂かれ爆炎を上げている光景が広がっている。だが対手の姿は見えない。



 頭上、

 打ち下ろされる爪、

 紙一重で躱すディケイド、

 爪はそのままアスファルトに亀裂を、



「どうした、理性を失ったか、それとも誰かからオレが悪魔だとでも聞いたか!」



 ディケイドはブッカーをソードモードに切り替え数合に渡り、ジョーカーの爪と伐ち合う。

 野生そのものでありながら、ただ力を暴走させている訳ではないジョーカー、隙の無い素早い爪の動きは、ジリジリとディケイドを推す。



「殺るしかない!」



 下から掬い上げのディケイド、

 打ち下ろしで刃を合わせるジョーカー、

 それを流してブッカーごと刃を地面に刺すディケイド、

 そうした上で拳を繰り出す、

 だが多少怯むだけで動じないジョーカー、

 もう一度繰り出す拳、

 今度はジョーカーも応える、

 クロスカウンター、

 互いに怯んで後退り、間合いが開く、

 中央に突き刺さったブッカー、

 向かって駆ける両者、

 すれ違う、

 抜いたのはディケイドの方、

 刃を振り上げるディケイド、

 袈裟斬りにされるのも構わず懐に踏み込んで爪を振り落とすジョーカー、

 倒れるディケイド、

 しかしその爪によってではない、自ら倒れた、倒れ片足を上げ、足裏でジョーカーの腕を受け止めている、

 銃口はジョーカーのベルトへ密着、



『ATTACK RIDE BLAST』



 ゼロ距離から数十の光弾が圧する、

 棒立ちで放心するジョーカー、見る間にその姿がカズマのそれに戻っていく。



「殺せば、良かったものを・・・・」



 ディケイド、立ち上がりフォームを解く。額から血を流した門矢士がその卑屈な顔を晒す。



「殺すつもりでやった、アンタがしぶといだけだ。」



 士の眼前にはなお煙が吹く廃墟が広がっていた。

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