2011年1月3日月曜日

2 剣の世界 -進化の終点- その13

13





 立ち上がるカズマ、口元の緑の血を拭って顔がこわばる。肉体の周りに薄く翠のオーラが湧いてくる。



「立て直すと言った!」



 殴りつける士、



「・・・・」



 鼻を抑え唖然とするカズマ。



 翻って士はアルピノを睨む。



「同じじゃない。」



 カズマの攻撃も、士の奇襲も通じなかった、



「なにがだ」



 もはや以前の頼り無げな鎌田から大化けした不死の怪物。



「おまえは、勝つ為にジョーカーになった。けどこいつは違う。」



 その基本的な能力はアンデッドの頂点であり、なおかつアンデッドの能力をことごとく所有する。



「アンデッドは、勝者になる事が全てだ。勝者になる為の意志は、全て勝利という結果の前に画一化してしまう。勝者となって頂点に立つ事がこの世の全てを思うがままにする唯一の目的なのだ。」



 救い出さなければならない少女も、それを助けだそうとした2人の若者も掌サイズのカードにされてしまった。



「違う!」士はカズマを指差した。「オレ達は時に競い合い、誰か蹴落とし蹴落とされ、笑い嘆く。だがその勝敗に関わらず次に迎えるのはまた違う競争だ。思うがままになりはしない。こいつは、誰かの小さな幸せの為、自ら怪物になり、そして小さな笑顔の為に今も戦い続けている。そうする事で、こいつは競争を超越していくんだ!」



 2人のバックルを拾い上げる士。



「大口を叩くなら、ちゃんとじゃがいもの皮むきと厨房の掃除をできてからにして欲しいな。仕事を終わらせるぞ、まかない。」



 並んでブレイバックルを受け取るカズマ。



「もはや勝ち目など無い。それでも私に立ち向かおうとするおまえは、何者だ!」



「通りすがりの仮面ライダーだ。変身。」



「変身」



『KAMEN RIDE DECADE』



『ターンアップ』



 再びライダースーツを纏う両者。

 眼前のアルピノは既に爪を振りかぶっている。



「破壊者め、ライトニングスラッシュ!」



 縦に溝を掘るアルピノ、衝撃を左右へ転じて避ける2人のライダー。ブレイドの肩アーマーは煙が吹いている。



「前後だ、同時にかかるぞ。」



 ブレイドは立ち上がり、ディケイドに背後へ回れと言っている。



「待て。」



 ディケイドの手に数枚のカード、それが光り輝き図柄が更新されていく。一枚は明らかにブレイドの姿が描かれている。



「ちょっとくすぐったいぞ。」



 その内の一枚を徐にバックルへ装填するディケイド、



『FINAL FORM RIDE bububuBLADE』



 宙に浮かぶブレイド、浮かんだまま倒立になり、ボディが一刀の巨剣へと整っていく、それを手に取るディケイド、その質量は振りかざすだけで風圧を起こす。



「こけ脅しが、ロイヤルストレートフラッシュ!」



 アルピノの前面、5枚の光の壁が縦列に並ぶ、



「これがバトルファイトを覆す力だ!」



 ディケイドはさらに一枚バックルに装填した。



『FINAL ATTACK RIDE bububuBLADEee!』



 ディケイドの前面にも光の壁が縦列に並ぶ、両者の壁は全く同じ形状、合流してディケイドとアルピノの間に一本のラインが通る。



「死ね破壊者!」



「鎌田ぁぁぁぁぁ」



 疾走するアルピノが次々と光の壁を潜る、

 ディケイドもまた光の壁を掛け抜ける、

 両者が交錯した時、黄金色の光が路上に満ちた、

 光が収まった時、互いの元いた位置に入れ替わり立つディケイドとアルピノ。



「ディケイド、破壊者の最期・・・・」



 振り返るアルピノ、ディケイドは依然背中を見せている。手にした巨剣はブレイドへと姿を戻す。



 ブレイドがカードを投擲、

 放物を描いてアルピノ腹部へ、

 刺さるまま眺めるだけのアルピノ、

 刺さったカードのさらに下にベルトのバックルがある、

 その銅メダルのようなバックルが縦に割れている、



「腐れ縁もこれまでだ。」



「破壊者め!」



 光となって吸引されるアルピノ、その肉体とは逆に放射され地に散らばっていく16枚のカード、

 1枚のカードがブレイドの手元に戻ってくる。そのカードには赤いカマキリ、パラドキサの図柄が描かれていた。



「終わっては、いない。」



 カズマはバックルを操作してスーツを除装する。



「ああ。」



 既に士も変身を解いて、散らばったカードを回収していた。ユウスケのカードを指先でパチパチと叩いている。



「クラブの10をおそらくみゆきが持っている。」



「こいつがか。」



「封印されやがって。相変わらず余計な事だけはしてくれる女だ。」



「手間はかからないさ!」



 カズマが戸惑いの顔を向ける。

 士は平静を装う。

 その視線の先に新たなライダーが立っていた。

 深い緑のボディ。無骨な体格。そして片手に握られるのは錫杖。クラブのスートを象徴するライダー。『レンゲル』が士達へ悠然と歩みを寄せる。



『リモート』



 レンゲルが発動したカードの光が、士が手にするカードに指向的に走る。士が避ける間もなくカードに翠の光が注ぎこまれ、幾枚か士の手を離れ宙に浮き、光はそれぞれ人の像へと拡張していく。

 テイピアリモート、封印されたアンデッドを解放する効果を持つ。

 人の姿をした者達数名、鎌田によって封印された者達が今解放された。



「アマネちゃん、」



 カズマは即座に解放された幼女を抱きかかえた。アマネは声を上げて泣き叫び、力の限りカズマに抱きついた。鼻水と涙を伴った言葉に、聞き取れない部分が多いながらも頷くカズマだった。

 士もユウスケとサクヤ菱形を引っ張り起こすものの、依然その視線は棒立ちするレンゲルへと向けられていた。



「こうやってお姉ちゃんは封印したアンデッドを区切りのいい時解放し、バトルファイトを永続し、会社の利益を上げようとした。」



 レンゲルの方からは声がしない、

 聞こえるのは背後、

 背後からおもむろに手が伸びる、

 士が未だ持つカードの内から1枚を抜き取る、

 慌てて振り返り拳を繰り出す士だったが、

 手の主は軽い身の熟しで一足距離を置いている、



「誰だキサマ。」



「まだナマコが嫌いなのかい?」



 サクヤが指差し、ムツキの名を叫ぶ。

 しかしムツキの顔をした少年は、そんなサクヤを見ていやらしい笑顔を作り、手にした『ケルベロス』のカードをポケットにしまった。



「メイクを落とすのは面倒だからこのままだけど、僕はムツキじゃない。僕の名は・・・・、まあいい。それはこの次という事で。」



 囲む士達の頭上から、倒立側転で飛び越えてくるレンゲル。着地様噴煙を杖からはき出し、数秒その場にいる全員の視界を奪った。



「消えた、完全に。」



 噴煙が晴れた時、ムツキを名乗った少年も、それに遣われていたレンゲルの姿も無かった。



「やったじゃない、カズマ。念願の幼女を取り戻せて。」



「みゆき・・・・」



 士が振り返ると、カズマとあの女、天王路みゆきが対峙している光景が眼に入ってくる。レンゲルは間違えて解放したのか狙って解放したのか。



「カズマさん、加勢、」



 というユウスケらを抑え込む士だった。



「封印しなさいよ。ここで決着をつけてあげるわ。」



「どいていなさい、アマネちゃん。」



 カズマの視線はみゆきを注視しながらも、手はアマネを突き飛ばしている。



「ダメ!」



「アマネちゃん、」



「ダメだもん、この人、私の眼、治してくれたもん。」



 驚いた表情をアマネに向けるカズマ。



「どうしたの戦いなさいよ!」



 叫ぶが動かないみゆきだった。

 そんなみゆきを振り返ったカズマの表情は哀しみに満ちていた。



「オレは、戦わない。」アマネを抱きかかえ、肩に乗せるカズマ。「オレはバトルファイトを終わらせる。だがそれは、おまえと戦うという事じゃない。」



「なにそれ、なにそれ!私達アンデッドは、戦う事でしかわかり合えない、生きる事ができないのよ。」



「おまえもこの子といっしょにいれば分かる。こないか?ハカランダに。」



「・・・・・バカじゃない、私が人間とジャレ合うとでも思っているの?バカにしないで欲しいわ。」



 背を向けて立ち去るみゆき。その後を追わないカズマだった。



「時間のかかる戦いも、あるさ。」



 士はカズマにそう語りかけた。



「おまえは、」



「それよりじゃがいもの洗い残しを無くしてからだぁ!」



 アマネがカズマの言葉を掠った。

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