2011年2月22日火曜日

3 ファイズの世界 -夢の狩人- その3









「ユウスケは?」

「トレーニングですって。1000の技を鍛えるんだって言ってました。」

「キバの世界から、調子が悪そうだからな。」

「私の前でキバの世界って言わないでっ前から言ってるじゃないですか、思い出しちゃうじゃないですか!」

「ああ、あの時のおまえの、」

「言わないで、言わないで!」

「それより、おいおい、朝からがんばり過ぎじゃないのか!」

 士クンは私を無視して漂ってくる匂いに大はしゃぎだ。
 湯気が立っているのはテーブルのセンターにカセットコンロと共に置かれた鉄鍋。だけど沸騰させてはいない。具材が死んでしまう。メインはブリ照、筑前煮はやや醤油を濃く、酢の物は大根とキュウリと白菜、それらを受けて立つごはんと味噌汁は松茸に蟹だ。松茸は茶碗蒸しにも使われている。
 これはお爺ちゃんの仕業?

「なんかの記念日か。」

 お行儀の悪い士クンはさっそく筑前のさといもをつまみ食いしはじめた。

「一応君の好物を揃えてみた。士。」

 今朝の光写真館は、お客さんのもてなしから始まった。
 起きがけに、士クンに親しげに話しかけるいい男にびっくりした私は、いつのまにか隣にお爺ちゃんがいる事にも気づかなかった。お爺ちゃんも口をあけていい男を眺めている。

「おまえ、誰だ?」

 士クンも知らない人らしい。困惑してる士クンを眺めるのは悪い気はしないけど、この士クンよりヒョロ長いいい男は私も気になった。

「誰ですか?」

 眼から星が飛び出しそうな笑顔を向けてくるいい男に、私は心の中で構えを取った。

「士がお世話になっています。」一礼するところがまたいい男。「海東大樹です。」

 素直な私とお爺ちゃんは目の前のいい男に合わせて一礼してしまった。

「士クンのお知り合いですか?」

 はじめての士クンを知る人との出会い。私は少し危機感を覚えた。なぜだろう。

「ああ、おまえ、この間のレンゲル坊主か。多少顔が違うが、声で分かった。オレの眼は誤魔化せないぞ。」

 士クンは少し狼狽えてる。この間の剣の世界ででも会ったんだろうか。ユウスケと同じように世界を越える力を持っているんだろうか。

「ええ、知り合いです。それも、ずっとずっと昔から。」

「オレが聞いてるんだぞこいつ、」

 あの士クンがこの海東って人にいい様にあしらわれてる。

「じゃあ貴方も9つの世界を?」

 私はなぜか士クンから話を逸らしていた。

「ええ巡っています。そもそも9つの世界を巡るのは僕の仕事だ。士、君にはまだ早い。」

「なんだこいつ。」

「僕の後を追っかけてくるのは、止めてくれないか。」

 士クンを上から眺める海東って人は、なぜだろう、カズマさんと違ってどこかイヤらしい。

「誰が!」

 士クン、スネた。

「君は僕の足下にも及ばない。邪魔だけはしないでくれよ。」

 この子達がなんだかウザくなってきた。

「今日は士がご迷惑をかけたお詫びに、朝食をサービスさせていただきました。」

 なんか日本語オカシイし、たぶん作ったのはウチの厨房だし。でも悔しいけど既にウチの中においしい食事の匂いが充満している。私とお爺ちゃんは食欲のままにテーブルに足が向かい、お子ちゃまのケンカなど頭から吹き飛んだ。
 でも私もお爺ちゃんも、こんなにおいしそうな料理が冷めるまで食べられない事になる。

「やあ、いい臭いがする。」

 帰ってきたユウスケ。
 いつもの人懐っこい笑顔を私達に振り撒く。
 でも私達は笑顔で返す事をしない。できない。
 眼は虚ろだった。額から今一筋の血が流れていた。血は赤いというより黒かった。
 ベルトが出ていた。バックルに今罅が入った。

「気をつけろ、この世界では、腰の曲がったお婆ちゃんまで怪物になる・・・・」

「ユウスケ!」

 卒倒するユウスケに私は情けない悲鳴を上げ、士クンが、すばやくユウスケを支えた。

「仮面ライダーの端くれだろ、おい。」

 ユウスケがやられた。

「関係無いさ。ここはオルフェノクの世界。クウガの力はここでは通用しない。相手は、死から蘇って怪物になる、幽霊みたいなものだからね。」

 この海東って子の得意げな顔が憎らしくなった。

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