2011年2月22日火曜日

3 ファイズの世界 -夢の狩人- その6









「さっきはありがとう。私、友田由里。」

 ここは校舎内の写真部室。由里は四角テーブルで士と対面する形で座り、テーブル中央のせんべいを一囓り。

「ボクは、尾上タクミ。お茶、熱すぎた?」

 3人分の緑茶を用意するのは少年タクミ。士の態度から、用意した自分のせいかもしれないと思い込む。

「いや、門矢士だ。」

 士は士で、たかだか茶の温度に敗北する自分を見せたくない。

「ねえ、このカラー、別注?かわいいよねえ。」

「ボクはいいから!」

 などと由里はさっそく士のつり下げたトイカメラに興味津々。もしかしてカメラが主で士は従かもしれない程はしゃいで、タクミに向かってレンズを向け、タクミは反射的に拒絶してレンズを手で塞ぐ。

「ねえ、さっきはなんで助けてくれたの?」

 士に振り返った由里は士の身を案じている。

「さっきの、ラッキークローバーとか言うバカが気に入らなかっただけだ。」

 ある意味これも士の本音だろう。

「ホンっト嫌な奴等、オルフェノク並に大っ嫌い。」

 由里が真顔で言ったその目に、今タクミがどんな表情でいるかは見えていなかった。

「オルフェノクに恨みでもあるのか?」

 士はサラダせんべいをつまむ。同時に由里は海苔せんべいを取った。これが大事。

「誰だって嫌いでしょ。もし周りにいたらと思うと、最悪。」

 由里は頭の中のイメージと必死に戦っていた。

 士は、黙ってまず由里を眺め、次いでタクミの表情を眺め、やや胸を反らす。その視線に気づいたのか、慌ててタクミはフォトブックを一冊士に広げた。

「でもこの学園はファイズが守っているから大丈夫さ。それよりどう、由里ちゃんの写真。」

 しばらく沈黙してポラロイド写真を眺める。やや原色に近い鮮やかな一色を中核に据えた校内の風景画と、雑多に笑顔を示す知人の集合写真が多い。ごく普通の女子高生の等身大の世界がそこに横たわる。

「ああ、悪くない。」

 士の興味はもはやこの写真集には無かった。

「インスタントカメラの色、なぁんか好きなんだよねえ~」

 ポラロイドの色は、原風景の情報量が相当度オミットされた色である。少女の視界はまだまだその情報量と対する以上に入れる事ができない。

「それで、写真集出すんだよね。」

「夢よ。そんなの。」

 少女がタクミの言葉をそう否定するのは、良くも悪くも自分を知らないからであり、あるいは裏腹な謙遜である。

「でも好きなんでしょ?いいじゃないか。ボクは、応援している。」

 タクミの言葉は今の少女のアングルに捉えきれるものではなかった。

「海東の奴、ファイズの正体を知りたがっていたな・・・・、これは奴を出し抜くいいチャンスかもしれない。」

 士の興味は、自身が撮ったボヤけた4枚のインスタント写真、ラッキークローバー4人を撮ったそれに注がれていた。

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