2011年2月22日火曜日

3 ファイズの世界 -夢の狩人- その7









 学園長は、自身の部屋からデスクを背に、校内を眺めるのがこの上ない喜びだった。

「この世界の重心である王が消えてもう随分になる。私はね、ただこの世界の秩序を回復したいのだよ。」

 グレーがかった髪が、乱れながら富士の輪郭のように天頂から肩まで流れている。同じ色の口髭は顎のラインに沿って短く手入れされ、それが今時珍しい蝶ネクタイとブラウンのスーツを纏っている。この学校の学園長はなぜか変に睫毛が長く、爪をよく噛む。

「ご安心ください。ファイズは必ず見つけます。華村さん。」

 窓を眺める学園長の背後に立つのは、立つだけで絵になる百瀬。

「人類の全てをオルフェノクにするのは儚い夢に過ぎない。それでは今の人類社会の問題をスライドさせるに過ぎない。一部でいいのだ。寡頭の一部で。この学園の優秀な生徒をぬか床にし、オルフェノクを増殖し、そして日本の中枢を動かすうようになれば、この世の秩序は回復する。」

「そしてボクと華村さんには、オルフェノクがどれだけ束になっても、絶対に服従しなければならない力を持っている。たとえ最強の力を持っていても、たとえ物理現象を動転させる事ができても、我々の能力には叶わない。」

「いかんな。百瀬君。高すぎる虚栄心は、己を小さくする。」

「ボクを見くびらないで欲しい。貴方の生死を握る力を、ボクは持っている。ファイズはいずれ見つけますよ。我々の遠大な計画がこんな初期の段階で転ばないようにね。」

「忘れてはいない、だが君がオルフェノクである事を許してやっているのは、私である事事も忘れてはいない。」

 百瀬は、視線を学園長からやや外した。

「百瀬君、目星があると言ったな。」

「はい、学園長。1人は女、何度かファイズに助けられています。餌にすればファイズをおびき出せるかもしれません。もう1人は、転校生。」

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