2011年2月22日火曜日

3 ファイズの世界 -夢の狩人- その11









 緑のハードコートに薄灰の粉だけが残っていた。
 風がそよいだせいだろうか、
 まき散らされた灰が一盛り小さな山を作る、
 いや錯覚ではない。
 灰の小さな粒ひとつひとつが意志を持ったように1つの山に寄り集まり、そのうち人の高さまで山が盛り上がり、四肢が生え、高度な芸術作品のような立体の像となる。

「まただ。こういう事を何回繰り返せばいいのやら。やはりファイズの正体を知るのが一番だ。」

 それは虎の像を持った『タイガーオルフェノク』の再生、百瀬の復活だった。

「しかもピンク色という邪魔まで出てきた。」

 百瀬の腕から数本の触手がハードコートの3箇所に向かって伸び、青き燐光を灰の中に埋める。光り輝いた3つの灰の塊もまた人の像を形成し、玄田、城金、そして朱川の3人が復活する。

「朱川、おまえなら止められたはずだ。」

 玄田がコートに膝をついて起き上がれない朱川の胸倉を掴んだ。

「貴方も、追えたはずよ。油断しなければ。城金さんには無理だろうけど。」

 脂汗をかきながら唇の端を釣り上げる朱川。

「ボクがその力を与えたという事を、忘れないで欲しいな。たかだか1秒程度で百人のボクを全て殺れるわけじゃないだろ。」

 城金はメガネのズレが収まらずイラついている。

「いいかげん放したまえ。」

 百瀬が玄田の手を祓う。朱川は百瀬だけを視界に入れ微笑む。百瀬もまた微笑み返した。

「そうよ。貴方達がこうして愚痴をこぼせるのも、この人のおかげなんだから。」

「朱川さんは、まだ進化してから日が浅い。今回は仕方なかった。」

 超絶の力とスピードのドラゴン、
 分裂増殖するセンチビート、
 時間停止のロブスター、
 そして死を操るタイガー、
 このそれぞれがそれぞれに対して拮抗し他を寄せ付けない力を持った4人こそが『ラッキークローバー』の本質。
 その強力な4人の怪物の力を目に入れながら、なお済ました笑顔でいられる少年が1人いた。

「茶番もいいが、ボクの相手をしてくれないかな。」

「この学校の生徒ではないわね?」

 朱川がまず反応し、不敵な少年の存在に他の3人はどよめいて黙する。

「見たのか」

 玄田が人間の姿のまま間合いを詰める。しかし痩せた少年はそれを軽やかに躱す。

「昨日の夜、ここで落とし物を拾ったんだ。」

「昨日の夜?つまりそれは、ファイズの落とし物だと?」

 百瀬は即座に少年が取り出した一枚のインスタント写真を奪おうとする。だが少年はその手から写真を逸らす。百瀬は少年に攻撃的な警戒を目に灯す。

「そんなはずは無い。それはあの由里という女の写真だ。」

「ラッキークローバーに入りたい。」

 少年、海東大樹は訝る百瀬に不敵な笑みを返した。

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