2011年2月22日火曜日

3 ファイズの世界 -夢の狩人- その10









 百瀬の像が変化する。それは虎の像となった。『タイガーオルフェノク』となる。

「ん」

 その威圧感を肌で感じるディケイドは驚くべき光景を眺める。
 触手がタイガーの腕から放たれた。放たれた先はドラゴンだった灰。まばゆい光を放つドラゴンの灰が立体を為していく。

 うぁぁぁぁぁぁぁ!

 ドラゴンの姿が戻り、吠え、その生命活動が再開された。

「オルフェノクに命を吹き込んだ?」

 立ち並ぶ3体のオルフェノク、その脇にさらに朱川が並び同じく像が変わる。あの夜から彼女は蝦の姿、『ロブスターオルフェノク』を得ていた。

「全員か」

 本当に驚いているディケイド。

「我々の敵はファイズ、どこから来たか知らないが、消えてよ。」

 タイガーオルフェノクの威厳ある姿から青少年の声が聞こえてくる。

「この学園に潜り込んで、何をするつもりだ?」

 驚きはするがたじろぎはしないディケイド。

「オルフェノクは、人類を支配する!」

「後ろよ。」

「ぐわ」

 背後から斬りつけられるディケイド。いつのまにか背後に立っていたのはロブスター。ディケイドの視界には斬りつけられる寸前まで4体のオルフェノクがいたはずである。決してタイガーに気を取られていた訳ではない。

「今度はボクの力を見せてやろう。」

 センチピード、ムチを片手にその像が2つに増え、そして4つになる。それは目の錯覚ではない。

「ぐ」

 蹌踉けるディケイドの首に巻き付けられるムチ。引きずられ、2本めのムチがさらに胴に巻き付き、3本めと4本めがディケイドを伐つ。

「玄田君。君はよく思い込みで死ぬね。これで何度めだい?」

 タイガーとドラゴンは、ディケイドへの合計オルフェノク5体によるリンチを傍観している。

「じゃあ奴の攻撃は、」

「あの下品なピンクの光はオルフェノクには通じない。自分で証明してみせたまえ。」

「くそ・・・・、おいそいつを放せ!」

 ドラゴンの巨大な四肢、巨大なボディが灰と化して崩れる、だが全身が崩れたわけではない、骨のように肉体を削ぎ落としたドラゴン、一瞬見えなくなる、次に見えた時はディケイドの眼前に立ちはだかっていた、

「速い」

 その細い腕が振り上げられる、至近で眺めながらも、軌道を読む事ができるにも関わらず目が追いつかずその腕の動きが断片的にしか見えない、
 抉られる顔面、吹き飛ぶディケイド、だがディケイドもまた吹き飛ばされながらカードをバックルに装填した。

『ATTACK RIDE BLAST』

 連射するマゼンダ、合計6体のオルフェノクのボディを直撃、

「なるほど、奴はファイズじゃない。」

 ドラゴンは削ぎ落としたはずの重厚な四肢が復元している。だがディケイドの弾丸に怯む事も無いのは重厚だからではない。

「おまえはオルフェノクには勝てない。決してな。」

 並んで同じく何発も食らいながらも平然としているセンチピード。

「教えてあげるわ。オルフェノクは言わば精神体。貴方の使うその武器は全て物理的な法則に支配されている。効くはずが無いのよ。」

「また」

 驚愕のディケイドに、なお背後から声をかけるのはロブスター。ドラゴンの超速はまだ見えぬ事は無かった。しかしロブスターは視界にいたにも関わらず既に背後にいる。
 ロブスターのレイピアがディケイドを薙ぐ、 ハードコートを転がるディケイド、

「見極めてやる。」

『KAMEN RIDE BLADE』

「姿が変わった?」

「なんだあのベルトは?」

 ディケイド-ブレイドへの変化に、今度はラッキークローバーの方が驚く番だ。しかしそれも危機感を生む程ではない。

「それがなに?」

 やはり気がつくとディケイド至近に立つロブスターがいる。

「見極めると言ったぞ。」

 そのレイピアの動きを見切った訳ではない。ただ声がしたから闇雲にステップしたに過ぎない。攻撃を躱せたのは全くの偶然である。しかしディケイドのカード装填は確信であった。

『ATTACK RIDE TIME』

 それはブレイドスペード10と同じ働きをする『タイム』の効果。時を止める。
 静止する世界、静止する大気、静止するオルフェノク。しかし静止しないものもある。

「ぐ」

 伐たれるのはディケイド-ブレイド。止まった時の中で動けるのは彼のみであるにも関わらず、ロブスターの刃が襲った。つまり。

「貴方も時を止められるのね。」

「おまえもな。」

 ディケイド-ブレイド、困惑したロブスターに向かってラウザーを振りかぶる。

「言ったはずよ。効かないと。」

 ラウザーの刃を素手で受け止めるロブスター。
 『タイム』の効果が切れる。それは抑止された状態の無防備を意味する。

「終わりだぁ!」

 ムチを撓らせるセンチピードが迫る、

「ウゼエんだ!」

 ドラゴンの豪腕が大気を歪めて迫る、

「くそが」

 ディケイドの頭が真っ白になった。もはや走馬燈が過ぎってもおかしくない状況だった。

『スタートアップ』

 いずこから不連続な電子音が聞こえる、
 いつのまにか紅の光の杭が4体のオルフェノク頭上に浮かぶ、
 そして上がる4体の絶叫、

「ファイズ、あれがファイズ、」

 ディケイドがあれほども苦戦したラッキークローバー4体が、一瞬で立体を失って灰と化した。顕した姿は通常の紅いラインのファイズではない。より強力な銀のフォトンを全身に巡らせた『アクセルフォーム』。

『コンプリート』

 開いた胸が閉じ、基本フォームに戻るファイズ。

「この学園から去った方がいい。」

 だがしかしディケイドを振り返らない。
 ディケイドは仮面越しに睨みつける。

「学園の英雄だな。ファイズってのは。敵ナシだ。」

「ファイズになれるという事を、君は何も分かっていない!」

 跳躍するファイズ、一飛びで校舎の屋上へ。

「・・・・・、待て!」

 唐突な憤りに充てられ唖然としたディケイドは、ただ無分別に後を追う事以外できなかった。

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