尾上タクミが学生服の埃を掃って草陰に立っている。右手には金属の厚いアタッシュケースを下げている。ケースには『スマートブレイン』のロゴが入っていた。
「尾上タクミ。」
同時にシャッター音とフラッシュが焚かれる。咄嗟にタクミは顔を伏せた。あのラッキークローバーと同じ反応だった。
「撮るな!」
そして思わず左掌が士のトイカメラを弾いて、いずこかの草叢へ飛ばしてしまう。
「いて」
当然つり下げていたヒモは千切れ、士の首には赤みを帯びた痣がついてしまった。
「ごめんっ」
タクミは、士の眼前に立つ事が居たたまれなくなった。そして背を向け駆け出した。
「聞きたい事がいろいろあるんだがな。」
「探してくる!」
タクミにはもう、そんな士のかけ声も聞こえない。
「ま、大体分かった。」
トイカメラで撮った写真には、ボヤけたタクミの顔、だがしかしその寂しげな目だけはレッドアイになりながらもはっきりと写っていた。
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