2011年2月22日火曜日

3 ファイズの世界 -夢の狩人- その19









 士の耳に波の音が聞こえた。
 そこは海岸。満潮になれば間違いなく海に沈む磯。

「ようやくこの時が来たね。ディケイィドぅ。」

 目は充血している鳴滝だった。

「鳴滝、おまえの目的が大体分かってきたぜ。」

 そんな風に言うしかない士の鼻が潮の香りでツンとする。

「喜んでくれ。君の為に最高のライダーを用意した。」

 鳴滝の心臓が初恋の乙女のように高鳴る。
 士は大気の流れが変わった事を感じた。
 迫ってくるオーロラの壁、過ぎった後の岸壁に立つ姿は真黒のライダー。

「リュュュュウガァァァ!」

 眼前に立つのは『龍騎の世界』の、士と共に戦ったシンジとうり2つ、ただカラーリングだけが漆黒というライダー。『龍騎の世界』で屈指のパラメーターを持つリュウガ。
 その龍頭を模した左腕ガントレッドが士に向けて振り上げられた。

「冗談、」

 士は不安定な足場ながらも、ステップで躱す。
 本来『龍騎の世界』のライダーはミラーワールドモンスターとの契約によってスーツに力をトレースする。それをただの人間が着込むのが基本だ。スペックが上がるものの、反射や動作は人間のそれを越えるものではない。このあたりがアンデッドと肉体的な融合をする『剣の世界』や、コンピューターがサポートする『ファイズの世界』と違うところだ。

「ぐわ」

 だが掴まると、そのスペックが否応無く牙を剥く。たった一撃掠った風圧で、突き飛ばされ砂浜を小石のように転がる士。いや砂浜である事がむしろラッキーだったかもしれない。

『ストライクベント』

 間合いを置いて、鳴滝と立ち並ぶリュウガ、アドベントカードを使って片腕にドラグクローを装着。

「さようなら、ディケイィドぅ」

 人生最大の瞬間を噛み締める鳴滝だった。
 士は大気の熱波を感じた。それは明らかに眼前で構えるリュウガからにじみ出るエネルギー。

「いいのかい鳴滝さん、士を倒してしまうとアナタは恨む対手をこの地上から失うんだよ。」

 突如砂浜に響き渡る細い男声。
 鳴滝は顔を引き攣らせた。

「待てぇ、リュウガぁ!」

 気流が奇妙に乱れたのを感じる士、
 士と鳴滝の間を真っ二つに出現するオーロラの壁、

「海東、」

 轟く銃声、
 オーロラの壁が破砕、
 中から現れたのはあの優男海東、
 右手にはディエンドライバー、左の指には既にカードを挟んでいる、

「変身、」

『KAMEN RIDE DIEND』

 出現する3つのシンボル、3つのカラーリングが同じ形の実体と化して縦横に駆け巡り、最後に海東に集約、全身をシアンに塗り込めたライダーが出現する。

「リュウゥゥゥガァァァ」

 という鳴滝の叫びも空しく、ディエンドの弾圧に抑止され、急接を許してしまう。

「龍騎系はカモだね」

 銃撃を止めて、拳が入る距離まで近接するディエンド、
 銃撃が止んで、拳で応じるリュウガ、
 ディエンドの拳がリュウガの顔面に入る、
 リュウガ、微動だにしないでガントレッドを腹部、
 壁にボールが跳ねるように押し返されるディエンド、
 しかし宙をバック転、
 重心を崩さず着地、
 リュウガが追い打ちをかけチャージ、
 だが既にディエンドはリュウガの背面に回って、なお勢いを殺さず顔面に運動量ごと拳を叩きつける、
 姿勢を崩すリュウガ、
 軸回転したリュウガの背面へなおも回り込んで同じように運動量で一撃するディエンド、 2回と言わず4回、5回と一撃離脱を繰り返すディエンド、
 リュウガ、反撃しても全てその脅威の速力によって回避されてしまう、
 その仮面に守られているものの、ついには重心を崩し倒れ地を舐め転がるリュウガ、

『アドベント』

 しかしリュウガの転倒は、ディエンドにとって攻撃の難しい姿勢だった、
 リュウガ、その間隙に転倒したままバイザーへカード装填、
 それはリュウガの契約モンスター『ドラグブラッカー』を召還するカード、
 降臨し一旦リュウガを周回、吠え、ディエンドに突撃、長蛇のボディがディエンドを掠め、末端の刃の付いた尾がディエンドを斬りつける、

「ぐわ」

 龍騎の世界のライダーの特徴は、動きは人間並な事である。それ以上のモンスターと対峙するに、スーツの防御力と、強力なカード群による打撃力、そして契約モンスターの召還によって拮抗するしかない。そしてモンスターの動きは、超絶のディエンドの運動量のさらに上をいった。
 今度はディエンドが翻弄される、
 数度の一撃離脱を食らって呻き、
 重心を崩したところドラグブラッガーに身を咥えられはるか上空へ、
 そして士から点に見えるような高みからディエンドが投げ出された、
 砂浜に叩きつけられ、砂塵を舞い上がらせるディエンド、失神したのか動く事もなく、呻く事すらしなくなった、

『ファイナルベント』

 それはリュウガの必殺技。
 ドラグブラッカーがリュウガの背面へ回り込む、リュウガが地上から浮遊、ブラッカーが口を開く、

「ミラーワールドライダーの欠陥はその必殺技にある、ほとんどの場合、一網打尽さ。」

 リュウガの動きを待っていたディエンド、 立ち上がり、自身もまた1枚のカードを左腰のホルダーから取り出す、それはディエンドのシンボルだけが描かれたカード、

『FINAL ATTACK RIDE dididiDIENDdd!』

 ドライバーを向けるディエンド、
 その先にリュウガとドラグブラッガーが直線上に並んでいる、
 ドライバーから光の像と化して幾枚ものカードが飛び出し、ドライバー前方に渦状の進路を作るかのように周回、それはもはや砲身、

「りゅっっっっっがっっっ」

 ドラグブラッカーより黒い炎が吐かれ、それを纏ったリュウガが蹴撃の態勢でディエンドへ、

「ここがミラーワールドでなくて良かったよ。鳴滝さん。」

 カードの渦を巨大な銃身としたディエンドがトリガーを引く、
 カードの渦を纏った巨大な光芒がリュウガへ一直線、
 『ドラゴンライダーキック』を呑み込む『ディメンションシュート』。

「なぜ、なぜディエンドがディケイドをっっっっ!」

 爆発し、直線上にあったドラグブラッガーごとリュウガを光へ消し去るディエンド。鳴滝は絶句した。

「鳴滝さん、いいかい、恨む対手を殺しても自分の頭に恨む想いさえあれば人は恨み続ける事ができる、むしろ殺した方が、報復を怖れずより一方的に恨み続ける事ができる。今日のところは士を貰っていくよ。」

 再び砂浜の底から湧いて出てくるオーロラの壁、壁が速やかに動いて海東と士を透過していく、

「おもしろいぞディエンド、おまえとディケイドは決して相容れない、やがて滅ぼし合う!」

 1人磯に立つ鳴滝に、たまたま海の向こうの震災を原因とした大津波が押し寄せ、頭上から被る。

「ごめんなさ~い。あの子ワタシの事捕まえて脅すもんだからつい、・・・・」

 そこへちょうど白い小さなコウモリ、キバーラが鳴滝に向かって飛んできた。キバーラが見た鳴滝は、拳を握りしめて全身を震わせていた。決してズブ濡れになって潮風に凍えたからではない。

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