2011年2月22日火曜日

3 ファイズの世界 -夢の狩人- その15









「おめでとうございます。これでボクも、ラッキークローバーの一員ですね。」

 本質的に他人を誉めていない海東であった。

「どういう事だ?そんなバックがなんだというのだ?」

 戸惑いを覚える城金の像が変わる。センチピードオルフェノクはムチを携える。

「なんのつもり?」

 同じく海東に敵意を顕す朱川の像も変わる。ロブスターオルフェノクの細いレイピアが光る。

「・・・・・オルフェノク、冴子まで・・・」

 驚くのは由里ばかり。そこへ、

「うぉぉぉぉぉ」

「くそぁぁ」

 由里の眼前を横切る形でディケイドのピンクのボディが飛ばされてくる。転がり敷石に伏すディケイド以外目もくれず、ボディを再生したドラゴンが吠えかかる。

『ATTACK RIDE BLAST』

 ドライバーを連射するディケイドだが、

「効かないと言ったはずだぁ!」

 だがドラゴンは胸や頭に数十の光線をまともに食らいながらも、平然とその鈍重なボディを進め、ついにはディケイドの顔面を片腕で掬い飛ばした。

「苦戦してるね。士。助けてやろうか。」

 転がった先は海東の足下。

「なんだと」

 海東はおもむろに一丁の銃を取り出す。拳銃にしては今時異様に大きいそれは、銃口が2つ、グリップは1つ、銃口下部には筒状のフォアグリップ、それ以外は矩形の中に纏められている。『ディエンドライバー』。

「なんのつもりって聞いてるのよ!」

 もはや戦闘態勢に入っているセンチピードとロブスター。

「ラッキークローバーに、5人は多過ぎる。」

 海東の顔から笑みが消える。
 反対の手にはカード。それはディケイドのそれと規格を同じくする図柄。ただ一点、そこに描かれているライダーの顔は、ディケイドの全く見知らぬマスク。海東の銃の左側面、フォアグリップ直上にカードを差し込むリーダーがある。ドライバーボディの矩形はカードの幅とほぼ同じだ。

『KAMEN RIDE』

 海東が銃のフォアグリップを掴んで銃身を伸ばす。伸びたボディはだがしかしそれでも矩形、これで差し込まれ固定されたカードをリーディングさせる。海東は、銃をそのまま天頂に掲げた。

「変身!」

『DIEND』

 頭上に向けて撃ち出されるシンボル、海東を全包囲から同じシンボルが3つ出現して取り囲み、ディケイドと同じく、海東に折り重なってスーツと化す。刺さった頭部のスリットは大小合わせて10、その全てがシアンに輝き、頭部のそれと平行にいくつものスリットが肩や胸に装甲として並ぶ。ベルトのバックルはディケイドのそれよりも一回り大きく、暗い画面が反射だけで光っていた。

「オレに近い、ディエンド・・・」

 ディエンドがディエンドライバーをそのまま振り下ろしオルフェノク3体に構えた。

「士、見ていたまえ。これがボクの戦い方だ。」

 連射連射連射、

 5メートル幅に弾幕を張ってオルフェノクを威嚇するディエンド、しかしオルフェノク3体は数十の光弾を浴びせられながら全く微動だにしない。

「ボク1人で十分だ。」

 センチピードが一歩前へ出る。左右に容姿の全く同じオルフェノクが出現、その分身もさらに倍に増え、一気に10体のセンチピードが出現。その全員がムチを振るいながらディエンドに急接、

 ムチが振り下ろされる、
 至近1メートルで躱すディエンド、
 反対からもムチ、
 転回してこれも躱す、
 今度は2本同時、
 膝を直角に、体を倒し込んでスウェー、
 今度は直上から跳躍して蹴りを入れようとする一体のセンチピード、
 それをバック転で振り上げた両脚で弾き返すディエンド、

「尾上を連れて行け、早く!」

 一方ディケイドも既にドラゴンの龍頭をした豪腕に迫られ、後退しながら受け流すだけで手一杯、怯えながらまだ立ち上がっている由里を見てなお狼狽えるタクミを任せる。

「他人の心配をする余裕があるのかい士。」

 ディエンド、その軽やかにも程がある身の熟しでセンチピード群の猛攻を躱し続け、なおディエンドライバーへカードを装填、

「おまえこそ避けてばかりじゃないか。」

「言ったよ。ボクの戦い方と。」

 そして同じくスライドし読み込ませる。

『KAMEN RIDE NIGHT』

『KAMEN RIDE KABUKI』

 同時に撃ち出されるシンボルが2つ、縦横に量子的可能性がオルフェノクやディケイドの周囲を展開し、そしてこの世界において1つの実存として確定する。ディエンドのライドはディケイドのように姿を変えるのではない。

「他のライダーを呼び出しただと。」

 唖然とするディケイド。ライダーを召還するライダー。そしてそれは自分に極めて近い力を持つ。はじめて海東という者を意識した士だった。

「こいつは、なんだ、」

 センチピード群全てが唖然とする中、ナイトはバイザーへカードを装填、

『トリックベント』

 ディエンドに召還されたナイトが、さらに増殖する。光の屈折がナイトとなり、そのさらに隣にもナイトが出現。それは虚像ではない。その証拠にセンチピード群により圧倒する数で襲いかかり、組み着いて、ディエンドをフリーにしていく。

「1人でやるんじゃなかった?なんなら交換しない?」

 召還されたカブキ、音叉剣を肩で担いで戦況をゆとりで見守るロブスターへ挑み掛かる。ロブスター、鍔迫り合いだけで渡り合い、未だ余裕にその能力を発揮しない。
 一方、フリーになったディエンド、さらにカードを装填。

「士、教えてやろうか今君ができるオルフェノクの対処法を。そこのドラゴン、これ、効くよ。」

 ディエンドがドライバーを連射、撃ったのは目。さすがに眩しいらしく怯むドラゴン。手の空いたディケイドはカードを1枚取り出す。

「いや、」手にしたカードはキバ。「分かっている。」

『KAMEN RIDE KIBA』

 ディケイドのボディが銀の光沢を帯びて表面が剥離、中から現れ出でるは仮面ライダーキバ。

「うぉぉぉぉ!」

 視界を取り戻したドラゴンは、怪しげなディケイドの一連の動きに、攻撃衝動だけで制止させようとする。

 軽やかに躱し、
 視界ギリギリ外れる右側面に立ち、
 ラッシュ、

「なぜだぁぁぁ」

 吹き飛ばされるドラゴン。
 ディケイドは手応えを実感して思わず拳を撫でる。

「おまえらオルフェノクはいわば肉体の無い生き霊だ。キバにとってはな、それはただのライフエナジーの塊でしかないんだよ。」

「くそがぁぁぁ!」

 装甲を脱ぎ捨て骨身になるドラゴン、超速でディケイド-キバの死角に回り込む。

「おまえにはもう負けん。」

 つまりディケイドはけっこう悔しがっていた。カードを取り出す。

『FORM RIDE KIVA GARULU』

 ドラゴンがディケイド-キバを背面から突く、
 だが敷石を掘るドラゴン、
 既にドラゴンの背後を回り込むディケイド-バ一閃、

「くそ」

「おらぁ」

 青に染まったディケイド-キバ、ガルルセイバーを掬い上げ、勢い手放し直上へ投げる、 ドラゴンが振り返りラッシュ、
 ディケイド-キバも応じる、
 果てしない打ち合いの末、ドラゴンの顎先が仰け反った、
 跳躍するディケイド-キバ、手にするは落ちてきたセイバー、落下と同時に振り下ろす、

「キサマぁぁぁぁ」

 幹竹割りを食らってドラゴンが吹き飛ぶ、 吹き飛んだドラゴンはしかし、巨大な装甲を復元させる、

「言ったぞ、もう負けんと。」

『FORM RIDE KIVA DOGGA』

 紫にその姿を染めるディケイド-キバ。背筋を伸ばし、四肢の動きもやや重い。手にするのは剣ではなく、巨大な掌の形をしたドッガハンマー。

「オレはオルフェノクで一番強いんだぁぁぁ!」

「そんな事考えてたのかよ!」

 互いにゆっくりと間合いを詰め、
 ドラゴンが龍頭の腕を振り上げディケイド心臓を狙う、
 ディケイド-キバ、腕ごとドッガハンマーで叩きつける、

「くそぉぉぉぉぉぉ」

 弾けながら燐光に燃え、そして灰となって拡散するドラゴンだった。

「あいつは態度だけだな。」

 足下に灰が被ったのはセンチピードの一体。ナイトの数のゴリ押しに最初は戸惑ったものの、翻弄はしても決定的打撃を与えられぬナイトを徐々に廃絶していく。ムチで叩き潰すと鏡が割れるように消えていくナイトだった。

「なにが一番強いよ。笑わせるわ。」

 同じく一太刀が全く通じないカブキは、ロブスターに心臓の位置を突かれて燃え、光となって拡散。ロブスターの切っ先はディエンドへ向けられる。

「これからさ。」

 ディエンド再びカードを取り出す。

『KAMEN RIDE ODIN』

 それはナイトと同じ龍騎の世界のライダーODIN。翼広げる肩の横幅がロブスターの眼前に立つ。

「壁にもならないわ!」

 時間を制止するロブスター。この世の全て、ディケイドもディエンドも、最後のナイトを葬ったセンチピード群も、大気の流れも全て制止、当然凝固しているオーディンをスルーして背後のディエンドの腹を刺し貫く。

「全ては私にひれ伏すわ。」

 再び時は動き出す。青き燐光が輝き燃えさかるディエンド。藻掻き苦しむ姿にロブスターは嘲笑した。

『タイムベント』

 不動だったオーディンがその時動いた。自らのアドベントカードを杖に差す。
 引き抜かれるレイピア、
 だがそれはロブスターの意志ではない、
 1人でに逆戻りしていく、
 燐光が収まり五体が元通りになるディエンド、
 後ろ走りし、見えないはずのオーディンを小器用に回避して手前に踊り出る、

「時を戻すなんて、」

 ロブスターの行為が全て無に帰す時間逆光現象。

「いいかいお嬢ちゃん。時間操作でもっとも強力なのは『戻す』さ。」

『FORM RIDE KIVA BASSHAR』

「大体その通りだ。甘ちゃん。(なんだかよくわかんねえけど。)」

 ディエンドより早くディケイド-キバが動く、ドラゴンを葬り即座に緑に身を染めて、バッシャーマグナムを放つ。

「私には効かない!」

 再び時間停止するロブスター、
 ディケイド-キバからの光弾を制止して避け、
 ディケイド-キバ眼前、レイピアを叩きつける寸前時間を動かす、

「ぐぉ」

 その身から火花散って倒れるディケイド、

「時には誰も逆らえない!」

 絶叫するロブスター、しかし自らの影が前に向かって異様な速度で伸びていく様に気づいて絶句に変わる。

「一撃で急所を狙えないのは、甘ちゃんって事だ。」

 背後を振り返るロブスター、
 眼前には先に避けたはずの光弾が追尾してきている、
 直撃、
 倒れるディケイド-キバを飛び越えて敷石に転がるロブスター、
 青い炎の尾を引き爆破、灰が拡散する。

「なにがあった、いったい。」

 残ったのは10数体のセンチピード群、最後のナイトを葬る寸前まで時が遡ったのを自覚していない。

「士、」

 ロブスターを任せるままにディエンドはそんなセンチピードとディケイド-キバを交互に眺め、カードを装填。

『FINAL FORM RIDE kikikiKIVA』

 ディケイド-キバに向けてドライバーを照準。

「ん?」

「痛みは一瞬だ。」

 胸を光線が刺し貫く、

「ハゥ」

 だがディケイド-キバを攻撃したわけではない、
 ディケイド-キバ背面に現れる円形の文様、奇妙にメカニカルな変形で、左同士と右同士の手足が癒着、ディケイド-キバ全体が巨大な弓と化す。『キバアロー』。

「数こそ力だぁぁぁ!」

 と一斉に号令しながらディエンドに向かって突進するセンチピード群。

『FINAL ATTACK RIDE kikikiKIVAaa!』

 ディエンド、悠然と大弓を向けて、いつのまにか出現した銛のような矢を掴んで、弓をいっぱいに引く。さらに、

『ATTACK RIDE ILLUSION』

 10数のセンチピード群に対して横列に分裂するディエンド、
 抱えるキバアローも分裂する、
 10数の矢が一斉射、

「うぁぁぁぁぁ」

 爆砕爆砕爆砕爆砕、

 横一線発射された矢が全てのセンチピードを貫き爆砕した。

「共闘というのは、もっと盛り上がるところでだな、」

 3体のオルフェノクを立て続けに始末した両者。ディケイド-キバがその姿を弓矢から戻す。

「一言注意していおく。」

 ディエンドはドライバーをブラブラと弄んでディケイドに向ける。

「なんだ?」

「キバの魔皇石の光の波長に、オルフェノクに干渉する波長が含まれていたに過ぎない。キバの力はあらゆる属性の世界に通じるが、君の考えてるような理由じゃない。勘違いするな。士。」

 押し黙るディケイド。

「おまえ、自分の話しかしないって嫌われてるだろ。」

 とだけ絞り出した。その手にスマートブレインのロゴが入ったアタッシュケースを持って。

「いつのまに!」

 慌てて手を伸ばすディエンドだったが、

「着いてこれるか!」

 一飛び85メートルの跳躍をするディケイド-キバ。

「やれやれ。本当に邪魔する気とは思わなかった。」

 一旦ディエンドライバーを構えたものの、首を振って収めるディエンドだった。

0 件のコメント: