2011年2月22日火曜日

3 ファイズの世界 -夢の狩人- その21









 細い腕がベルトを掴む。

「由里ちゃん!」

 そう、タクミの隣にはずっと由里がいた。由里は、小刻みに震えながらベルトを巻く。自分に。たどたどしく携帯のボタンを押し、バックルに装填。

『コンプリート』

 無感情に響き渡る電子音。紅い格子が由里の肢体を包む。現れる姿は紛う事ない仮面ライダーファイズ。

「由里ちゃん・・・」

 タクミはその意味を完全に理解した。

「やっぱり、そうだよね。」

 放心したように自分の掌を見つめるファイズ。その間隙にライオの攻撃を潜って踊り来るセンチピードの一体。

 蹴り、

 それは軽く右脚を上げただけの、腿だけの蹴りだった。鳩尾に食らって制止するセンチピード。いやもはや動く事はない。そのまま瞬時に灰となって崩れた。
 自分の体全身を眺め出すファイズ、呆気にとられて立ち尽くしていた。

「スキじゃぁぁぁ」

 ファイズの復活を過剰に捉えたセンチピード、もはや支離滅裂となって一斉にファイズに突撃、特攻を敢行した。

『スタートアップ』

 囲まれムチ打たれる、だが体が透過する、それは残像、既に超高速の域に到達している。

 頭上に輝く無数の杭、杭、杭、
 声を上げる前に既に刺し貫かれ、一掃されるセンチピード、

『3、2、1・・・タイムアウト』

 タクミの眼前に現れる、もはや迷う事無く残ったオルフェノク2体を睨む。

「おまえ、」

 士が立ち上がる。ブッカーより光り放つカードが数枚士の手元に踊り出て模様を明確にする。

「もう守ってもらうだけの女はイヤ。」

『エクシードチャージ』

 足にポインターを装填、跳躍しローズの頭上へ蹴撃の態勢で突っ込むファイズ。

「小娘がファイズだと!」

 ライオトルーパーに絡みつかれ、華麗な体術でなぎ払うローズだったが、頭上の脅威に対処できない。

 脳へ入るクリムゾンスマッシュ、
 脳で受け止め、なお抵抗するローズ、

「私は重心になるっ」

 ローズの脳から無数の花びらが放出、
 弾き返され、宙で態勢を崩したファイズ、
 そこへローズの撓る腕が突き上げられる、
 士達の元へ吹き飛ばされ、転落様ベルトが着脱、由里の頬に擦り傷が付く、

 ぐぉぉぉぉ

 だがローズもスマッシュを食らったエネルギーが全身を駆け巡り、青い燐光の炎を放って灰と化す。

「友田由里、最後通告だ。君は言わばボクの力で蘇った。ボクには返しきれない恩ができた。さあ、今なら見逃してやる。そのファイズギアを渡し、そして正しい生き方をするのだ。」

 ただ1人残ったタイガーはしかしこの形成に至っても怯まない。

「由里ちゃんは、おまえ達と同じじゃない!」

 タクミがまず叫んだ。

「私は戦う、人間として、ファイズとして!」

 再びバックルを拾う由里。
 一方のタイガー、触手をローズだった灰に伸ばして光を与え即座に復元させる。

「この通り、ボクがいる限り、オルフェノクは永遠に不滅だ。」

 ローズも手もみする。

「そして彼の能力を奪えるのは私だけ。つまりこの世界のオルフェノクは我々に従うのが正義なのだ!」

 2体の怪物が少年と少女、そしてもう1人を睨みつける。

「由里、いいか倒しても。」

 士はそれだけを聞いた。

「私は、いえ、人間はあんな奴に頼らなくても、いっしょにいられる。」

「そうか。」士は怪物2体に振り返る。「こいつらが欲しいのは絶対の支配者じゃない、洗濯物が真っ白になった時のようなすがすがしい笑顔、ただそれだけだ!」

 由里の隣に並びディケイドライバーを腰に宛がう士。

「キサマ何者だ!」

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ。」

 由里がファイズフォンをバックルへ差し込む。
 士がライドカードをバックルへ差し込む。
 同時に光を放って姿を現す2人のライダー。

「刃向かうのか!」

「裏切り者め!」

 突進してくる2大オルフェノク、

『ATTACK RIDE BLAST』

 弾幕、
 まるでカードのような光弾が宙を舞うように曲線を描きながらオルフェノクの顔面中心に被弾、
 寡黙に控えていたディエンドがドライバーで視界を塞いだ。

「海東、オレ達が決める。」

 だがそんなディエンドを敢えて制したディケイド、カードを一枚バックルへ装填、

『FINAL FORM RIDE fafafaFAIZ!』

 そうした上でファイズ後方へ回り込む。

「ちょっとくすぐったいぞ。」

「え、痛くしないで。」

 ファイズ頭部が扁平な板で囲まれ、両腕があり得ないメカニカルなギミックで背中に回り込み、宙に浮いて足先にノズルが出現。ディケイドが抱え込んだその姿は、肉体全身を銃身とした巨大なキャノン砲。『ファイズブラスター』。

「重心だぁぁぁ!」

「不死身だぁぁぁ!」

 異様に驚愕し、だからこそアグレッシブに突進する両オルフェノク、
 その差数メートルというところでブラスターのノズルを突きつけられ、怯んで横に回避しようとする2大オルフェノク、
 発射される紅い光芒、
 横薙ぎに光芒を叩きつけられ、はるか後方校舎の壁に亀裂を作るのはタイガー、そのままあっさり灰と化す、
 ローズは光芒から逸れて、地に転がる、

『FINAL ATTACK RIDE fafafaFAIZzz!』

 立ち上がったローズに合わせ、撃ち放たれるのは、巨大な紅い紡錘、即ち杭。

「たかだか若造共がぁぁぁ」

 踏ん張りながらも杭の圧力に足を引きずるローズ、
 この段階でブラスターから姿を戻すファイズ、
 ディケイドとファイズが並んで跳躍、

 ヤァァァァァァァ

 ローズの目に映るライダーの動きは、驚く程スローに流れて向かってくる、それに対処する事ができない憤りがスローであればあるほど焦りとなる、
 杭を押し込む形で蹴撃を加える2人のライダー、
 ローズの肉体を透過、
 ローズにはもはや痛みすら無い、
 ローズ後方へ着地し、やや地面を滑るファイズとディケイド、
 ローズは振り返り、だが燃え、立体を崩して石畳の平面に薄く灰がバラ撒かれた。

「終わったな。」

 ディケイドは両掌を2回叩く。

「まだよ。」

 ファイズは校舎の壁、亀裂の入った壁を注視している。

「ボクは、不死身だぁ・・・」

 灰が寄り集まって人の形を作る、見るからに体力の消耗の激しい百瀬がなおファイズ達を睨み返していた。

「いや、大体分かっている。」

 だがディケイドは言う。

『KAMEN RIDE BLADE』

 そうしてなぜかブレイドへ変身。

「オレは倒せない。たとえファイズでもな。何度でも、何度でも蘇り、仲間を増やし、いずれ貴様等を!」

「前の世界ではな、不死身は当たり前なんだ。そしてその対処法も、既に分かっている。」

 ディケイド-ブレイドはブレイラウザーを抜く。

「そういう事。」

 百瀬に向かって放たれたのは1枚のカード。しかしそれはディケイドが投擲したものではない。

「海東、」

 タイガーに刺さるカード、それはブレイドの世界でディエンドが得た『ケルベロス』。百瀬の胸に突き刺さり、百瀬全身を翠の発光で包む。その内百瀬の肉体が翠の光に押しつぶされ、その姿を1枚のカードへと変貌させていく。それはケルベロスの封印の能力。

「士、このお宝は、貰っておくよ。このもっとすごいお宝を。」

 手元に自律的に舞い戻った2枚のカードを眺めて今にも踊り出しそうなディエンドが除装し、怪しい程屈託の無い笑顔を晒す。

「こいつ、そういう事じゃ。」

 士もまた呆れた顔を晒す。だが視線は、少年と少女に注がれていた。

「これ、由里ちゃんのカメラ。」

 タクミは既に変身を解いた由里に637を渡す。一度手にした由里はしかし、迷った挙げ句タクミに突き返す。

「タクミが、これからはこのカメラで、みんなの笑顔を撮っていって。私は、もうその資格が無いから。」

「ダメだよ由里ちゃん。」

「私は、私の事が怖いの。人を裏切るかもしれない。」

「だったら、ボクを信じて。由里ちゃんを信じてるボクを信じて。」

 顔を両手で覆って泣き崩れる由里。

「行こう。」

 そんな由里の手を取るタクミ。2人は互いに637を掴んで、士に背を向け校舎へと歩んでいく。

「オレもあんな頃があったのかな。」

 士のトイカメラで撮った写真は、少年と少女の背中に、2人が手にするトイカメラが重なっていた。

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