2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その8







 UNKNOWN、軍事用語で、国籍不明機を指す。

「一体ばかり倒したからって何になる、奴等に目をつけられたら大変な事になるぞ。行け。」

 芦河ショウイチはその時ようやくにして眼前の男が郵便配達の制服を着ている事に気づく。

「オレはただ、郵便を届けに来ただけだ。」

 士は眼前のホームレスそのものの見てくれの男の、眼光の鋭さに内心たじろぎ、顔は薄ら笑みを浮かべた。手にした芦河ショウイチ宛の封筒を男の手を態々取って握らせる。

「1年前の消印、今更ナンだ。」

 士の眼力にも平然を装うショウイチは、手紙の中身も送り主の名も確認しないで破り捨てる。

「あぁぁぁ、いぃぃけないんだ、いけないんだ!リョウタロウも言ってたぜ、人様の好意を無下にするヤツぁ、クマ公に咥えられて死んじめえてなぁ」

 猛々しくスカートを捲くってスパッツのライン丸見えになるガニ夏海。それを見てうんざりした顔でショウイチは指差す。

「大体こいつは何だ!逐一ピントがズレている、おまえのオンナか!」

 ショウイチに掴み掛かろうとする夏海はしかし、士に頭を鷲掴みにされる。

「ナンダ、テメエ、口ん中に手ぇ突っ込んで鼻から指出すぞこらぁ、ってこの体の女が言ってます。」

 士は無表情に夏海とショウイチを交互に眺め、

「気にしたら負けだぞ。オレも気にしていない。川のせせらぎを気にする人間はいないだろ。」

 士に殴り掛かろうとするも、頭を掴まれたまま、グルグル両手を回すもリーチが届かない。

「とにかく!二度と近づくな。さもないと、」

 夏海の頭を押さえ込みながら捨てた手紙を拾う士に向かって、ショウイチはガンを飛ばした。
 その時である。

 ・・・・・・・・

「やばい」

 鼓膜が破けた時に聞こえてきそうな耳障り。瞬間、士の脳内でフラッシュバックする体験に基づく危機感、つまり直感。慌てて夏海を推し倒し、覆い被さる士。

 光のグランドクロス、

 天から降下してくるのは白光した巨大な十字架、

「はぁ!」

 ショウイチ、降りかかる十字架に自ら片腕を伸ばし、力、いや念を込める。

「念動力、ライダーじゃないのか、ヤツは。」

 士は宙で抑止される十字架に、倒れながら唖然とした。明らかに見えざる力でショウイチが抑え込んでいる。その十字架の軌跡の元を目で辿った士は、百年単位で伸びていると思われる巨大なブナの枝、地上より10メートルの高さにあるそれに人影を認める。
 人影は黒一色のセーターを纏った青白いほど顔の血色が悪い少年に見える。そのどこにでもいそうな少年よりも目を引くのは、少年の得物、刃先が金色に光る三つ叉の槍。士はそれを『至高のトリアンナ』という事を知らない。
 槍の刃が光ると、連動して十字架の光が増し、堪えるショウイチが発汗を伴って呻いた。

「ぐわ」

 圧し負けるショウイチ、十字架はそのままショウイチに覆い被って爆破、河原一帯の草原を焼き尽くし、数メートル先、黒い少年が立つブナにも火が飛んで瞬時に燃え上がった。

「ありゃ、ありゃ、」

 士に乗っかられている形の夏海が、なぜかもがき始める。十字架の爆発に目が眩んで回復するまで一時かかった士、十代の女の肌の柔らかさを感じながら、夏海から退いて起き上がる。

「どうした?」

 士の体重から解放された夏海は飛び起きて燃え上がるブナに駆け寄ろうとする。士は当然それを制止して手を掴んで放さない。

「リョウタロ!、おまえリョウタロウじゃねえか!なんでおめえがオレをこんなメに遇わせんだぁ、なんでダぁ!!」

 訳も分からない事を喚き散らす夏海の腕を掴みながら、少年の蒼白の顔を睨んだ。かつてない圧迫感を士の全身が貫く。

「リョウタロウ!リョウタロウぉ!!」

「おまえは、あぎとでは、ない。あぎとになるべきにんげんでも、ない。」

 燃えさかるブナの上で整然としている少年の頭上に先の怪人と同じ光輪が浮かぶ。少年が士達に背を向けると同時に光の輪が少年に覆い被さり、その姿を呑み込んで消してしまった。

「リョウタロウ、オレに、オレに、」

 力無く膝を折って訳の分からない事を呟く夏海を放置して、士は倒れているショウイチの元に歩み寄った。

「あれが、大変な事か?」

 差し伸べる士の手を取らないで、起き上がり、土埃を祓うショウイチだった。

「前に会った時は、この世界の重心だとヌカしていた。オレは世界そのものから嫌われたらしい。おまえも、嫌われない内に、オレから離れた方がいい。これで分かっただろう。」

 背を向けて立ち去るショウイチを、士は追わなかった。
 理由の1つに、しゃがみ込んで足の袖を引っ張る夏海の存在があった。

「なぁ、オレに説明してくれよ、なんでリョウタロウが、オレにヒドい事すんだよ、おい、聞かせてくれ、」

「そのリョウタロウというヤツがおまえのなんなのかまずオレに説明しろ。」

 冷たく袖を掃う士だった。

「・・・・・リョウタロウ、オレ、なんで知ってんだ、オレ、何を言おうとしてんだ、わかんねえ、わかんねえ!」

「記憶が無いっていうのは便利なものだ。」

 士は伏せる夏海を襟首掴んで強引に立たせ、首を掴んだまま写真館へと足を向けた。

「おい、まて、まて、こら、後ろ向きで、乱暴に扱うなぁ、そう言ってんぜ、この体の主がよ、」

「オレに人質が通じない事は、分かっているよな。」

「放せって、この体のヤツが言ってんだ!」

 強引に士を突き飛ばす夏海。

「なんだ?」

 士も堪忍袋の限界に来ていた。一発で気絶させる位置を模索する。

「こいつがよ、この体の主がよ、似てるとさ、さっきのルンペンと。おまえがよ。」

 士はその時気づいた。その夏海の目は、潤んだ印象深い眼差しだけは、いつもの光夏海だと。

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