2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その7







 G3-X。
 未確認生命体、グロンギと対等に戦う事ができる唯一の希望。それが八代淘子が開発したボディアーマーGeneration-3-eXtention。人工AIが装着員をサポートし、学習する事で攻撃対象へのリアクティブ運動も自動化された、計7つの重装備の碧き最強兵器。その装着員は、まさに人類の救世主になるのと同じ。

「だらしいない。旧型のG3システムでそんな事でどうするの。」

 模擬ルームの厚いコンクリートの扉を開いて出た青いボディアーマーの者は、疲労が膝に来て転倒した。コンクリートの床にスーツの金属音が鈍く響いた。

「いく、ら、給料もらっ、ても割に合わないっス・・」

 装着者候補105人、書類選考にて23人に絞り、そして過酷な体力測定で残った5人の内、一人目段田は装着1分と保たず、二人目佐伯はそれを見て怖じ気づいて辞退、三人目であるこの蔵王丸、G3のマスクを外すと、滝のような汗を顔全ての毛穴から吹き出し、口は動くが眼球も定まる事が無かった。

「体力測定したばかりだぞ。ハードル上げ過ぎじゃないのか、八代。」

 八代による装着員選定をやらせるままにしていたソエノだったが、死人が出るかのような過酷な検定内容にさすがに危機感を抱いた。こんな事で自分が処分を食らうような事は勘弁して欲しい。がやんわりとしか言えないソエノであった。

「これくらい、彼なら簡単に、」

 それは隣でG3スーツを着込んでいるユウスケに聞こえるか聞こえないかというかすかに漏れたような八代の小声だった。

「八代、いい加減にしとけよ。」ソエノはポッケから仁丹を一振り手に取って呑み込んだ。「小野寺ユウスケ、君がバーチャルでの戦闘で1体でも未確認を倒す事を期待している。まだ誰もそこまでいった人間はいないからな。」

「ハイっ!」

 ユウスケの模擬戦が始まった。
 敵はユウスケもクウガの世界で一度対峙した事があるイカの特徴を持ったメ・ギイガ・ギ 。ユウスケはいつものクセで近接して格闘に持ち込む。ユウスケは若干の身の重さに違和感を感じながら跳び蹴りから組み手に入り、背後に回り込んで首を拘束しつつ脇を拳で打ち付ける。

「グロンギもパワーアップしています。それに、いつグロンギを越える敵が現れるとも限りません。」

 だが手応えが無い。それはシュミレートがそこまで再現されていないからであるが、腹を何度打っても手応えが無い。なまじ実戦の体感を持っているユウスケは、故に余計に感覚のズレに困惑し、そして隙を突かれる形で引き離され、距離を置かれ、ギイガの口から吐くスミをまともに食らう。

「限らない、じゃ人と予算は動かんぞ。警察がそこまでの兵器を実装する事に防衛省からも疑問の声が上がっている。小野寺、ギブアップか?」

 スミは酸素と融合して爆発、G3の胸元で炸裂し、ユウスケは転倒。もちろん物理的に攻撃を加えられているという事でなく、G3内蔵AIが、ダメージを擬装し、動きを強制しているだけである。だが機械に振り回される事がユウスケの体力を削り込んでいく。他の候補者は、接敵する前にこのAIに振り回され脱落していった。

「まだ彼は正常の範囲内です。しかし、私は確かに、今のG3-Xでも太刀打ちできないような強力な敵の存在を、」

 ユウスケ、装備の1つである高周波ブレードGS-03を片手に、微動だにしなくなる。その間にもギイガのスミは確実にユウスケの体力を削っていく。それを堪えているのだユウスケは。

「奴が消えたあの時の報告はオレも知っている。だがな、オレはそうは思わんが、おまえは自分の研究の為に、ありもしない敵をでっち上げてると思っている奴がいるんだ。少なくともそいつらの気分を解消してやる必要がおまえにはあるんじゃないのか?」

 堪えながら一歩、また一歩悠然とギイガとの間合い詰めていくユウスケ。G3の防御力に頼って強引に近接、1メートル先にスミを撃って装甲を爆破しても、なお堪えるG3に再び間合いを取ろうとするギイガ、その対手の攻撃が止んだ一瞬に一足でGS03を突き刺すユウスケ。G3の内部画面に、クリアの文字が浮かぶ。

「私の言う事に虚偽もでっち上げもありません。確かにあの未確認とは違う、未知の対象UNKNOWNはいるんです!」

 この八代のちょっとしたネーミングがいずれこの世界で広く用いられるようになる。

「女性が激昂するのは、ボクはキライじゃないですが、いい加減、小野寺君交替させた方がいいんじゃないですか?中でぶっ倒れてますよ。」

 突如現れる細面の男、クールな口調はどこか八代の癇に障ったが、それを表に出す理由が見あたらない。

「おお、すまん海東君、じゃあ君で最後だ。良い結果を期待しているぞ。」

 海東大樹はユウスケと交替直後、G3のトンを越えるボディを軽快に取り回し、なんと宙返りして敵の後背に回って撃つという離れ業を八代やソエノの眼前に見せつける事になる。

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