2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その9







「夏海が、夏海がぁ~」

 私達2人、まあ2と2分の1人くらいで、写真館に帰ってきた。
 この世の終わりのように泣き崩れる可哀想な私のお爺ちゃん。
 いいかげん私の体を乗っ取るを止めて出て行けモモタロス!だから鼻ほじるな!
 そうこいつ自身は忘れてるけど、名はモモタロス、人の記憶で実体化する赤いイマジン。この立場に置かれた私だからこそ分かる。こいつは確かに記憶が無い。というより記憶が奥底に眠ってる。私はこいつの頭を覗いてる。士クンはそんなこいつを疑ってる。こいつを、ええとそれってつまりは私を見る目がやたら戸惑ってる。どう見ていいのか困ってるかも。この世でこいつにだけは私の大股びらきを見られたくなかった・・・

「ケーキだったか。」

 騙されるな門矢士、こいつロクすっぽ覚えてない癖にハッタリで交換条件出しただけだ。

「プリン~ん」

 だから股開いて掻くなっ。

「プリンだ爺さん。」

「夏海あんな子じゃぁぁ」

 ああ可哀想なお爺ちゃん、清く正しく美しい孫娘のがこんな風になってしまって。それでもお爺ちゃん、キッチンに籠もってくれる。なんて人の良いお爺ちゃん。

「そこで聞きたい事だが、」

「目が右にあるのはカレイで、左がヒラメだぜ。」

 パクるな。

「改めて聞くぞ。あの黒いヤツは誰だ。ムダに顔のいい。」

 士クンはどうやらいつもの負けん気を起こしたみたい。

「体が大きめで鼻先が尖ってるのがアフリカ象、体が小さめで鼻先が丸いのがインド象だぜぇ。」

 丸パクリじゃねえかこの赤イマジン。

「根比べでオレは負けたことないぞ。ヤツらについて詳しく教えろ。」

「おいおいおい、こっちがボケてんだから拾えよ。ボケが恥をかくじゃねえか。リョウタロウならこんな扱いしねえぞ。」

「そのリョウタロウについて聞いている。おまえはあの黒いヤツをそう呼んだろ。」

「リョウタロウ?なんだそりゃ?」

「記憶喪失はツクヅク便利だなおい。」

 などと不毛に18分30秒が過ぎていく。

「はぁい光家特製プリンですよぉ。」

 憔悴し切った士クンと赤イマジンの間にグッドなタイミングでお爺ちゃんが大皿に乗せたプリンを載せて持ってきた。でもでも口元だけ笑ってるお爺ちゃんって、ロクな事考えてない時のお爺ちゃん。
 士クンはそのチキンの丸焼きくらいの大きさのプリンにこめかみを押さえている。たぶん2キロくらいはあるそれが思い切りブルンブルンしてる。見た目から人類の感覚に挑戦するようなその揺れ。たぶん甘い物好きの私でも一口で脳みそが泡立つような重量感。

「このプリンはですね、スプーンよりも、レンゲで掬った方がいいんですよ。ウチのはね、カラメルじゃないんですよ。アメ敷いた上にココアパウダーを散りばめて、フルーツを乗せました。」

「わーーっデカぁっ!」

 ウチにこんな秘伝のプリンアラモードがあっただろうか、ココアパウダーにしては妙に色が薄いんだけど。
 ちょっと待って、こら赤イマジン、ちょっとそのせめてパウダーは避けろ、それは、それは、悪い予感がする、
 赤イマジン、私の口へレンゲに特盛りで掬った揺れる黄色い身を流し込む。

 Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!

 これは、私の舌だ、体が自由にならなくても、感覚だけは伝わってくる、これはもはや香辛料どころではない、辛いを超えて、痛いを超えて、ダメージのレベルだ。

「それ、ココアじゃなくて胡椒だろ。」

「水、水!ミズだぁ!」

 体がヘンになりそう、頭が狂いそう、いっそ失神したい、死にそう、死ぬ、なんとかしろ、この赤イマジン!

「ハイ、お水。」

 お爺ちゃんがコップ一杯の水を持ってくる。でもあの唇だけ歪んでる笑みは変えない。これは、

「なんだ、水じゃないな。」

「光家秘伝、ハバネロジュース。」

 GGGGGGGGGGGGaaaaaaaaaaaa!

 お爺ちゃん、水まで、変な、これは、拷問だぁぁぁぁ。

「出た。」

 なんと、このか弱い私を見捨てて、光の珠になって体の外へ逃げたす赤イマジン、

「ホゲァ、ホゲァ、オジイ、ミ、ミズ!」

「ああぁぁ、可哀想な夏海、さぁ、水だよ。たっぷりお呑み。ゆっくりとだよ。もうちょっと我慢するんだよ。」

 お爺ちゃん、アンタだろ、こんな目にあわせたの。

「アリグァトゥ、オヅイちゃん。」

 舌と喉が動くごとにダメージがクル。全身滝のように汗噴いて。ああお風呂にいっぱいの水を浸してボンベつけて潜りたい。

「なんか毛穴じゅうからレイプされてたような気分だわ・・・・・・士クン・・・・・あいつの名はモモタロス・・・・・、記憶が無いのは本当よ。でも頭の奥底にちゃんと、分かってて、ただ自覚が無いの。士クン、士クン聞いてる?」

 私はイヤな予感がした。士クンの顔を咄嗟に振り返る。

「オレ、参上!・・・待て、出て行けこの・・・なんだこいつ中々折れねえ・・・オレを舐めるな赤いの・・・」

 やっぱり。赤イマジンの次の宿り主は士クン。でもでも私と違って士クンは根性悪いのか乗っ取られまいと抵抗してる。頭の左半分だけ逆立って、左目だけが赤い。絶対街に飛び出せない見てくれ。

「そうか、名がモモタロス、海東に憑いてファイズの世界に来たか。奴め、オレ達が行った事の無い世界も回っているのか。」

 右の士クンは至っていつもの不貞不貞しい性格最悪野郎。

「おめえ、勝手に人の頭の中覗くなぁぁ!耳の裏を擽るぞぉ」

 左の士クンは性格準最悪だけど、士クンよりは、ちょっと分かりやすい、まあ、ようするにバカ。

「電王の世界のイマジンか。イメージ主がリョウタロウ、他にも3匹仲間、そのリョウタロウが突然居なくなって、なるほど自分の姿や名前が思い出せん程にイメージを失った。結局なんにも分からねえか。こいつじゃ。」

「なんか無性に腹が立ってきたぞこいつ、おめえなんかこうだ、こら、まいったかコラ。」

 左の士クンが士クンの頭をタコ殴りにしてる。なんかちょっといい気味。

「そのリョウタロウが、このアギトの世界で偉そうに現れた。オマエ本当に記憶が無いんだな。」

「このヤロー、オレはな、他人を見下すのは大好きだが、他人に見下されるのは大っ嫌いなんでぇ、くそぉなんでおまえのおかげでこんなにイタイ思いしなきゃいけねえんでぇ」

「おまえが殴ってるからだ、そういうヤツはな、コウマンチキなヒトデナシっていうんだ、覚えておけ!」

 おまえが言うな。バカなだけで精神構造おんなじヤゾ。

「ハイハイハイ、やっぱり士君にも、この光家特製のプリンを。」

 お爺ちゃん・・・・。

「おぉぉ、気が利くじゃねえか。ていうか、さっきのワビって事だな爺さん、オレには分かるぜ、その艶とプルプル感が絶妙な甘さだって事をな。プリン通のオレの目は誤魔化せネエ。」

「それはさっきと同じ胡椒プリンだバカ!」

「なんだって、ジジィ、てめえオレを巧妙に騙そうとしやがって、なんてズルッ賢いジジィでぇ!」

「勝手に勘違いしただけだろ!」

 赤イマジン、アンタ、なんか、不毛だわ。

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