2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その27



>BR>


 舞台は更衣室から何階層も下の警視庁地下駐車場へ移る。

「すごいじゃないか。G4チップは人間の脳神経をシステムとダイレクトリンクさせる。すばらしいお宝だよ。」

「お宝?」

 海東を追いかけてきたユウスケは、この場でも人が良い。

「士から聞いてないのかい?ボクが興味あるのは、世界に眠るお宝だけさ。」

 だがそんなユウスケも怒りが滾った。海東が途端に小さく見える。

「返してください。それは姐さんのものだ。」

 一歩踏み出し手を伸ばすユウスケ。軽く躱す海東。

「なあ小野寺君、彼女は君の姐さんじゃない。ここの世界の住人だ。分かってるだろ。」

 海東の言う事は事実である。事実であるからユウスケは憎悪に近いものが体からわき出た。

「それでもオレは、姐さんの悲しむ顔を、二度と見たくない。」

 ユウスケは迷いを捨て体内よりアマダムを出現させ、腕を振り上げるポーズを取る。だが海東の動きの方が一歩速い。既にユウスケの額にディエンドライバーを突きつけていた。

「ボクの旅の行き先は、ボクだけが決める!」

「旅、行先・・・」

 ユウスケの感受性に、海東の真意の深さが刻まれる。が理由が読めない。

「君の旅はここで終わりらしい。でもボクは、」G4チップをチラつかせる。「違う。」

 読めない、理解できないものを人は中々受け付けず軽蔑へ感情が雪崩れ込む。だが人が良ければ興味で踏みとどまる。ユウスケは苦労性な事に人が良かった。
 結果として2人の男の対峙が拮抗する。

 銃声、

 2人の男の間に割って入る火花と硝煙、

「アブねえ」

 ユウスケと海東の間に弾丸を見舞ったのは、

「姐さん」

 八代淘子は、待っている女ではない。

「止まりなさい!」

 既に不利を悟って背を向け逃げる海東にさらに弾丸2発で威嚇する八代。

「待て」

 ユウスケは八代と海東を交互に見やり、アマダムを消して生身で海東に追いすがりもみ合いとなる。

「G4チップ。」

 ユウスケに絡まれ思わずチップをコンクリートの床に落としてしまう海東。それを八代は見逃さなかった。

 炸裂するシリコンの破片、

「ボクのお宝を!」

 思わず叫ぶ海東。

「貴方の物じゃないわ。」

 胸を張る八代。

「参ってしまうな。大切な物の価値が分からないとは。」

 ディエンドライバーを手にする海東、コンクリートに向けて全周へ撃ち流す、
 思わず顔を庇う八代、身を伏せるユウスケ、

「大丈夫小野寺くん!」

 再び顔を上げた地下駐車場には、既に海東の姿は無かった。

「すいません、G4チップを」

 実は八代がチップを破壊した様を見た隙に、押し倒されたユウスケだった。

「いいのよ。」肩を貸してユウスケを抱き起こす八代だった。「あれはね。」

 ユウスケは首を傾げるしかなかった。
 そして彼もまた首を傾げた。
 地下駐車場、天井には無数の配管が縦横に走っている。左腕と左脚をその一本に引っかけ、右の足裏を側面の壁に押し付けた状態で天井に蜘蛛のように張り付いた彼。実は逃げずに残っていた海東だった。

「アレは?という事はもっと大切なお宝がある、だよねえ。」

0 件のコメント: