2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その26







 一日のゴタゴタを警視庁のシャワー室で落としたユウスケは仮眠室へ待機すべく、一旦更衣室へと足を向けた。

「ショウイチ、ショウイチ・・・」

 男子更衣室、ロッカーだった。

「私は、どうしてこうなの・・・・」

 それを見たユウスケは哀しくなった。とても小さかった。更衣室のロッカーは、上下2段10並んだものが4列、2つの通路で構成されている。そこで、ある下段のロッカーの前で屈み込んで頭から凭れ掛かる八代の姿があった。八代の細い手足を細い体躯で抱え込むとこんなに小さくなれる。ユウスケは自分の世界の八代をこんな風に見えた覚えが無かった。いや見たい八代だけ見えていた事を今はっきりと悟った。八代は細い女だったのだ。

「芦河、芦河ショウイチか・・・」

 ユウスケはロッカーの影に隠れて、ただ泣きすがる八代を、窓から夕日が差すようになるまで眺めていた。ロッカーの名前には芦河とある。そう言えば、配属の決まった初日に態々八代自身が男子更衣室に入り込んで、割り振りを決めていた。

「姐さん、そんな姿をオレに見せないでください・・・」

 ユウスケの耳にドアが開く音がした。誰か第3の者がこの更衣室に入ってきた。過剰にビクついたユウスケはドアからも八代からも見えない窓側の通路に回り込んだ。自分も八代が見えなくなる。

「どうやら、大切な物はそこにあるようですね。」

 ユウスケの耳にあの海東の声が聞こえた。今の八代に平気で近づいていく海東に、ユウスケは少なからず不快感を覚えた。

「海東くん?」

 ユウスケは慌てた。喧しい物音と八代の小さな悲鳴、時にロッカーの金属音も響いた。八代の身に危険を覚え飛び出すユウスケ。

「なにを、海東さん、」

 ユウスケが飛び出すと、突き飛ばされた八代をちょうど受け止める形になる。八代の肉体は硬く細く少し冷たくなっていた。
 海東はその八代を退かして芦河のロッカー天井に張り付けいる一枚の電子部品を取り出す。

「探しましたよ。G4チップ。やはり完成していましたね。さっきで確信しましたよ。」

 唖然とする八代とユウスケに笑みを浮かべながらディエンドライバーを握る海東。

「危ない」

 連射、
 狭い更衣室に跳弾が跳ね、硝煙が視界を塞ぐ。ユウスケは咄嗟に八代を押し倒して自らの体で覆った。

「小野寺君、彼を、早く追って、」

 八代は、1斉射した後背を向け更衣室から飛びだした海東の背中を目で追っていた。

0 件のコメント: