2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その25







「ショウイチ、いない・・・」

 病室で一人倒れていた八代淘子は、夜風のせいで踊る白いカーテンに頬を撫でられ目を覚ました。ベットのシーツは乱れ、検知されなければならない患者のデータが得られず、機械はアラートを鳴らし続けていた。

「私、何をしているんだろう、ショウイチを目の前にして、何も言えなかった、もう、こんな思いしたくないのに、、、」

 駆けつけた看護士の制止も聞かず室外へ出た八代。今夜の合コンの話をしている若い看護士の集団とすれ違った時イラっとしたものを感じた。

「ボクに、釣られてみる、」

 拳一撃、

「や、アネ、八代警部!?」

 病院の外へ出ると、偶々ユウスケを視界に入れた。黒縁のメガネでフザケた事を言うユウスケが鬱陶しくなり顎先一発で済ませた。憑き物が霽れたように八代の名を叫ぶユウスケだった。

「戻るわよ。後で海東君の事を聞くから。」

 視線を合わせず早々と先へ進む八代。

「姐さん、背中、小さかったっけ。」

 ユウスケはこの時、八代の背中しか見ていない自分に気づいた。
 しかし、八代の思惑に反して、海東はいつのまにか対策班のトレーラーに舞い戻っていた。

「さすがね。グロンギ2体撃破。私の面目が保たれたわ。」

「しかし、新たな敵には敵いませんでした。」

 八代は即座に自分が現場に駆けつけるまでの事情聴取を求めた。海東は息を吸って吐くようにスラスラと言ってのける。

「新しい、敵、」

「グロンギをも倒す新しい敵が現れたんです。なぁ、小野寺君?」

 ユウスケはしばらく考え込んだ。事実を語ると、自らの素性にも関わる。

「はい。」

 八代の顔を見るとそうとしか言えなかった。

「アンノウン」

 八代の言動は時に唐突だ。

「は?」

 なぜ、知っている?
 当然海東は思った。

「私は、アンノウンと呼んでいるわ。未確認と区別する為に。これまでに数度目撃例がある。」八代は右肩を撫でた。「当然、その対抗策を用意してあるわ。」

「それは即ち、」海東の目が輝いた。「G3-Xのさらなるバージョンアップ。でもいいんですか、ただでさえ問題視されているG3-X。開発には相当抵抗があると思うんですがね。」

「ソエノ警部が、そう言いそうですね。」

 ユウスケは半ば話を逸らすつもりだった。が、八代はただ怪訝な顔をしただけだ。

「小野寺君の知り合いでいるんですよ。そういう規則ばった人が。」

 海東が突然そんな事を言い出した。今度はユウスケが海東に向けて怪訝な顔をした。しかし逆に八代はため息まじりに俯いた。

「そうね、でも、なんとしてでも。」

 八代はそれ以上言わなかった。ただ凛とした眼差しは、ここにいるものに八代の明確な意志を感じさせた。

「(姐さん、あんなになで肩だったかな。)」

 だがユウスケは、そんな八代の背中がどうしても一回り小さく見えて仕方なかった。

「海東さん、ソエノ警部がどうしたか知っているのか?なぜ姐さんは知らない?」

 だがユウスケにとって先に聞くべきはこの世界の異常であった。

「破壊されていっているのさ。世界が。」

 海東は表情を変えない。

「破壊?イマジンとは関係ないのか?」

「ある意味ではそうだけど、ある意味ではそうじゃない。君達も薄々感づいているだろうが、この世界、つまりアギトの世界と、イマジン、電王の世界が融合しつつある。それぞれの重心が1つになり、それぞれの世界の住人が、限定された世界の枠組みの中で生存を潰し合っている。イマジンがこの世界に大量に雪崩れ込んできた為に、本来のこの世界の人間は居場所を失い、喪失したのさ。ソエノ刑事は、本来彼に用意されたこの世界の座席を、イマジンに横取りされ、弾かれた。そしてこの世界の住人は、弾かれた者を覚えていない。まだここは、穏やかな方。他は文字通り生存競争となって、挙げ句座席そのものを壊していく。」

「そんなバカな・・・ソエノ警部はじゃあ、」

「喪失した者は時を遡っても戻ってこない。もはやこの世界の過去は、彼無しで紡がれているよう書き換えられた。君が覚えているのは、僕らがストレンジャーだからさ。世界が破壊されるという事はこういう事さ。」

「重心って、そんなの、」

「重心は、形は決まっていない。その世界の中心であり主体さ。この世界はライダーの敵であるさっきのアンノウンの親玉が、そして電王の世界ではイマジンという幻影を生み出したその世界でたった1人の少年が重心だった。君達と出会ったファイズの世界では、オルフェノクの王がそうだった。人や物に限らない。ひとつとも限らない。たとえば君の世界は、君とあと2つのアマダムだ。光の粒子なんて世界もある。」

 おそらく海東は、自分をバカにしているのだろう、士なら、大体分かったとウソでも言うのに、
 そんな屈辱感が腹の底からユウスケの脳裏直撃する。

「もういい!もういいだろ!」

 吠えてしまった。だが眼前の海東はその笑みを崩さない。この手の反応に慣れていた。

「すいませんでした」

 そう言ってユウスケは海東に背を向けた。

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