2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その24







「ほら、捜査一課のヤツから差し入れ。門出だって。なんなら、剥きましょうか。」

「こんなの、皮ごと食べてしまえばいいのよ!」

「栗ですよ、お腹壊しますよ。すいませんでした。オレが、全部剥いて出せば良かったんですよね。」

「そうよ!貴方が悪い・・・・・、ごめんなさい。子供だったわ。」

「・・・・、頭を下げるなんて、貴方の人生で無いと思ってましたよ。」

「貴方に謝られると、その方が気持ち悪いのよ。そのくらい、言わないでも分かりなさいよ。」

「それは、すい・・・、さあ、G3のシミュレーション再開しましょうか。」

 2人の馴れ初めは、最初は気に入らない捜査課の刑事と出向してきた部外者であった。

「起きろよ。」

 徹夜続きのG3開発で泊まり込みが当たり前の2人は、八代の借りている有楽町のホテルへ仕事を持ち込んで、それぞれベットとソフォで仮眠しながら仕事を続行。

「昨日徹夜したじゃない。いっしょに、なんでそんなに朝強いの?」

 その内ショウイチもマイ歯ブラシをホテルに置き、八代の世話を一方的にこなすようになっていく。

「昨日徹夜したから、今日はちゃんと生活を整える必要があるんだろ。それより、せめて食事だけでも取れよ。できてるぞ。あっちに。」

 だがショウイチは、自宅に菜園があり、週の半分八代のホテル生活に割いているには限界があった。

「ベットで食べる。一石二鳥。あーん。」

 八代は取り返しがつかない程にショウイチに家事を依存してしまっていた。

「さぞや効率的なヒラメキなんでしょうね。ハイハイ、あーん。」

 天才はムリを通す為なら道理をあっさり破棄する。八代はホテルを引き払って東村山にあるショウイチの家に転がり込んできた。今度は八代の歯ブラシがショウイチの家に置かれる事になる。

「やっぱり起きる。鼻に入った。」

 形ばかりの共同生活が、運命という脳内補完と、妥協とによって紡がれて本格的な同棲に発展するのは自然な事である。
 次なる運命は、G3の初出撃より始まる。
 未確認25号を呼称された『ズ・メビオ・ダ』を世田谷の公園まで追い込んだ夜の事だった。

『なんだ、あれは、未確認じゃ、』

 途切れるG3からのモニター。

『ヒトハヒトデアラネバナラナイ』

 G3に埋め込まれたコンディションアラートが、装着者の身の危険を訴える。

「どうした、芦河装着員、ショウイチ!応答して!」

 トレーラー内の八代の頬に赤の点滅する光が差す。

『体が、オレの体がぁぁ!』

 もはやトレーラーに居ても仕方ないと悟った八代は、応援要請した上でヘッドセットを置きショウイチがいる夜の公園に飛び出した。

「アァァァァギィィィィトァァァァ!」

 八代は見た。夜の公園、闇夜に白光するハイロゥを浮かべ爆破する豹の怪物を。明らかにグロンギのそれと違う。

「オレを見るな、おまえが来れば、オレはどうなるかわからん!」

「ベルト、光ってる、誰?ショウイチ?」

 爆炎上げるその奥、怪しい影が立っていた。八代の眼では腰の光で影の輪郭が見えない。

「未確認を捕捉、神経断裂弾の発砲を許可する!」

 そのタイミングで駆けつけた40名の警視庁未確認対策班。ステンレスのシールドの隙間からライフルを一斉に影に向けた。

「やめなさい、私の言う事が聞けないの?!」

「殺られる前にやれ!」

 八代は咄嗟に制止した、しかし一斉に浴びせかけられる銃弾の雨。影は硝煙に捲かれながらも微動だにせず、ただ額が縦に、ちょうど瞼が開くように左右に割れて黄金の光を放った。
 吠えた、
 それは人間的な感情の爆発だった。影の肉体からいくつもの爪が細く長く伸び、肉体が躍動し、一気に警官の1人へと近接してシールドをその爪で切断。

「うぉぉぉぉっっっっっ!」

 緑の体色だった。2本の角が頭にそそり立ち、金属質の口元が開いて、警官の喉元に噛みつこうとした。

「ダメ、ショウイチ!」

 だが血を吹いたのは立ち塞がった八代だった。緑の化け物は、無心に肩口を食いちぎろうとする。化け物の鼻孔に、慣れ親しんだ香りがした。化け物が制止し、狼狽え、後退る。

「淘子・・・・見るな、見るな!」

 化け物の顔面は八代の血に塗れていた。ウォと吠え、八代に背を向け銃弾を掻い潜って逃走した。

「ショウイチっっ!」

 八代は叫んだ。人前で泣いたのははじめての女だった。
 重傷者5名、軽傷者18名。破壊されたシールドは13枚。切断されたライフル5丁。そして八代淘子の右肩に一生消えない痣が被害として残った。

「おい、ホッといていいのかい?赤羽付き餃子?」

 その夜の公園、同じ場所のやや離れた木陰に立つ3人の人間がいた。1人はホームレス状態になったショウイチ、つまりそれに憑いたイマジンモモタロス。

「見たかったんだ。手紙では分からない事をな。」

 1人は門矢士。

「手紙を読んでいたんでしょ?なら、なぜまた過去に遡って見に来たんです?あんなオカシな電車に乗って。」

 夜空を指差したのは最後の1人光夏海。
 彼女の指差した天井に、白と赤で彩られた流面形をした先頭の4両編成が、弧を描いて流れていた。

0 件のコメント: