2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その23







「いままで、ちゃんと食べてた?」

 ショウイチが目を開けると、眼前で八代がベットの手摺りに肘をついて頭を抱えていた。八代の目の下には明確なクマができており、今にも眠りそうである。
 ショウイチは怪訝な顔で、返答しない。

「食べる?」

 八代は、ガラスの器に盛られた大粒の苺を差し出す。苺が隠れる程の砂糖が塗してあり、さらにその上からミルクが並々と注がれている。自分の分とショウイチの分。それぞれ光るスプーンを差し込んであり、八代は薄くミルクの膜を張ったようなイチゴを1つ口の中に含んだ。

「オレは・・・」

 同じように貰ったガラス皿からイチゴを一粒掬って口に入れるショウイチ。
 八代はそんなショウイチを見ながら擡げた頭を上げ、背筋を伸ばした。

「聞いていい?」

「なんだ、」

 八代は低く言った。

「貴方は誰?」

 ショウイチの口の動きが止まる。

「ボク、ショウイチくんです、、」

 ショウイチは目を合わせない。

「ショウイチはね、イチゴ、潰すのよ。私のもいっしょにね。」

「キッタネー、おめえ、態と潰さなかったな、ズルいオンナだ、普通こういうのは、看病してるヤツが潰すもんだ、なんで潰さねえんだ、」

 八代はそこには答えない。

「ショウイチはそんなクドクド子供みたいに喚かない。アンタ、あの憑依するエネルギー体でしょ。私はイマジンと名付けたわ。さっさと私の質問に答える!」

 八代淘子は天才である。

「すいません。イマジンです。」

 何故か凶暴な女には苦手意識が体に染みついているイマジンだった。

「ショウイチから出て行きなさい。貴方がショウイチを助けてくれたのは感謝しているけど、それはそれ、これはこれよ!」

 天才は考えない、直覚する。直覚はどういう訳か正しい。

「ええい、殴られる前に殴れだ!」

 拳一撃、
 ショウイチ=モモタロスの拳が八代の顔面にクリーンヒット、
 一体なんの過剰防衛か。

「デジャブ・・・・」

 鼻血を一筋、八代はそのまま失神した。

「おめえがすぐ拳出そうなオンナだからいけねえんだ!」

 と言い訳するモモタロスの眼前、病室のドアを潜るように入ってきた男が1人。

「いかなくちゃならない、」

 そして付いてくる少女が1人。

「どうして守ろうとするんですか?!」

「よお、オレにこんな事させやがって、欲求不満はクライマックスだぜ!」

 すっかり本性を現して赤眼のショウイチが士と夏海を認め、見得を切る。

「ちょうど良かった赤いの、おまえの世界では、時を走る電車があるという話だな。」

「八代さん!アンタ何したの、また鼻血出して、いい、女は男を殴ってもジョークだけど、男が女を殴ったら即刻死刑なのよ!」

 わめく夏海を余所に、八代の首元に指二本充てて脈がある事は確認する士。

「これか」どこからともなくカードを一枚取り出すショウイチ。「こいつの頭に翳せば、こいつの過去にいけるぜ。分かってるぜ、こいつが化け物になった時に遡って、直に事情を知ろうってこったな。」

 執拗に自分のこめかみをカードの角で叩くショウイチ。

「いや、」士は、八代の鼻血をスーツの袖で拭ってやる。「こいつの、過去だ。」

0 件のコメント: