2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その22








 神様ありがとう。
 あの忌々しいイマジン共は全てユウスケを標的にして私から抜け出していった。気絶したユウスケを歩かせる為にあのモモタロスが憑いたんだけど、ユウスケでしょ、あんなキャラだからイマジン達の眼に止まっちゃったのよ。ありがとうユウスケ、貴方の尊い犠牲は永遠に私達の心に刻み込まれるわ。

「とにかくショウイチを警察病院へ。貴方達も!事情聴取よ。拒否するなら、公務執行妨害で拘束します!」

 こっちの世界の八代さんは、さらに鬼気迫る人だった。訳も分からず踊り狂うユウスケを速攻取り押さえて手錠を打ち、それを見て唖然とした私を引っ張ってやってきた救急車に押し込み、士クンに無理矢理手伝わせて重症のショウイチさんを中へ運んだ。士クンはそんな八代さんにニヤニヤしていた。たぶんそうやって体裁を保ってるんだと思う。

「士クンはどうして、」

 病院でショウイチさんの傷を塞ぐ手術が行われて、私達2人は病院にいながらそこでいろいろ聞かれた。病院独特の匂いと八代さんの顔は、私にイヤな事を想像させた。ユウスケは手錠で繋がれたままらしい。小一時間ノラリクラリと核心に触れない士クンに、八代さんは拉致が開かないと思ったか他の要件でそれどころで無くなったのかしばらくしてトレーラーの方へ戻った。どうして傍にいてあげないんだろう。医者の人が驚いた顔で私達2人に面会を許可したのは、八代さんがいなくなって6時間後だった。もうすっかり夜で、病院の廊下も消灯して、自販機と非常階段の明かりが癇に障った。

「ベルトを返せ。」

 やや狭い入り口に首をぶつけないように潜った士クンは、寝間着姿のショウイチさんに向かって労いの言葉1つ無かった。必要無いと思ったのかも。お医者さんが驚くのもムリが無い程ショウイチさんの血色は良く、尋常じゃないくらい回復していってるのが私でも分かる。

「ベルトが無ければ、おまえはただの人間だ。」

「オレはアンタを守る、そう言っただろ。」

 私は威圧された。2人に。これが男同士のつまんないメンツの張り合いってヤツなんだろうか。

「オレの前から、消えろ!」

 ショウイチさんが右掌を押し出した。
 不意に、私、髪の毛を抑えた。
 そして眺めた、士クンの体重が薄っぺらな紙のようにフワと浮いて病室の外へ飛んでいくのを。私の眼になんの感情も無かったと思う。あまりの不可思議な出来事に驚く暇が無かった。フワと浮いた士クン、壁にぶつかる音がしない、そのまま突き抜けてた、壁を壊してじゃない、まるで実体が無いように士クンが壁をすり抜け、そして廊下を横断してその先の車椅子に激突した。ありえない事だ。

「なんの騒ぎ!?」

「見舞いの方、困ります!」

 夜勤の看護士がスッ飛んできた。動ける患者が廊下に出てきて倒れた士クンを眺めている。額から出ている血を私はとりあえず持っていたハンカチで拭った。

「すいません、どうもすいません、」

 私は朦朧とする士クンに変わって周囲の人全部に何度も頭を下げた。士クンになにかあった時はいつも私が頭を下げている気がする。

「アンタを守ると・・・・」

 一旦立ち上がる士クン、でもすぐ足を崩してしゃがみこんだ。ショウイチさんもぐったり動かず意識が事切れている。心電図が危険なアラームを鳴らして煩かった。

「脳震盪起こしているわね。取りあえずその方、応急の処置くらいはしてあげるから、こちらへいらっしゃい。」

 たぶん看護士長の高齢の女性が人が私の手を取った。私はそこでようやく士クンに振り返って名前を叫んだ。ヤだ、私、ものすごい大声でうわずってる。
 眼が虚ろな士クン、私の髪に潜る感じでうなじに手を回して撫でた。

「大丈夫だ、オレが決めて始めた事だ。おまえが悲しむ事じゃない・・・・」

 失神して私に体重を預けた士クン。なにを言ってるんだコイツ。
 いつもと違うぞ士クン。いつもなら、ちょっと人に手出しされただけで10倍返し、ボコボコボコ、悪いな、忘れた、ボコボコボコっなのに。
 寝顔は割とカワイイなコイツ。

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