2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その29








 正面玄関からトライチェイサーをエンジンを掛けず押し動かす。

「捜して来ますと言ったものの・・・」

 桜田門警視庁前、守衛とお互いに顔を覚え合った程度にはここに滞在していたユウスケ。守衛の無表情さと無類の酒好きであるギャップに驚いたものだ。
 路頭に迷うとはこの事だ。待機を命じる八代を押し切って海東捜索に出たユウスケだったが、2分と歩かない内にアテが無い事に絶望した。いっそ士にでも頼ろうかと思ったものの、写真館を一旦出た身を思えば、再び足を向けるのも忍びない。

「ユウスケ!」

 だがこの辺りが、ユウスケという人間のラッキーな星回りだろう。なんと、東京メトロ桜田門駅から光夏海が駆け上がってきた。

「夏海ちゃん、」

「お願い、士クンを、助けて、」

 よほどユウスケを捜したのだろう。夏海の息はまだ上がっている。
 助けて欲しいのはこっちだ、などとユウスケは思っていたとしても言わない。

「あいつどうしたんだ?バケモノみたいなヤツを守るなんて」

「どけどげーっっ」

 ユウスケと夏海が同時に空を見上げる、カラスの大群を態々突っ切ろうとする光の珠を。

「あれは、アレか」

「危ない!」

 軌跡を目で捉えて、突っ込んでくる珠を同時に右左へ散って回避。光の珠は地面を一旦潜って急上昇、やや速度を落として2人の頭上を周回する。

「なんで避けんだコラぁ!」

「もうおまえに弄ばれるのは御免だぁ!」

 一字一句声を揃え指差すユウスケと夏海だった。

「なんでぇ、オレがそんなに嫌われなきゃいけねえんだっ!」

「当たり前だぁ!」

 やはり2人揃って口にするユウスケと夏海に、光の珠は問答無用で突撃してきた。

「緊急事態なんだぁぁぁ」

 弧を描いて夏海に向う光の珠、

「もう裸はNG!」

 目を閉じ、直前まで来たところでしゃがみ込んで躱す夏海。

「なつ!」

 だが不幸な事にその軌道上にユウスケが立っていた。

「メンドくせぇぇぇ」

 ユウスケの体にスッポリ収まる珠。硬直し顔から感情が消え、一旦指先からピンと硬直したかと思いきや酔ったようにフラフラと歩き出すユウスケ。

「ユウスケがぁぁ」

 夏海は頭を抱えた。

「それがおまえの姿なのか・・・・」

 呆然としながらもユウスケは言葉を発した。誰に向けたものでもない。自分の脳の中へ向けられた言葉。

「よう、おめえとこうやって話すのは初めてだよな。かっこいいだろ。特に角。」

 おもしろい程イカツイ人相の赤鬼が立っていた。
 白いもやのかかった空間に立つユウスケと赤鬼。赤鬼は、額に生える2本の角を何度も何度も撫でている。

「今のこのオレに、なんの用だ?」

「今のおめえだから、用があんだよ。」

 突如、白いもやだったものが四方映像と化す。全て八代とショウイチが映し出されている。

「姐さんの、過去。」

「全部だ、あの緑ヤロウと、おめえの相方と、見てきた女の過去の記憶全部を、おめえにやる。」

 それはまるで万華鏡だった。次から次へと八代淘子と芦河ショウイチの喜怒哀楽が流れ、そして終着した映像は、あの血まみれでショウイチの名を叫ぶ八代の姿。

「姐さんは、姐さんは、そこまで、」

「どうでえ、おめえ言ったよな。化けモノみてえなヤツをどうして羽根付き餃子の王将が守るかって。」

「ああ、どうして士はあんなおかしな、」

「決まってんだろ!化けモノが死ねばあの女が悲しむ、あの女の悲しむ顔を見るのは、」

「姐さんの悲しむ顔を見たくない・・・・、オレと、士しか知らない言葉だ、あいつ、」

「そうでえ、おめえの為だっつんだコンチクショー!分かったら、さっさといくぜ!」

「おまえ、気恥ずかしい事直接言えるんだな。」

「それがオレクオリティでぇ!」

『ツボっ!』

 ユウスケを覚醒させるに足る天井よりこのもやの世界全体に響く声。光夏海だ。

「女ぁぁぁ、余計ぁぁぁ」

 もやが薄れていき、その薄れ行くもやに溶け込んで拡散する赤鬼。

「待って、もっと、もっと姐さんの過去を!」

 消えゆく映像に思わず手を差しのばすユウスケ、しかしその手の先もまた消えていった。

「光家秘伝、代謝のツボ、」

 立てた右親指に煙が吹いているわけではないのだが、息を一吹きウィンクする夏海。

「夏海ちゃん、危ないよ、」

 ユウスケの視線は、そのユウスケから飛び出た光の珠の軌道を追って、そして得意がる夏海も視野に入る。

「悪い成分をみんな追い出す。アウ」

 などと蘊蓄に浸っている夏海の背中へ光の珠が憑く。放心し、寄り目になって、頭を揺すっていた夏海はしかし、

「やっぱ、このオンナ持ってたな。ほい、おめえも読むんだな。」

 男声になった夏海、ポーズも肩を張ってガニ股になっている。

「これは、八代の姐さんが出した手紙、」

 割かれた手紙がセロテープで継ぎ接ぎだらけで復元されいてる。ユウスケはその時、自分の瞳から涙が止まらなかった。

「おめえらはよ、オレに言わせれば、アマちゃんだぜ。」

「ありがとう。おまえ、役に立つ事もあるんだな。」

 ユウスケ、押し転がしていたトライチェイサーに跨り、エンジンを吹かす。

「おめえ、オラぁな、いつでもどこでも全人類の役に立ってるんだぜ!」

 ガニ股で見得を切り、適当な事を言う赤鬼だった。

「おまえ、その格好、いいかげんにしないと夏海ちゃんに消されるぞ。」

「おい、待て、オレも乗せてけぇ!」

 夏海を置いて、無心で走り出すユウスケだった。
 ちなみに、夏海は赤いワンピース水着一丁の姿になっていた。水着にはユウスケが見たあのイカツイ赤鬼の顔が夏海の上半身から下半身にかけて描かれていた。

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