2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その38








「効かない」

 G3-Xは機関砲を乱射するも、光の珠の寸前で歪曲していく。弾かれていくのではなく歪曲していく。

「はあ」

 並び立ちするアギトが、先に地のエルを看破した蹴撃を少年にも仕掛ける。斜角40度上昇で光の珠内部へ突入、

「バカ」

 しかしどういう訳かコンマ何秒もしない内に光の珠から斜角40度反転降下し、G3-Xへまっすぐ突っ込んできた。
 慌てて飛び退くG3、退いた水面は大きく水飛沫を上げ、亀裂が走って水底が抉れる。

「なんでおまえがオレの前に立っている!」

「おまえがオレの方へ向きを変えたんだろ!」

 困惑する2人のライダーを見下ろす光の珠。回転しながら降下、その通った軌跡は白く尾を引き淡く霞んで周囲に溶けていく。

「家が消えた、」

 ユウスケが叫ぶ。珠が降下し、地上にあった赤い屋根の一軒家が家族もろとも光に呑まれた。その跡は空白が一瞬ぼやけながら輝いたが、隣家が左右から迫って空白をかき消した。光の珠は空白の尾を引きながらゴロゴロと転がって、川に落下してくる。

「何を言っている?迫ってくるぞ!」

「あれが見えないのか。」

 アギトは呆然とするG3を突き飛ばしつつも横飛びし、転がる光の珠を回避。珠は堤防に直撃しその上の民家ごと空白を作っていく。そして空白は両隣が迫って消えていくのである。

「消しているのか、」

 ユウスケはもはや恐怖の声を上げた。そのG3の態度の方が不思議でならないアギト。

「何の話だ、転がっているだけだろ。」

「どうやら、この世界の住人は分からんらしいな。奴が世界を消している事を。在った記憶すら改竄されるとは。」

 そのアギト背後に立つディケイド。既にバックルを開いている。

『FINAL FORM RIDE aaaAGITO』

「ちょっとくすぐったいぞ。」

 アギトの背に手を当てるディケイド、

「オレに何を!?」

 アギトの背に出現する背部アーマー、両手両足にも同じ紅いアーマーが出現し、アギト、足を揃えて宙を数回ターン、スピードボード、『アギトトルネイダー』へと変形する。

「とぉ」

 飛び乗るディケイドはトルネイダーへ立ち乗り、アギトの腕にあたるトルネイダーノズルから噴流が吐き出され地上1メートル浮き上がって滑空する。

「おい士、こっちくんなってよっ、おい!ぁ・・・」

 アギトトルネイダー、ノーズを上げてターン、ジェット噴流を吹き上げて滑る先はG3-X、戸惑うユウスケをディケイド、片手で掬い上げトルネイダーへ前後立ち乗り。

「フレ~フレ~っ」

 デンガッシャー大団幕モードをひたすら振っているモモタロス。

「あいつ何やってるんだ」ユウスケ。

「あいつは薬にも毒にもならんのが一番いい。」ディケイドは空白を縦横に作りながら宙を転がる珠をただ指差した。

 急接、転がる珠に横並びのトルネイダー、
 GX05乱射、
 光の珠が思わず軌道を逸れ距離を置こうとする、

「今度は効くぞ、士、なんでだ、」

「ああ、大体そうだろう、」

フレ~っフレ~っっっっ

 光の珠は垂直に上昇、そこで制止し光彩を増す。いや輝く。

「くそぁ」

 光が広がり、連動して空白がこの世界を広がっていく。空が消え、家屋が消え、公共物が次々消失、そして空白は瞬時に塞がり、まるで最初から無かったかのように整然としている。全てが音も無く進行し、音も無く消える。
 トルネイダーは光の力で木の葉のように推し飛ばされ、アスファルトに3者のライダーの後をくっきりと残す。

 フレ~っっっっ

「一気に世界を消し去るつもりだ。」G3-Xが立ち上がる。

「同じ光だ、このベルトと、」アギトが立ち上がる。

「そうだ、あの光を打ち破れるのは同じアギトの力だけだ。」そしてディケイドがカードを一枚差した。

『FINAL ATTACK RIDE aaaAGITOoo!』

 再びトルネイダーへ反転するアギト、そして同じく立ち乗りするディケイド、G3はその背後に並び、GX05銃身をディケイド肩へ添えた。

 フレェェェェェフレァァァァァ、

「上がれぁぁ!」アギトが叫んだ。

 トルネイダーのノーズを上角60度ギリギリまで上げて上昇、そのカウル部分が白光し、光がアギトの形となって両翼を伸ばし飛翔、

「ユウスケ、残弾を残すな!」

「オウ!」

 ディケイド肩のガトリングが止む事なく上方へ威嚇、

 広がる珠の光とアギトの光が激突、拮抗、

「イケェェ、おめえらこんなもんじゃねえだろ、仮面、ライダァァァァァ!」モモタロスの喉が外れた。

「電王の一番の強さはチートな事、もう一枚くらいあって当然、」

『FINAL ATTACK RIDE dededeDENOooo!』

 ディケイドに張り付く4つの仮面が、今度は右腕に集結、ディケイドの右腕から灼熱のオーラが迸り、アギトの光へ添加していく、

「絶対消させないよ!!」

 珠の光を切り裂くアギトのシンボル、突き抜け突き抜け浮かぶ人影を見定める。リョウタロウだ。

「自分の未来を閉じているのは、キサマ自身だぁ!」

 トルネイダーのスピードに乗って、少年の喉にディケイド前腕がラリアット、

 四散、

「ボクがぁ」

 光の滴となって四散、
 光の珠も泡と消え、
 光もまた溶けて消えた、
 本来唯一の光である太陽が輝く青空が降下する3人を包む。

「やったなぁ、おめえら、やっぱ、オレの応援のおかげだぜぃ!」

 着地した3人に駆けつけるモモタロス。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 思わずマスクを取って吹き出す汗を掃うユウスケ。

「そうなのか士?」

 アギトも変身を解いてヒゲを撫でる。

「見れば見る程ふざけた恰好だなオイ。寄るな、キャラが写る。おまえは補欠にもしてやらん。」

 そしてディケイドがバックルを引くと、3つの魂が飛びだして宙を舞う、

「イマジンの力がオレから接触したG3に流れただけだ。全然違う。」

 やや意地悪く言う士。
 そして3つの魂はモモタロスに同時に寄生する。

「おめえらイジメかよ、・・・・オレに参上されてみる?」

 突然モモタロスの体色が赤から青へ、続いて紫へ変貌、クルリと一回転。

「参上は聞いてない!」

 日本語になってない。
 さらに黄色へ変貌して四股を踏む。

「屁のツッパリは要らんですよ!」

 もはやテンプレですら無い。
 モモタロスは一人で顔をあちこち振り返りながらその都度声色を変えて独り言を捲し立て、ゲラゲラと笑い、オギャと絶叫し続けた。

「あのイマジン、自分の主人殺しといてノーテンキだな。」ショウイチが言う。

「さあな。神は人が2人以上いればその胸に宿る。不滅なんだ。」士は言う。

「あいつらそれが分かってるのか?」ユウスケは質問する。

「それもどうだろうな。イマジンは、そうだな、ボタンを押せば決まったセリフをしゃべってくれる街の住民なのさ。そうとしか反応しないし、そうとしか感じない。あくまで、オレの想像だがな。」

 士はユウスケに笑顔を向ける。
 だがユウスケは、青ざめた顔で、ある方向を指差していた。ユウスケの差す方向には、土に刺さったガニ股のグレーと黄色のスパッツがあった。
 ユウスケの青ざめた顔が伝搬した士は、見るな、とユウスケをノックダウンさせた後、即座に駆け出した。

「まず散髪屋だな。」呆れた顔のショウイチは聞き慣れた怒鳴り声が響くのに気づいて、G3のメットを拾う。「・・・・、ああ分かってる、肉は岡元やで下味をちゃんと漬けるんだろ、・・・ごめんな、らしくないか?・・・おまえも言うなよ。拍子抜けするじゃないか。」

 そのショウイチに肩を置く赤い掌があった。

「どうやら、迎えが来たようだゼ、」

 親指で差す背後にあのオーロラのカーテンが迫り、モモタロスを包んでいく。

「別れは言わんのか、一番の恩人に。」

 ショウイチは汚そうに赤い手を祓った。

「言えるか、そんな馴れ馴れしい事あいつにだけは。アバよ、釣られてみる?泣けるで、聞いてな~い。」

 モモタロスはオーロラの中へ溶けていった。
 そのオーロラすら無い風景、ただテレビの音声が漏れる一軒家をいつまでも眺めているショウイチだった。

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