2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その39









 古びた洋館の一室。
 光が溢れる庭の風景を、風にゆらぐ白のカーテン越しに眺める男がいた。男は小さなモックのテーブルに同じ材質のイスを2つ並べ、一人しかいないにも関わらず、ワイングラスを2つ並べていた。

「アンタか。」

 草臥れた帽子とコートを纏った鳴滝は、隣の席に声をかける。
 いないはずのイスに既に現れている黒い影。

「貴方に与えた、命も、残り少なくなりましたね。」

 黒い少年の手元に、ワイングラスを置いて注ぐ鳴滝。

「怖くはない。これは銀座一条の残りモノに三軒茶屋のヴェルエキップからいただいたものをブレンドしたものだ。半日かかったよ。」

 そうして自分のグラスを掴んで香りだけを堪能する鳴滝。

「人間は、いずれライダーを滅ぼす。最初からボクが手を下さなくても良かったのさ。」

 だがいい加減飽きたのか、ワイングラスを置いた。

「この世界の神にして、あちらの世界の唯一人の人よ。アンタは、人間を創りながら人間の事を、何も、知らない。」

 そうしてできるだけさりげない風を装って、掌を、眼前の少年に向けた。

「なに・・・ナニ!」

 瞳孔が開く少年リョウタロウ。白く透き通った額の中央から鮮血が飛び、それどころか鮮血が徐々に真上に向かって進行、その亜麻色の髪が赤く汚れ、頭頂を回って、後頭部まで届く。滝のようにリョウタロウの頭から血が噴いた。

「人は成長するのだ。特に、外の世界を知るとねぇ!」

 もはや隠す事無く狂喜を顔に顕わにした鳴滝は、その掌を大きく拡げる。すると少年の頭も左右に大きく開き、脳の奥底から鮮血よりも激しい光が迸った。

「ボクをなんでイジメ・・・・!」

 鳴滝は問答無用で少年の割けた脳へ手を突っ込み、1つの珠を取り出す。

「他の世界では現象や観念の形だったが、やはり1個人の形に集約した重心は、貴方から手に入れるのが手っ取り早い。」

 既に白目を剥いて唇を振るわせる少年が卒倒し、フローリングの床に倒れた。
 鳴滝は口元を綻ばせ光が収まったいびつな珠をマジマジと眺める。

「大丈夫ですよ。この世界の貴方でなく、あちらの孤独な世界の彼の重心を分断しただけですから。その傷もいずれ消えます。私の記憶も消しておきますけどね。大丈夫ですよ、これも全てディケイドのせいですから。」

 狂喜が室内を包み、取り乱した鳴滝は、ワインを思わず落として転がった少年の身に降りかかる。

「重心がようやく手に入った。世界を飛び越える力、そしてディケイドと対抗する力。トリックスター・・・・・。」

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