2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その5







 ソエノ警部は、昔はダンスパフォーマンスで一世を風靡した学生サークルに所属。その鍛え抜いた肉体が警官という過酷な職に適応させ、所轄の課長まで上り詰めた。東北訛が未だ消えないサークル仲間に誘われた時はその濃い眉をしかめたものだが、今では感謝している。
 そんなどこにでもいるような捜査課長だった彼が未確認対策本部の実働部隊G3運用チームを任された理由は、最初に未確認第1号の存在に気づき捜査をしたからに過ぎない。しかもそれは部下の独断だった。でなければ、

「ちょっっっと、待ちなさい!根性ナシぃぃ!」

 警視庁地下駐車場、警察官特有の紺の上下に階級章をちりばめた制服の女、それが同じスーツを纏った男を追いかける。女によると一本筋の通ったワンレングスは寝癖だそうである。

「もう勘弁してください!」

「くぅおラ!待ちなさい!」

「あんな化け物扱うのムリです!」

 女は男を背中から掴みかかり、羽交い締めにして、隠れ巨乳を圧しつけてキーロックの態勢に持っていく。

「立派に戦ってたじゃない、そうね、43点ってところ。」

「微妙だぁ」

 G3-X開発主任にして、実戦における後方指揮及びモニター担当であるこの八代淘子、暴れ馬とあだ名されるこの女を、ソエノならずとも誰が好きこのんで側に置くだろうか。才能だけで勝ち上がってきた実力者ながら、その才能以外何も持っていない。そういう女だ。

「確かにグロンギは倒しましたけど、もう被害は凄いし、マスコミには叩かれるし・・・もぉムリですっ!勘弁してくださぁい!!」

 こうして何人のG3-X装着者がソエノの元から去っていっただろう。このホウジョウ、シライ、オムロ、キクチ、エリタテ。最初の装着者が失踪してから何人になるか覚えていない。実績の点ではどの装着者も十二分にやっていける警視庁からの逸材ばかりであった。だがその実績で満足せず、腹に収める事すらなくそれ以上を求めて罵声を浴びせる暴れ馬が、その逸材達をことごとく潰していった。なぜそこまで性急なのか理解に苦しむ。

「待て、こらっ、ちょっ」

 靴音がセメントで囲まれた空間で鳴り響く。それがソエノがホウジョウを見た最後の背中だった。

「やっぱり、G3-Xについては見直すべきだぞ。」これ以上ないタイミングと踏んだソエノだった。「今のままでも未確認とは十分戦えるんだ。な、八代。」

 ソエノにとって何ヶ月も繰り返し練習した言葉だった。

「G3-Xは必要です。」

 八代はごく簡潔に過不足無く全面否定した。

「おまえの大切な研究だって事はよく分かっている。しかしもう、警察に装着員の成り手はいない。」

 それ以外の解釈ができないソエノだったし、これで少しはこの暴れ馬も大人しくなると踏んでいた。しかし才能だけの女は、ソエノとは発想が違った。

「装着員は、新たに募集します。警察、自衛隊に限らず、一般からも広く。」

 ソエノは内心唖然とし、反射的に否定の言葉を脳から絞り出そうとする。それはつまりソエノの方が頭ごなしに八代を受け付けてない証左になる訳だが、結局のところその言葉は出なかった。
 いきなり眼前に赤いパーカーを着た男がわき出てきた。いきなり出てきていきなり挙手した。

「君、さっきから何!?」

 ソエノにとって全く死角にいる存在だったが、八代はやや視界に入っていたようだ。どうやらソエノの気づかない位置で二人の対話を聞いていたらしい。

「オレ!応募します、そのソウチャックインって奴?」

 八代は唖然とした。
 その男、小野寺ユウスケという立候補者の都合良すぎる出現に。でなければ、既に足を完治し平然と歩いている異様さに気づかない八代じゃなかったろう。
 だが、ソエノは、

「(天才を越えるのは、バカだな。)・・・」

 などと多少溜飲を下げた。

「お願いします、八代警部!」

 ユウスケは適当に階級をいい当てた。

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