2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その41








「ユウスケ!ユウスケ!」

「小野寺ユウスケ、ただいま帰ってまいりました!」

 写真館では、いつも通り栄次郎のコーヒーがユウスケ専用のカップに注がれて湯気が立ち込めている。

「おかえりなさい。」

 湯気の先にどうやら機嫌を直した光夏海の暖かい笑顔があり、

「いいのか?八代のアネサン、別れ際にまた会える?とか聞いてたろ。けっこう脈があったんじゃないか。ホレ。」

 背を向けて2眼をイジっていた士は、出来たばかりの八代の写真をチラつかせた。
 写真を士から強引に夏海が奪い、夏海は栄次郎やユウスケと共に眺め、笑い合った。

「おお、中々男らしい面構えになったな。」

 3人が覗く写真は、いつものごとくどうしようもなくブレている。左には芦河ショウチがやや後ろに立ち、右には上半身が見切れたユウスケがヘルメットを持っている。それを中央から眺めるのは八代淘子。八代の姿は2つダブリ、左でちょうどショウイチと並ぶ形の八代は屈託の無い笑顔を向け、ユウスケを眺める八代は凛々しかった。

「そうかな。オレも大人になったかな。」

 というのは士。

「誰がどう見ても士の事じゃないよ。」

「ユウスケ君だよ。」

 ユウスケ達が士を指差して笑った。

「八代さんは、いいの?」

 夏海の言葉はひどくユウスケを傷つけたが、ユウスケは呑気な顔で対した。

「いいからいいから。やっぱりここが一番。」

 八代と一言も言えなかったユウスケ。そんなユウスケに再度コーヒーを注いでくれる栄次郎。そして笑顔を向ける夏海。だが士はただ背を向けてカードを一枚眺めていた。

「このカードにアギトと電王のシンボルが加わった。空いているスペースは2つだけ。後2つの世界を回るのか。」

 そんな士を余所に、ユウスケを周回する白いワッペンのようなコウモリが1匹。

「キバーラがイチバン、だよね。」

 ユウスケは自分に妙に懐いてくるその人でも動物でもないモノに、小首をかしげる態度しか示せなかった。

「行こうか、士。次の世界へ。」

 そう話を換えるしかないユウスケ、平手を突き出す。

「当然だ。」

 ハイタッチする士。2人の男の儀式が完了した。

 士背後のロールが独りでに下がる、

「また訳のわかんない世界だな。」とユウスケ。

「もうここやキバの世界みたいなメに合うのはたくさんです。」と夏海。

「太鼓・・・・」

 士は唖然とした。いままで殺伐としたライダー達の世界と打って変わった風景画だった。深く先が見えない森、木々の1つ1つは植生ではありえない歪曲した幹が力強く生えており、それら全てにコケが寄生している。だが問題はそこではない。
 手前に、盆踊りの時にでも使うしかない巨大な和太鼓が、見る側の疑問をものともせず堂々と居座っていた。

0 件のコメント: