2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その1









「音撃打、火炎連打!」


 屈強な背筋が紫紺に染まる戦士が『音撃棒』を振りかざす。

 狙うは魔化魍『牛鬼』。

 一撃、

 2本の角を額から生やした鋼筋の牛鬼が戦士の一打ちで沈黙、

 交互に連打、

 容積で言えば倍もある魔化魍を前に屈強の戦士が鉢を撃ち続ける、


「はぁあ!」


 締めの二連打、

 屈強な体格の割に、変声期前の高い声を上げる戦士、

 牛鬼の全身にその音の波紋が広がって、肉体から弾けて吹く禍々しい気、牛鬼の姿がおぼろげに変化し、1人のどこにでもいそうな男の顔が顕れる。


「ヒビキさん!」


 屈強な戦士もまた気を体外に拡散させ、生身の姿を晒す。その姿はなんと10歳前後の少年だった。


「・・・・・、よくやった、鬼の師弟は・・・・、いつの時代もこんな風に、伝承していったんだろうな、・・・・太陽が眩しいぜ・・・・この大気と一体に・・・」


 どこにでもいそうな40前後の中年が俯せの全裸で、少年に語りかける。その声はか細く、瞼は静かに閉じられていく。

 そんな中年に、あのショッキングピンクのボディスーツが、掌を1度祓って足早に近寄ってくる。


 蹴る、


「イテァェ、アニすんだ、コラ!」


 突如跳ね起きる全裸中年。ブルンブルン。


「ヒビキさん!」


「ウソ、清められて肉体が浄化しいてくはず・・・」


 唖然とする少年、そして少年が変身した姿と同じ身体を黒に染めた戦士達が4人、ユウスケや夏海もまるで奇っ怪なもののようにヒビキと呼ばれた中年を見つめている。もちろん全裸姿に対してではない。


「自分の弟子を舐めるな。このクソ中年。」


 ディケイドが目を塞ぐ夏海からタオルを受け取り、そのままヒビキにトスした。

 受け取るヒビキ。そして動かした手首から二の腕までを眺めやるヒビキ。


「これが、アスムの技か・・・・、凄いな、少年。」


 師が弟子にそう言った。

 アスムと言われた少年が、全裸のヒビキに駆け寄り、やや見つめ、そして顔を伏せた。


「・・・ヒビキさん・・・ぼくは、一生懸命生きてきたつもりです。もう弟子じゃないってヒビキさんに言われてから・・・」


「そうか・・・・」


「ヒビキさんに憧れてました。ヒビキさんに会ってから、ぼくはずっと・・・・・そして、ぼくもいつか、ヒビキさんみたいになりたいって……でも、それじゃダメなんじゃないかって気づいたんです。」


「・・・」


「ヒビキさんに何でも頼って、ヒビキさんの真似をして・・・・それじゃぼくが本当に良く生きてることにはならないって。それがヒビキさんが教えてくれたことなんだって。」


「・・・・お前にとって、この1年は無駄じゃなかったみたいだな。」


「ヒビキさん、ぼくは鬼にはなりません。」


「ああ」


「すみません・・・・ヒビキさんとは違う道を選んじゃって」


「アスム・・・・お前はおれと違う道を選んだんじゃない。お前は、お前の道を歩みはじめたんだ。自分を信じて、お前らしく、な」


「ヒビキさん」


「もう大丈夫だな、おれのそばにいても」


「ヒビキさん・・・・!」


 タオルを捩り鉢巻にして頭に括り付け、ヒビキは、そんなアスムの頭を撫でた。


「違うだろ!」


 そんなヒビキの鉢巻を指差し、全員が吠えた。

 ここは『鬼』が『魔化魍』を討つ『ヒビキの世界』。


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