2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その2







「違うよ」


 全員と口を揃えて愛嬌ある笑顔を作るユウスケ。だが彼だけが最初に感づく。


「なんだ?」


 振り返る赤ジャージ。背後は樹海へ繋がる光差さぬ森。


「この振動、」


 まず気づいたのはユウスケ。距離の問題ではない。ユウスケ内部の進化が、周囲の練達の鬼等を超えているのである。


「少年、気をつけろ、」


「デカイ」


 続いて気づいたのはヒビキ、そしてディケイド。

 そして鬼達全員が気づいたときには、その姿を森の暗闇から出現させていた。


「オノレディケイド!このヨロイグモが始末してクレルルルファ!!」


 一足くの字に曲げ上がるごとに大気が揺れ、大地も揺れた。それがなんと八足。虫にして昆虫ではない。頭胸部と腹部が玉のようになって2つ繋がり4対の歩脚で爆震。口の鋏角が始終動いて眼前のディケイド達を捕食しようと狙う。

 それは巨大な蜘蛛。

 ただの蜘蛛ではない。光沢放つ鎧に包まれたそれはヨロイグモ。その背に草臥れた帽子の鳴滝がしがみついている。


「ボクが、ボクが、」


「少年は下がれ、戦えないのが見てて分かる、」


「中年もだろ、戦えないのは。」


 圧倒的な質量の猪突に、鬼達の銃撃も、斬撃も一切が歯止めにならない。ゴミのように飛び散っていくヒビキとアスムの仲間たち。


 そんな大した奴じゃない、


「ユウスケ、早く逃げて!」


 夏海の声が聞こえない訳ではないが、その場からユウスケは動こうとしない。動かけないのではない、動こうとしない。


「これは、」


 ユウスケは徐に自分の腰を見る。既に出現しているアマダム。赤でも紫でもない。金色に輝いている。


「イケそうな気がする」


 そう思った時には既にボディが赤に染まり、あのクワガタを連想するマスクになっていた。ただし、所々金のラインが入って。

 ユウスケが変貌したクウガが右足を一歩踏み出した時、踵から放電現象が発し、右の脛に金のレッグアーマーが浮かび上がってくる。


「どけっっっ!」


 鬼達が金色に輝いて疾走するクウガに唖然とする。ディケイドは言葉が無いほどに驚いている。


「どりゃ!」


 全力の疾走から一足で飛翔、腕で膝を抱えて前転、ヨロイグモの構造的弱点、頭胸部中心に直上から降下、


 猛獣が重低音に叫ぶ、


 クウガの蹴撃からの加重で4対の歩脚が股関節から断ち切れ、落下した胴体の風圧で、周辺の樹木と人間が塵芥のように吹き飛びヨロイグモを中心に円を描く、クウガの肉体に光が差し金のラインが輝く、


 爆砕、


 あまりの衝撃に破裂するヨロイグモの肉体、肉片が爆風と共に四散、


「見たか、士!」


 親指立てて右拳を突き出すクウガ。

 その親指の力が思わず緩む。

 見渡せば、変身を解いて全裸で転がる鬼達、立ち上がってヒビキに肩を貸して起き上がろうとするアスム、


「なんだこの・・・、ユウスケ一人でできる破壊力じゃないぞ、」


 夏海を包むように抱きかかえなお寝そべっているディケイドの姿が、クウガのその複眼に同時に入ってくる。


 なにやってんだオレ・・・


 八代が傍にいたならば、まず考えていたことをつい忘却した。


 なんだ・・・


 自失というのはこういう状態だろうか、ユウスケの脳裏にめぐるクウガに似たシルエット、暗いシルエットはタイタンに近いもののなにかが違う、それがおぼろげに現れては消えた。

 まじまじと自身の両掌を見つめるクウガ。


「おもしろい!おもしろいぞディケイドっっっ!」


 爆砕した煙の奥、狂喜したのはヨロイグモからいつのまにか転げ落ちていた鳴滝。腕の一人振りが例の光のカーテンを出現させる。


「なんなんだ!」


 脳内が紡ぎ出す映像に苦悩するクウガを、カーテンが押し寄せもみ消した。


「ユウスケっ!バカヤロー!」


 ディケイドが頬に泥をつけた夏海を立ち上がらせ吼えた。


「やはりあの男をキサマの傍に置いたのは正解だったぁっ、これからだ、これからディケイド抹殺計画のはじまりだぁぁぁぁ!」


 そう言って自らもカーテンの中に身を投じる鳴滝だった。


「おい分かっているのか!おまえの仲間が魔化魍を沈める機会を逃したんだぞ、分かっているのかぁ!」


 全裸だった細身の男が鬼の姿に変貌してディケイドに詰め寄っていく。

 反射的に頭を下げようとする夏海を片腕で制するディケイド。


「俺たちはいつでもこうやって敵と渡り合ってきた。この世界の細かいルールなど知ったことか。」


 強弁を吐くディケイドに周囲が総毛立つ。


「どこがよ!これほど瘴気が拡散したら、音撃の効果が限りなく薄れる、当たり前だわ!」


「ああ細かいな、おまえらの見てくれほどにな。遠目で眺めたら誰が誰やら分からんぞ。」


 と居並ぶ鬼達を指差すディケイド。


「みなさん!今はここで口論しているより、拡散した魔化魍の肉体をできる限り清めましょう!」


 そう言ってアスムは再びヒビキへと変貌。

 ディケイド、カードを眺めている。


「分かった、要するにユウスケのケツをオレが拭えばいいんだろ。アスム、ちょっとくすぐったいぞ。」


『FINAL FOAM RIDE hihihiHIBIKI』


「あ・・・・」


 か細い声をあげるアスム変身体。ディケイドが背中に触れるとパネルが現出し、宙を浮かび上がり、頭がメカニカルに埋もれ、肉体が構造上あり得ない角度に曲がって薄い円盤上の物体へと変化する。これが『ヒビキオンゲキコ』。

 腰元あたりで浮かんだままのオンゲキコを眼前に、ディケイドはどこからともなくバチを2本両手に抱える、


『FINAL ATTACK RIDE hihihiHIBIKIii!!』


 打つ、


 オンゲキコから大気を伝って、土の中、木の一本一本に響き渡る音、鬼達の肉体にもその響きが伝わってくる。


「なるほど。じゃあオレも罪滅ぼしに。」


 とヒビキが既に変身し、音撃棒を両手にディケイドの反対に着く。


 一撃、


「いくぞ!」


 ディケイドが連打する、


「いいぞ青年、」


 その合間合間に重い一撃を加えるヒビキ。 二人のセッションは、森に響き、大地に響き、そして大気に隈なく澄み渡った。

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