2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その20







「おい!」

 鋭角な放物を描き、跳躍頂点で2体に分離するギャレン、バック宙して蹴り足で円を描きながら士へ降下。唖然とその軌跡を眺めるしかない士だった。

「士ぁぁ」

 横から飛びだしたのはユウスケ、体ごとぶつかって士を救う。2体のギャレンが落下、士とユウスケのいないコンクリートの大地を抉る。

「危うくだったな。これが人間としてのおまえの限界だ。このベルトは、オレが預かる。おまえが身の程を知るまでな。」

 ギルス、ディケイドライバーを自身のバックル、『賢者の石』へ封入。

「おまえ、」

 士はギルスを見た。イヤその背後へ視線を向けた。ギルスもまた士の挙動から背後に危機を感じた。

「倒されるのはおまえだ。」

 ピックが横腹、

「新手?」

 突如攻撃を受けたギルスは蹌踉けながらも、背後に立つ対手が先に倒したアントロードで無い新たな同種と見た。体が朧気に紫に光る以外全く同じ容貌だが、過去何度もアンノウンが同じ種数匹で集まって活動するところもギルスは見知っている。しかし気取りすら伺える流暢な日本語をしゃべり始めたのはどういう訳だ?

「イマジンが乗り移ったようだね。」

 何を言っているあの青いの?

 ギルスはアントロードの再度の攻撃を辛うじて躱す。心無しか眼前のアンノウンの動きに野生のキレが失せたように思える。その敵を指してディエンドが奇妙な事を叫んでいる。

「さっきのイマジンか、」

「イマジン、って何だ?」

「煩い、今は大体分かったと言っておけ!」

 士とユウスケは生身のまま為す術も無く戸惑っている。

「うぉぉりゃ」

 ギルスは鈍った敵に攻勢に出る。腕の鎌がアントロードの首を両サイドから引き裂く。

「オレは弱いモノイジメはしない主義だがな」

 平然とするアントロードは、悠然とピックを振るう。

「バカな」

 またしても腹を打たれるギルス、嗚咽感が口元まで届く、

「オレより弱いモノしかいなければ、仕方がないだろ!」

 連撃するピック、
 圧倒的な手数に怯んで防御一方になるギルス、闇雲だったが触手を伸ばす、
 これが上手く対手の動きを拘束、
 ギルス跳躍、
 踵落とし、
 踵の刃がアントロードの弱点、背の瘤に突き刺さる、
 吠えるギルス、
 反転するギルス、
 先程のアントロードはこれで瞬殺されていた。

「なんだこいつは、」

 かぶりを振って対手の不可思議さを再認識するギルス、

「こんな小賢しい事しかできんとは、やはりおまえは負けムードだ。」

 隙だらけにピックを肩に乗せなお平然としている紫のアントロード。

「イマジンには、ギルスの物理的な力は通用しない。多少アンノウンの持ち味を殺しているが、ギルスには、手も足も出ない。」

 ディエンドはまるで視聴者気分な物言いで、2枚カードを取り出して扇のように自分の顔を仰いでいる。

「何?くそ、」

 見殺しにされている事を直覚するギルスはもはや後退りし、2対1になる前に逃げるしかない事を悟る。

「主の手から零れ、雑音を出すのが悪い。」

 アントロード、ピックを投擲、

「ぐ」

 ギルスの心臓近くに刺さり、背へ貫通するピック、刺さったまま胸と背からダラダラと血が垂れ落ちる。

「は」

 跳躍するアントロード、蹴撃の態勢で突撃、

「士、らしくないぞ、黙って見ているなんて。助けるんじゃなかったのか。」

「大丈夫だからな。見ていれば。」

 士が指差した方向を眺めるユウスケ、見つけるのは光の珠。珠はまっすぐギルスへ突入、体内へ同化。一度ブルと震えて凝固するギルス、再び背筋が張り、おもむろに自らに刺さったピックを引き抜く。

「いきなりイテェェ、なんじゃこりゃぁ!」

 引き抜いたピックを降下してくるアントロードへ投擲、

「キサマか」

 ピックに絡まって態勢を崩し落下するアントロード。ギルスと約5メートルの間合いで転倒。

「あれ、まさか、この間の、」

 ユウスケに苦い思い出がフラッシュバックする。

「そう、あの赤いのだ。」

 士が親指で指したギルスは、まるで掃除機のコードのように先端だけ持って右腕触手をいっぱいに引っ張り出している。
 
「ニセ、オレの必殺技パート4!」

 触手を頭上で振り回し遠心力を込め、最後の一振り目一杯伸ばして立ち上がったアントロードを横殴り、食らったアントロードの頭が粉塵と化す。

「オレ、参上ぉ!」

 そして見得を切るギルスだった。

「赤いの、挨拶はいいから、そいつの腹からだな、」

 士はいままで貯まっていたなにかを吐き出すように思い切り頭をグーで殴りつけた。

「このヤロ、残念だが今は緑なんだ、見当違いもハナハナしいだ。こりん星の王子め。」

 甚だしいだ。

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