2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その31







「鳴滝、とか言ったな。本当におやっさんを連れてきてくれるんだろうな。」


 まだその時点での『仮面ライダーW』は、右半身を風を象徴する緑に、左半身を切り札を隠す黒で彩っていた。Wの特徴である片目のどちらかが明滅しながら喋る様は、そのシンプルな面持ちと相まって不気味である。今は左の複眼が明滅している。


 ワァハハハハハハハハハハ


 DDは相変わらずふざけたハイテンションで笑い続けている。


『翔太郎、念を押しておくけど、ボクはこの男に頼るのは気が進まない。』


 Wの右目が明滅し、先とはやや違う声色が流れる。2つの声、2つの意志、2の色でひとつの実体を持つ、それがWの意味だ。


「亜樹子を、おやっさんの娘を、泣かせたくねえんだ!」


 黒い方の左腕を軽くスナップさせ、100メートル5コンマ2秒でマフラーを靡かせ疾走をする。


「煩いっ、爺ぃの方へ行ってろ、」


 と言って夏海の背を推す門谷士は、眼前のWを見据え、ベルトを巻く。


『KAMEN RIDE DECADE』


「どんどんイクぜ!」


 打ち込んでくるW、軽く捌いて逆撃を加えるディケイド、だが既にWは合わせている、クロスカウンター、両者とも後退り、


「仮面ライダーW、『ガイアメモリ』の組み合わせで、9つというもっとも多様なフォームで柔軟に全てに適応できる、だがそのもっとも特徴的なのは、」


 ディケイド、ブッカーをソードモードへ、ステップして蹴り込んでくるWに待ちから伐つ、軸脚の腿に入る、


「ぐぉ」


 ディケイドの頭を越す形で宙を横回転、転倒するW、追い打ちをかけるディケイドを、倒れながら脚捌きだけで威嚇して反動で立ち上がる。その動きはストリートパフォーマーのよう。


『翔太郎、対手の攻撃を防いで手詰まりにしてくれるだけでいい。』


 右目が明滅する。同時にWの左腕がベルトからメモリを一つだけ取り出す。


『メタル』


 奇妙なシャウトは『ガイアメモリ』から。


「おっしゃ」


 左目が明滅して、銀に輝くメモリを差す。


『サイクロン メタルぅ!』


 左側に差すメモリのシャウトの方がやや感情的だ。

 華麗なビートがベルトから流れ、Wの左半身が闘士の意志を示す鋼色へ刷り変わる。


「あれも姿が変わったという事なのか、W。」


 Wの背から出現する一振りのロッド、全長を上回る長さに至る鋼鉄の『メタルシャフト』を軸回転させるW、ディケイドがブッカーで受け止めるもその高速のスピンに弾かれ、シャフトの反対側に即座に脇を伐たれる。


「速い、」


 呻いて蹌踉けるディケイドを尻目に、


『ヒート』


 続け様右手でメモリを入れ替えるW。


『ヒート メタルぅ!』


 軽快なビートを響かせて今度は熱き意志を示す赤に右半身を染めるW、シャフトはそのままやや両腕を開いて握り込む。


 伐つ、


 ガードを弾かれ伐たれるディケイドは一瞬脳震盪を起こす。


「なんてパワーだ、」


 それでも踏ん張るが、一振り一振り強力なシャフトの同方向からの攻撃に、ブッカーでなく、左の肩でガードするディケイドはしかし、ジリジリと後退る。


「このままブレイクだ。」左目が光る。


『まだ彼には余力がある。焦るな翔太郎。』右目も光った。


 連射するブッカー、


「2人で1人のライダー、知っているぞ。」


 至近でガンモードを食らってたじろぐW、持ち直したディケイドはさらに、


『ATTACK RIDE BLAST』


 さらに連射してWを引き離す。


「くそ、」


『だから、手を抜くな翔太郎!』


 片膝を地に着けるW。ディケイドの攻勢はカードの連動によって続く。


『ATTACK RIDE ILLUSION』


「分裂しやがったっ」


 Wは唖然とする。はじめて見るディケイドの分身、視界270度に広がるディケイドイリュージョンを。


『慌てるな翔太郎、検索は既に完了している。』


 右目が明滅すると同時に、バックルからベルトを二つとも差し替えるW。


『サイクロン トリガーぁ!』


 右が風を象徴する緑、そして左は銃撃手の静かなコンセントレーションを表す青に塗り代わる。同時に青のボディ胸元にSMGクラスの銃が出現。その名も『トリガーマグナム』。


「風が、」


 突如十数に分裂したディケイドに横殴りの強風、いやWを中心に緑の渦が巻いている。堪えるすべてのディケイド、つまり動きが停滞した。


「ぶっ放すぜぇ。」


 右腕一本抱えたマグナムで扇状に弾幕、極限まで速力を強化した弾丸が一瞬で数百発射され、十数のディケイドが1体を除いて全て消え跳ぶ。


「が」


 残ったディケイド、本体が宙を舞って転がった。だがその勢いを殺さず屈みながらの姿勢になったと同時にカードを差す。


『ATTACK RIDE INVISIBLE』


「消えた、どうする相棒、ガジェットは持ってきてねえぞ。」


 ディケイドの姿がWの視界から消える。一瞬狼狽えるW、


『落ち着け翔太郎、彼は手詰まりになると数あるカードの内、自分のオリジナルの技を選択し一旦場を制する。想定済みだ。』


 左のメモリを抜き、マグナムセンターにあるスロットに差す。


『トリガーぁ!マキシマムドライブっ!』


 メモリから発せられる渋い音声と共に再び風がWを中心として渦を巻く、マグナムを片手で上向け、その渦をゆっくりと臨むW、


『FINAL』


『気流の流れが乱れている一帯がある、それが彼だ。』


『ATTACK』


「いねえ、いねえぞ相棒、」


『RIDE』


 ディケイド必殺の光の壁がWまでの道を展開、それは、


『想定内だ翔太郎、上だぁ!』


 W直上、さらに上に向かって整列する光の壁が視界に入る、


『dededeDECADEee!』


 はるか高々度から直下してくるディケイド、


「『トリガー、エアロバスターっっ!』」


 対空迎撃、ディケイドに向かって直上へ小型の竜巻が数条射出、


「ぐぁ」


 地上スレスレで巻き起こる爆破、吹き飛ばされるW、跳ねるディケイド、


『ルゥナ、メタルゥ!』


 転がりながらもWの右が幻想の月をイメージする金色、左が闘士の鋼色へ塗り代わり、同時に先のメタルシャフトも出現、転がる電波塔の残骸に突き刺し、爆圧を堪えた。


「これがW・・・」


 一方瓦礫の起伏に背を強く打って窒息気味のディケイド、


「縛につきな破壊者。」


 Wがシャフトを遠心力を込めて振る、すると不可思議な事にシャフトが軟質化し、それどころか容積が伸び、まるでムチかヘビのようにディケイドへ巻き付いた。拘束され身動きがとれないディケイド。


『翔太郎、彼にトドメを刺した方がいい。捕らえて鳴滝に引き渡す君の考えは甘い。』


 風すら無かった。


「戦士には向かないタイプだな。」


 Wに密着して紅いライダーが立っている。


「な」


 何者、と翔太郎が言う暇すら与えられなかった。意識する事すら許されず、顔面の痛みと共に翔太郎は宙を舞っていた。翔太郎の視界には、自分の気に入りのソフトフェルトハットが揺れながら地面に落ちている光景が映った。


「だらしがないぞ。」


 カブトが同時性を破綻させ急接、腰からWのドライバーを奪い、軽く装着者を吹き飛ばした。装着者の中折れ帽の青年は哀れ丁寧に扱いたジャケットを泥塗れにする。

 一方のディケイド、頭を上げて何かを認め、凝固した。


「おい、それどころじゃないぞ。」


 カブトに向かって語りかけるものの、視線は前方の一点を捉えて凝固していた。


「ディケイドゥゥゥ!最初からザコ2人に頼ってなどいないわ!やれ!アルティメッッットクゥゥゥガァァ!ブルぁぁぁぁぁ!」


 ディケイドとカブトの眼前に、黒い影が立っていた。深く深く塗り込められた漆黒と4本の角、肩アーマーと共に上に向かって角が伸び、それはさながら暗闇の中で明かりを灯した時できる影のよう。影は無機質に右腕を上げる、


 発火、


 2人のライダーの直近を数十という火球が突如わき上がる、もんどり打って転倒するライダー、


「ユウスケ・・・・」


 首を振るディケイドの耳に少女の黄色い声も聞こえてくる。その眼はカブトが立ち上がり、今にも黒い影に挑みかかろうとする姿を捉えている。

 ディケイドは、黒い影を、変わり果てた男の姿を正視する事ができなかった。


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