2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その32







 カブトが運んできた人達の様子を見ていたお爺ちゃん、あの姿を見て急に私の元にやってきて、なにかわめいて私の手を引っ張っている。

 あの時、ユウスケと士クンがはじめて出会った時、私はイヤな予感のまま叫んでいたっけ。

 今、イヤな予感がそのままの姿で私の前に現れた。

 どうしてだろう、声が出ない、

 こんなに震えているのに、こんなに涙が出ているのに、喉の奥が詰まって声にならない、

 もうどうしようもない、

 私は、絶望しているの?


「ぉうわ」


 私の膝に中折れ帽が当たった。眼前にカジュアルなスーツを着た士クンと同い年くらいの子が転がってきた。ライダーだった人。 私、咄嗟に帽子を拾っていた、そして起き上がるその人に渡していた。


「ねえ、アナタ!ライダーなんですよね!あの2人、士クンを、士クンとユウスケを戦わせないでっ!あの2人が戦ったら、戦ったらっ」


「落ち着けそこのかわいい子、あの下品なピンクが門谷士、ユウスケはあのオレの顔入れた奴か?」


 私は黙って、あの黒いクウガを指した。


「2人が戦ったら、世界が破壊される!」


 私の動悸も脈の乱れも止められなかった。たぶん大声で叫んだんだと思う。士クンが、一度だけ私を見た。

 その人は私の唇に一本指をあてがった。


「落ち着けってかわいい子、とにかくここは逃げろ、そこの爺も。確認だが、そりゃ依頼だよな?」


 このガキ何言ってんだろ。


「依頼?」


 このガキ逐一かっこつけて怒らせたいんかい、


「オレゃこう見えても、探偵、なんだ。依頼なら受ける、ぜ。」


 なんでもよかった、肯いた。


「世界の破壊者を倒す事が世界の破壊・・・メンドくせぇ、フィリップに聞くしかねえ。スタッグフォン通じんのかよココ。」


 ガキはブツブツ言いながら中折れ帽を被り直した。そのキザったらしいポーズが癇に障る。大きすぎる衣着てるガキ。でも私、依頼?してしまった。


「夏海、危ないよ。」


 そういえばずっと隣にお爺ちゃん、いたんだ。私、ひさしぶりにお爺ちゃんの顔を真正面から見た気がする。


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