「電波投げ」
赤き女戦士タックルが雪原に立つ。彼女はクウガが立ち上がる度に両腕を無空に振りかざし、見えない衝撃によってクウガを宙に飛ばし地に叩きつける。
「電波投げっ」
仮面ライダーストロンガー。それが彼女のパートナーだった。この世界に共に飛ばされ、あるいはあれが愛情のふれ合いとも言える毎日を過ごしながら、ある夜突如あのクワガタの化け物が現れた。
「電波投げ!」
そのストロンガーがクウガと対峙した時、彼女は変身した途端にボウガンのようなもので攻撃を受け失神、気がついた時にはストロンガーは断末魔の叫びを上げていた。
「電波投げっ!」
彼女は一定の距離を置いて尾行し機会を待った。観察していく内にクウガは本能で強力なものを求めて戦い続けようとする事に気づく。この強力なライダーが集う世界で、そんな事をすれば必ず致命的なダメージを負う。彼女は敵がボロボロになるまで根気よく待った。
「電波投げっっ!」
途中、鳴滝によるオーロラの壁によって運ばれた時は途方に暮れたものの、この世界の破壊者が電波塔を目指しているという噂を聞いていたタックルはまっすぐにここを目指し、エレベーターが降りてくるのも待たず一跳躍でこの二段目まで登った。辺り一面白景色に変化した時は戸惑ったがそれも一瞬、逆に白の景色の中一点染みのように黒い姿を見つけるのは容易い事だった。
「電波投げっっ!!」
「あの無敵のクウガをここまで、あの女こそ最強だとでも言うのかぁ!」
鳴滝、DDは呻いた。遠距離からの射撃は吸収され、触れればどんな一瞬であろうと肉体を変換される。そんな無敵な存在を、たった1人のか細い女が圧倒している。電波エネルギーを照射して大気を揺すってクウガの肉体を投げ飛ばす。こんな見えない掌の攻撃が、あるいは唯一クウガの攻略手段かもしれない。
ォォォォォォォォォォ
クウガ、左腕が無く左の大腿が折れ、それでも立ち上がり残った右腕を振り上げる。
「おまえの動きは見切っている、」
クウガが掌をタックルへ、
タックルは両腕を振り上げる、
タックル眼前で炎が巻き起こる、パイロキネシスだ、
だがその炎はタックルに届く事なくかき消された、電波投げの応用だ、
「エイ」
タックル跳躍、これもまた両腕を振り上げて。
「電波エネルギーで自らを動かすのか!」
一瞬で見えない点になる程上空に達するタックル。
頭上にパイロキネシスの弾幕を張るクウガ、 だがタックルは降下しつつなお電波エネルギーの波動を送って炎の渦をかき消し、さらに上空からクウガへ向けて波動を叩きつける、
「ヤァー」
クウガの体表面が変化していく。甲殻的な角やアーマーは萎びていき、軟質の部位には水ぶくれが泡のように沸き立つ、その赤い複眼から煙が吹き表層が沸騰する。
「体内の水分の極を揺すって加熱している、いつものクウガならば、オレがここまで負わせたダメージが無ければ、」
DDは立ち上がり、思わず目を塞いだ。
「トゥォォォォォ!」
腕から落ち、クウガの首に絡みつくタックル、クウガはその衝撃に耐えきれず、右の膝が地に着く。
「ウルトラサイクロンっっ!」
両腕をしかと絡みつけ、乳白の光となる。あまりの眩しさはタックルのボディラインを隠してクウガを呑み込もうとする。
「自らの肉体を電波エネルギーで発光し、敵に電波エネルギーを送りつつも自らをエネルギーの塊としてっっ!」
DDは言いかけて背を見せ小走りに駆け出す。その圧倒的な破壊力を想像できたからだ。
duuuuuuuuuuuuuuuuu
クウガはもがき振りほどこうとして残った片腕を振り上げ、タックルの頭を撲打する。
しかし命を込めたタックルの両腕は依然千切れる事はない、
「シゲル・・・、」
それどころか圧倒する熱量でクウガの肉体に癒着しつつある。ただ彼女の仮面が縦割れし、素顔を晒した彼女の額から出血が滴るのみ。彼女はただ愛するストロンガーの名前を叫び、彼の為に命すら惜しまない自らを喜んだ。
「アネサ…………」
クウガの動きが止まる、呆然としている。 白光の中、その眼前に映る顔は、この男にとって懐かしい、求めて止まない顔そのものだっだ。やや疲労感のある細い輪郭、小さいもののはっきりと意志の感じる目元、やや自己主張する前歯、ストレートの黒髪、
この世界のアネさん……、
なんでそんな目でオレを見る、
オレまた叱られるような事をしたか、
アネさんには笑顔で、
笑顔でなきゃいけないのに、
彼の抱えた琥珀色の思い出が、全て血塗られたトラウマへと反転していく。
「シネ!私とトモにっっ!」
アネさんを笑顔にしたかっただけなのに……
クウガの心が、その時閉じた。
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