2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その26







「ライダースティング」


 無防備のディケイドの眼前、ザビーのおぼろげな影が立つ、


『RIDER STING』


『KAMEN RIDE DENO CLIMAX』


 蜂型ゼクターを装着した左手首、突き出すザビー、


「はぁ!」


 ザビーの複眼が全て炎の反射で埋め尽くされた。炎の中から火の粉のように弾き出される人影、ザビーはそれが先のライダーとまるで違う姿である事に戸惑いを覚えた。


『FINAL』


 ザビーの支配する時空間で、焦れったい動作で一旦宙を浮き、放物を描いて落下しようとするディケイド-電王。


「これがこいつのキャストオフ?」


 その4つの顔をもつ敵に生理的な嫌悪を抱きながら、ザビーは再びゼクターを捻る。


『RIDER STING』


 1度どころではない、掬い上げに1撃、宙を舞っているところ1撃、そして横に跳ねた着地点に先回りして叩き落としにさらに1撃加えた。


『ATTACK』


 だがディケイド-電王は、無様ながら無重力を遊泳しているかのようにスローに宙を舞っているだけ。傷一つない。


「どうして、ダメージがない?」


 ヒッティングの手応えは確かなのに、相手を絶命させる事ができない。だがしかし、クロックアップのタイムリミットに追われ拙速に撃ち続ける選択せざるをえないザビー。カブト系ライダーの宿命であった。


『RIDE』


「なにをしている!?」


 ザビーは気づく。いつのまにかディケイド-電王の所々に張り付いているグロい仮面が一カ所、右肩から右掌にかけて整列している。


『dedede』


 ディケイド-電王、ザビーの強烈な対空迎撃で宙を高く舞って、優雅に一回転、足を揃えて着地しつつある。


「ええい!」


 ザビーは頭に血を上らせてディケイド-電王の急所を狙う為敢えて前に踊り出て、再び必殺技を繰り出す。蹴りでも弾丸でも無い拳のヒッティングは、そのもっとも自在できめ細かい命中精度が真価なのだから。


『CLOCK OVER』


『DENO CLIMAXuu!』


『RIDER STING』


 両者が対峙し、互いの右拳がほぼ同じタイミング、同じ速度で繰り出され、互いの胸を狙う。

 それはクロスカウンター、

 両者ほぼ同時にヒッティング、

 受け止めるディケイド-電王、

 反動で跳ね飛ぶザビー、


「ミサキーヌっ」


 紫のライダー、傍観していたサソードが前から後ろへ視線を移す。

 ザビーは甲高い音を立てながら、網目の踏み板を歪めて跳ね転がり、仰向けに顎が上がって起き上がれずにいる。脇に当たる装甲が砕けている。おそらく肋骨を何本か持っていかれている。


「おかしい。」


 ディケイドが姿を戻す。自身の右手首を握り込み、その右で足下のライドブッカーを拾い上げる。

 ディケイド-電王、電王の精神体としての能力を纏う事で、精神体を前にしたディケイドが手こずった、物理的なダメージを受ける事が無い。それは精神体と実体の相互干渉が無いという事であり、逆に精神体から実体への攻撃も触媒となる契約者と一体にならない限りダメージを負わせる事はできない。つまりディケイドのこのフォーム、実体系最速を誇るカブトの世界に対して鉄壁の防御を誇るものの、ほぼ無力の幽霊と同じであった。


「キサマ、ミサキーヌを、」


 サソードが振り返ってその得物を祓う。その刃から粘度の高い液体が飛び散った。


「こっちに関わらず、あの女は自分の力をまともにカウンターされたはず。装甲一枚じゃ済まないはずだ。それがあの程度なのは、やはり、オレの腕が痺れて押し負けたって事なんだろうな。電王は加減がわからん。」


 腕の痺れ。ディケイドはマジマジと自身の右腕に一閃入った傷と、サソードの刃の液体の交互を見比べた。


「ディスカリバーの錆にしてくれる。」


 勝手にネーミングしているサソード。クロックアップで鎬を削るライダー同士の戦いにおいて、対手よりも速くあるよりも対手を遅滞させる事に主眼を置き、神経毒によって刃を引くだけの傷を負わせる事で多少のスペック差があろうと関係なく勝敗を推移できるライダー、それがサソード。大気に毒液を飛散させショッキングピンクの対手に突進。


「くそ、やつが3人に見えるぞ。」


『KAMEN RIDE HIBIKI』


 一方ディケイドはショッキングピンクからマジョーラパープルのディケイド-響鬼へ。


「二刀流など小賢しい!」


 腰元水平に構え突きで向かってくるサソード、


『FINAL ATTACK RIDE hihihiHIBIKIii!』


 既に連続投入しているディケイド-響鬼、両腕の枹を大上段に構えるその筋肉の撓りが音として聞こえてくる。

 サソードの刃が喉元に迫る寸前、弁髪めがけて振り下ろされる2本の枹。


『CLOCK UP』


 枹が空を切り、そのまま地面に叩きつけられる、地面には光の鼓が浮かぶ、一打加えると甚大な音撃の波紋が全周に迸る。しかし同時性を破綻させたサソードは消えたまま捉える事ができない。


『RIDER CUTTING』


 刺さる、

 現れるサソード、それはディケイドの後背、

 ディケイド-響鬼の肩口から振り下ろされ深々と毒液を流しながら刺さる片刃刀剣、


「はぁぁっ!」


 打ち下ろす2打、

 だが構わず光輝く鼓に向かって枹を振るディケイド-響鬼、屈んだ腰から背筋、肩、腕が隆起して両腕を伝って枹に注がれる、

 広がる波紋は、サソードの肉体を通過し、倒れるザビーの距離まで達する。


『CLOCK OVER』


「抜けん………、なんだっ!熱いっ!」


 サソード、薙ぎ入れた得物で振りかぶり二の太刀三の太刀を繰り返すはずが、全く動けず動揺しついには時間切れを起こす。それどころかスーツが異様に蒸せ、思わず得物から手を放す。スーツの節々から毒液と同じ色の蒸気が吹き上げ、ついには転倒して転げ回って悶えるサソード。


「オレが響鬼を選んだ理由は3つ、」


 立ち上がり、刺さったままの剣をその身から刃を持って引き抜いて、剣に装着されているゼクターを抜き取るディケイド-響鬼。片肺を縦断している傷が見る見る内に癒着し傷の位置がもはや分からなくなるほどに回復する。


「ナニヲ、・・・・・なにをしたぁ!」


「音撃というそうだ。ヒビキの世界でな。」


 悶えるサソードのスーツが消え去り、華奢で唇のやや色暗い青年が顕れる。だが超熱地獄から解放されてもなお起き上がれなかった。

 士が響鬼を選んだ理由は3つ。

 一つは回復力、毒すら即座に治してどれほどのダメージもものともしない治癒能力。もう一つは身体、太刀をどこに受け止めても放さない鍛え抜かれ自在に動く肉体。そしてもっとも決定的な最後の一つは音撃。ザビー、サソード共近接しなければ攻撃できない。音撃を全周に張れば、どれほどの速さで動こうと、その音の波紋、音の障壁を潜るしかディケイドを倒す術が無い。そして音撃には別の面がある。


「音・・・・・・超音波で、そうか・・・」


「おまえの決定的な敗因はレンジでチンじゃあない。惚れた女の身体を放置して、勝ち負けのメンツにこだわりオレに向かってきたところだ。恋人ごっこの連携では、オレに勝てないのさ。」


 片刃刀剣を破棄すると同時にショッキングピンクの姿を顕すディケイド。その片手で動かなくなったサソリ型のゼクターを弄んでいる。名も知らない若造が失神しているのを見て取り、同じくいつのまにかハチ型のゼクターが転がって装着の解けたボンテージスーツの女へ足を向ける。


「ラッキーだったよおまえは。毒液、特に神経毒はイオンとして電荷を持つケースが多い。だがマイクロ波を吸収して振動する十分条件ではない。マイクロ波を出す事自体ぶっつけ本番だったんだじゃないか。だが、オレの方がラッキーだ。」


 聞き慣れたキザな声だった。エレベーター横の非常階段。黄金の剣を振りかざした濃厚な黒のボディ。

 振り返るディケイドの手元からサソードゼクターがこぼれ落ち、踏み板を小さな金属音をさせて伝って黄金剣の柄にしがみついた。ザビーゼクターも同じ、舞い上がって羽音を立てて周回し黄金剣先端に留まる。


「どうした、日焼けサロンでもしたか?」


 ディケイドの眼前に、再び現れる仮面ライダーカブト、いやダークカブト。


「まあ、そんなもんだ。」黄金剣で指すDカブト。「さっき青いやつが去り際に言っていた。おまえが、ハイパーゼクターを持っているとな。オレはラッキーだ、詰んだも同じだからな。」


 ディケイドは腰裏からハイパーゼクターを手にし、あからさまにカブトに見せつけた。


「おまえの事は大体分かった。この世界でおまえに敵うライダーはいないかもしれない。しかし、この世でおまえに勝てるライダーはいくらでもいる。それをいつまでもお婆ちゃん離れできんおまえに見せてやる。」


 2人の戦いは既に始まっている。


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