2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その23









「婆さんにそんな理由が・・・・」


 士がディケイダーを転がして向かう先は電波塔。液状化した路面の起伏を読みながら疾走するのにもそろそろ飽きてきたその時、瓦礫の風景に立つ人影を見つける。人影は、天井方向に銃を向け1発放った。


『KAMEN RIDE DIEND』


 それは屈託なさ過ぎる笑顔の海東、つまりディエンドだった。


「おまえ、またオレに邪魔されたいのか!」


 ブレーキをかけ、イタズラにスレスレで停めた士もまたドライバーを腰に巻く。


『KAMEN RIDE DECADE』


 シアンブルーのディエンドはわずかにディケイダーのカウルが接触したものの動じていていない。


「君が欲しいと思って用意してあげたんだ。」


 マゼンダピンクのディケイドは降車して、ブッカーをガンモードにした。だが実際士は間違っても撃ち合う事がないと直感していた。安心していたのかもしれない。


「何を?」


「正確には、君と対立するカブトが求めて止まないものさ!」


 ディエンド背後よりオーロラのカーテンが迫る。ディエンドが潜るとその姿がディケイドから見えなくなり、そのままカーテンはディケイドをも呑み込んだ。満天の青空広がる細かな格子状の円盤だけが広がる金属の展望台、ディケイドはそこが電波塔最上階である事も、空間の歪みが最上階だけは緩和されている事も、認識するのに若干の刻を要する。


「ボクにとって、君があの2人のゼクターを持っていてくれた方がマシなのさ、士!がんばってくれよ。ボクの為に。」


「海東、余計な事を。」


 士は直覚した。海東はソウジと自分を徹底的に咬み合わせたいのだ。


「もしやヤツの狙いも同じか?」


 だがそんな疑問を処理する間も無く、士の眼前には2人のライダーが立っている。いつもの事だ。


「ミサキ~ぬ。あいつを倒せば、このボクの愛を受けてくれるか~い。」


 1人はパープルに全身を彩った、頭頂にサソリの尾のような触角を持つ『サソード』。その得物は片刃刀剣『サソードヤイバー』。


「私、貴方と出会えて変わった気がする。返事は、考えてあげてもいいわ。ツルりん。」


 もう1人はどうやら女。その黒地を縦に割るようにメタリックイエローを配した彩色の『ザビー』。左手首には、ハチ型のゼクターらしきものが、ヘラクスやケタロスと同じように備わっている。


「海東、厄介事を全部押しつけやがって。」


 ブッカーを開いて親指を強く押し出すようにカードを2枚取り出し、一振りでブッカーを閉じ再びブッカーガンモードを構え直す。だがブレイドや龍騎のそれに比してすこぶるオペラビリティが悪い。つまり大きく隙を生じる。


「ゼクトマイザーは、ザビーにこそふさわしい。」


 女声のザビーが握る野球のグローブ大の『ゼクトマイザー』、扇状に4つのポートを展開させて、ポートの先端一つ一つから、小さな虫のような誘導弾『ザビーマイザー』を放出、次々打ち出される数十の豆粒大のそれらは、


「くそ、うっとおしい」


 フリーランスな軌道と圧倒的物量で掠めてまとわりつき、視界を塞ぎ、うっとおしい羽音を立て、ディケイドの動きを抑止する。


『CLOCK UP』


 ドレイクが剣を正眼に消える、


『CLOCK UP』


 ザビーがボクシングスタイルで消えた、


「なにっ」


 ディケイドの左サイドに突風でも吹いたような衝撃、思わずブッカーをこぼし、胸元が大きく空く、ディケイドの視覚に捉えきれぬ紫の影が左腕を大きく弾いて駆け抜けた、


「ライダースティング」


 無防備のディケイドの眼前、ザビーのおぼろげな影が立つ、


『RIDER STING』


 蜂型ゼクターを装着した左手首、突き出すザビー、


「はぁ!」


 ザビーの複眼が全て炎の反射で埋め尽くされた。


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