2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その22







 海抜65メートルに立地した電波塔は地上高165メートル。日本で言えば6番目に高い塔であり、4番目に高い電波塔であった。塔の軸として鉄筋コンクリートのほぼ直管のチューブに4方向から鉄骨トラスで支え、上から眺めると十字に見える。頭頂部に3段の円盤状の展望台があるものの、本質的にアンテナやライトを設置する為のものであって、人が立って行動するには安全上問題がある。

 それが日本を壊滅させた「巨大隕石」と、世界を壊滅させた「時空渦」を経てなおこの荒廃した地に建っている。


 Oooooooooo!


 『クウガライジングマイティ』がオーロラのカーテンが素通りした時、クウガの全身が強風に揺れる。そこが電波塔展望台の2段目である事をクウガの知能は既に理解できない。


「フハハハハハハハハハハハハハハハ」


 電波塔中央の軸塔に埋め込まれる形で施設されているエレベーターよりせり上がってくるのはあの鳴滝。萎びた帽子と黒縁のメガネ、腰には既にドライバーを巻いている。全裸だ。


「おまえが、ここまで強力になるのを、待ち望んでいた。おまえを捉える算段も手札も、全て揃えた。おまえはディケイド討伐の切り札として私に囚われるのだ、私の深慮遠謀に酔い痴れるがいい!」


『KAMEN RIDE DARK DECADE』


 纏わり付くDDスーツ。

 DDが一歩踏み出すと鉄格子の床が一面雪原へと変わる。


 Fuooooooooooッッ!


 クウガはその記憶の断片に酷似した姿に頭を抱え悶える。


『KAMEN RIDE SUPER ONE』


『KAMEN RIDE KETAROS』


 その隙を突くように、2体のライダーを召喚するDD。


「まずは遠距離からだ」


 スーパー1、右腕を突き出し円を描く。


「チェンジ、エレキハンド!」


 ケタロスがクナイガンを抜いて逆手で握り、手首のゼクターを捻る。


「ライダービート!」


 そしてDD、ブッカーをガンモードに、カードを1枚ドライバーに収める。


『FINAL ATTACK RIDE DARK dededeDECADEee!』


 エレキハンドから稲光が迸り、

 クナイガンの閃光が唸り、

 そしてブッカーの弾が光の壁を幾枚も透過してクウガに向かう、

 それはまさに一斉砲火。

 全ての光がクウガの腰のベルトへ集約していく、


 Gooooooooooooooooo!


 いや集約されていく。

 人語でない叫びを上げて、その体皮を紅から漆黒へ変貌させていく『アメイジングマイティ』。


「やはり、エネルギーはヤツに力を与えるだけ。ならば肉弾戦ならどうだ、」


 スーパー1に向け顎を振るだけのDD。

 スーパー1跳躍。


「スーパーライダーぁぁぁぁ月面ンンンンンンンキッッッッィィィィクゥ!」


 宙でポーズを決め、次いでムーンサルトしてクウガに降下、

 無防備にヒッティング、

 だがその瞬間、

 スーパー1のボディが見る見る変色し、クウガ手前で石化して落ちる、

 それがスーパー1の生命活動の最後となった。

 クウガの胸には、スーパー1の足跡が煙を吹いて残るのみ。


「やはり肉体に触れるだけでも変換される。だがダメージは残る。ではこれならどうだ。」


 DD、今度はケタロスに合図を送った。


『CLOCK UP』


 ケタロス以外が悠然とスローにモーションする世界が展開。それは決して雪原の雄大さに合わせているわけではない。


「ライダービート」


 ゼクターを捻って即座に跳躍、宙にあって両足を揃え、全身を伸ばし、腰を広角に折る、くの字になったケタロスはなお宙にあって全身を回転、やや放物にクウガへ降下、

 クウガの首が見続けていても気づかない程の動きでケタロスを追う、それは超感覚の為せる技、

 切断、

 扇状に鮮血が散らばる、

 クウガから腕が一本切り離れ、悠然と舞う、


『CLOCK OVER』


 UUUUUUUUUUUoooooooooooooooっっっ!


 クウガが吠えた。


「やはりダメージは負わせる事ができる、しかし、」


 DDもあっという間に変化した状況を呑み込んだ。


「足が!足がぁ!」


 ケタロスであった。クウガの腕をそぎ落としたものの、その態勢のまま地面に倒れ、起き上がれないでいる。よく見れば両足が硬質に変化して直立のまま動かず、起き上がろうにもできない。仕方なくケタロス、もはや錘でしかない足を引きずって、できる限りクウガから離れようと必死である。


 GGGGGuuuuuuuuuooooooo!


 追いすがって片腕でケタロスの足を掴むクウガ、


 ぉぉぉぉぉぉ、


 見る間に全身が角質化するケタロス、それがケタロスの有機生命体としての最後だった。


「クロックアップで制する事ができんが、これならどうだ。」


 続いてカードを繰るDD。


『KAMEN RIDE KAMENRIDERBLACKRX』


 深緑のスタイリッシュなボディがクウガの眼前に立つ。


「リボルケイン!」


 野太い声を上げてベルトのバックルから『リボルケイン』を取り出すRX。


 JoJoooooooooo!


 既にケタロスを2メートル近いブーメランに変形させたクウガが、振りかざし、吠え、投擲。


「ウェィックアップ!ザッヒーロー!」


 腕組みして唄い出す鳴滝。

 一跳躍するRX、

 クウガ即近に着地、


「与えてくれぇぇぇぇぇ」


 RX背後より迫る巨大ブーメラン、


「黒いボディィィィ」


 身を回転させ遠心力で一旦ブーメランを弾く、


「真っ赤な目ぇぇぇぇ」


 その回転のままリボルケインをクウガ腹部へ、


「仮面ラァァァイダァァァァァブラァァァァェクRXっっ!」


 踏ん張り受け止めるクウガ、

 踏ん張り抉り込むRX、

 腹部を貫通した先から火花散るリボルケイン、


「仮面ラァァァイダァァァァブラッッッッッぁぁぁぁぁぁぁぁクRェXぅ!」


 Fo!


 クウガ吠える、火花が収まる、


「ん!?」


 RX右腕が見る間に変換、硬質化して二の腕へ連鎖していく。


「分かっていた。武器を使ったところで物質の変換は防げない、だが、ここからだ。」


 DDの息が上がる。


「キングストーン、フラッシュっ!」


 上半身の半分が硬質化するも、RX、バックルの輝きと共にボディが元の深緑に戻り、変化が逆走する。リボルケインの火花が再び飛び散った。


「アマダムとキングストーンは、それぞれの世界の重心、つまり等質の力を持っている。ライダーの中でも重心そのものなのは、1号、アマゾン、ブラック、RX、電王、そしてクウガとドライバーを持つ者だけだ。その先を見せてみろクウガ、そこから先が私が望む力だ!」


 RXとクウガの間、

 爆破爆破爆破爆破爆破、


 Doooooo!


「くぉぉぉぉ!」


 DDの叫びに呼応するかのように、両者の間のわずかな隙間にパイロキネシスが何発も弾ける。だがRXは顔面にすらまともに食らいながら微動だにしないでリボルケインを抉り込む。


「見せてみろクウガ、重心の中でももっとも特別な、重心を葬れる、ディケイドを葬れる力を!!」


 Wuuuuuaaaaaっっっっ!


 クウガの右拳が光る、

 RXの胸へ一撃、

 それでも怯まないRX、


「・・・・・・っ、ぉ!」


 だがしかし、徐々に同じ光が胸から拡がり、RXが全身を奮わせて、クウガから離れる、


「それだ、おまえはおまえ自身の世界で同じ2人の重心を葬った、おまえだけがこの世で特別なのだ、その刻印だけが!」


 DDの言う刻印、クウガの紋様がRXの胸からベルトへ奔流を迸らせ、


「ぐっっっっぉぉぉぉ」


 爆破っ!


 雪原に方円の窪みが出来る。

 DDが思わず顔を覆う。

 RXの最期は、キングストーンの内部爆破だった。


「見事だ、見事だぁディケイドぉぉぉ!」


 もはやなんでもディケイドの鳴滝は、眼前の、度重なる爆圧に苛まれ、腕が一本無く、肋骨がむき出し、角も片方しかないアメイジングマイティを指差す。徐にバックルを両手で開き、ブッカーを開いてカードを3枚取り出す。


「そしてこれでおまえを捕獲だぁぁ」


 だが仮面の中で確実に涎が溢れているであろう彼には、背後から近づいてくる者に感づくゆとりは無かった。


「電波投げ!」


「ハ、ぁ~」


 突如宙に舞うDD。数回錐揉みして、雪原を頭から突っ込む。そのまま失神したのだろう、動かなくなる。


「誰だか知らないけど、感謝するわ。ストロンガーの仇は私が討つ!」


 女の声だった。雪原に所々黒の紋がある赤いスーツ、吹雪く大気にミニスカートと露出した腿の肌。テントウ虫を模したその者は、


「電波人間タックル!」


0 件のコメント: